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読んだ気になっているが読んでいない本シリーズ番外編:2.『水滸後伝』
『水滸後伝』(ちくま文庫全8巻 施耐庵 駒田信二訳)
・『ガリヴァー旅行記』
(角川文庫ジョナサン・スウィフト著、 訳:山田 蘭)
・『西遊記』
(岩波書店全十巻 中野美代子訳)
・『南総里見八犬伝』
(言海書房(上/下) 丸屋おけ八訳)
・『水滸伝』
(ちくま文庫全8巻 施耐庵 駒田信二訳)
・番外編:『私家本椿説弓張月』
(平岩弓枝 新潮社)
と読んできて、シリーズ・番外編の2作目は『水滸後伝』。
「水滸後伝」(陳忱作、寺尾善雄訳 秀英書房 2006.3)
水滸伝の結末がわけわからんと書いた。すると、この記事を読まれた読者の方から「水滸後伝」と言うのがあります、と教えられた。別の結末が用意されているのだろうと、さっそく読んでみた。
上記、『水滸伝』のページの繰り返しになるが、一般に読まれている水滸伝には70回本、100回本、120回本の3種類があり、中国でも最もよく読まれたのが70回本だという。
70回本はアウトローが梁山泊に集まるまでの物語。100回、120回本は、梁山泊に集まったアウトローたちがその後どのような運命にあったのかを書いたものだが、結末はいささか読者の予想?期待?に反してあいまいで煮えきらない。
『水滸伝』とはアウトローが官に対抗してあった農民蜂起の一つの形としてあがかれた物語というのが、歴代の中国政府がとってきた解釈らしく、だから罪を犯して官に追われる立場になったアウトローたちが梁山泊に集まるまでの70回の物語は、農民が蜂起して結集するところまでを描き、これから何が起こるのか、期待感を抱かせた状態で終わる。その点で、政府も国民も、なんとなく許容範囲にあるのだろう。お互いは譲り合える中間、折衷案として妥当なところと言うか。
ところが、100回、120回本になると、梁山泊のメンバーの最後までを伝えており、梁山泊メンバーにとっては必ずしも成功とはいえない結末で終わっている。アウトローたちを主人公として応援してきた読者から見れば、何とも腑に落ちない気分のままに終わってしまっているのである。
梁山泊に集ったアウトローは頭領・宋江の思いを貫いて最後は官に帰順し、逆に官軍の主力戦力として他の地域を犯すアウトローと闘うことになる。中には広大な地域を略奪し国家を築いているようなアウトロー集団もある。そうした者たちとの戦いで、梁山泊の多くの仲間は討ち死にしたり、官に雇われながら評価を受けられずに制裁されたりと、不可解な結末で終わっている。その反面、メンバーを陥れた4人の悪官僚たちはそのままのさばり続けるという、何とも解せない終わり方をしているのである。
その結末に対して、何とか読者も納得できるような結末にしてやりたいという梁山泊ファンもいるはず、そんな要望に応えて作られたのが、水滸伝の後日譚。
水滸伝の続編は何種類化書かれているようだが、知られているのは3種類。なかでも最も読まれているのがこの陳忱作という。
原作は40回本だが、この訳本では20回本にまとめられている。
梁山泊の生き残り32人に、子息の4人、それに後に義兄弟として加わった好漢などを加えた44名が、運命の糸で結ばれるように集まり、山塞を築き、水滸伝本編のように縦横無尽に活躍する。この辺りは何となく偶然のできすぎのようなストーリー展開でもある。しかし、よく読めばこれは予告されていたストーリーでもあるのだ。
本編の水滸伝の第114回に、一部のメンバーは、首領・宋江が皇帝に罪を赦免されて官僚への復帰を望むのに対して、名誉回復より、「このままの気ままな暮らしがいい、反発して許されて復帰した人間でろくな終わり方をした人間はいない」という思いで、離脱しており、さらに海外に雄飛して成功しているメンバーもいる、と書かれている。この後日譚は、言ってみれば、この離脱したメンバーたちのストーリーなのである。
官に復帰した宋江たちは暗殺されてしまったが、フリーになったり、復帰しても複雑な思いを抱き続けていたアウトローたちがさまざまな機会に出会い、再度集結する。そうした中で一部のメンバーは、官の大型船を奪って海外に飛び出し、東の仮想の島国で大暴れをして最後は国王にまでなる、と言う話だ。
東の海に向けて出港するのだが、出港するのは、杭州近く、寧波あたりか? そのプロセスで、薩摩などにも誤着して日本人と争ったりもする。
着いた国は、シャムと書かれているが、14の島からなる国とされていて、薩摩に誤着したりするという、位置関係から言えば琉球あたりが想像されるが。
この続本の最大のポイントは、そもそも好漢(アウトロー)たちを梁山泊に逃げ込まざるを得なくした佞臣たち、蔡京、高俅、童貫、蔡政の4人組をしっかりと成敗している点だ。この点が、読者が最も本編で不満に思っていた点でもあり、後日譚で読者が留飲を下げる最大のサービスポイントでもある。
『水滸伝』の続編として必読書とは言わないが、なんとなく腑に落ちない読後感を引きずっている読者には、清涼剤としての役割は果たすかもしれない。