読書会「錦繍」師匠と弟子と友と

導入シーン

弟子:「さて、今日は久しぶりに読書会だね。前回話した『錦繍』について、今日はさらに深く語り合いたいと思ってるんだ。友も参加してくれるし、楽しい会になる予感がしてるよ!」

弟子の友:「そうそう、僕も久しぶりの読書会でワクワクしてるよ!どんな話が出てくるのか、今から楽しみだね。」

弟子:「それじゃあ早速始めようか。あ、師匠もいらっしゃったんですね!なんだか心強いです。今日も一緒にお話できるなんて楽しみです!」

師匠(笑いながら):「ふむ、呼ばれたような気がしてな。賑やかに楽しんでいる雰囲気が漂っていたから、少し混ぜてもらおうと思ってな。」



読書会の会話

弟子:「まずは、有馬が由加子に話しかけようとした場面の言葉を振り返りたい。これ、僕にはとても響いたんだよね。」

『そのとき、私がそのまま帰ってしまっていたらと、ときおり考えることがありますが、それが人生というものの持っているどうにも抗うことの出来ない罠のようなものなのでしょう』

錦繍 宮本輝

弟子の友:「ああ、そのシーン、印象的だったね。有馬が勇気を出して一歩を踏み出そうとする瞬間だよね。弟子も大学時代、一人暮らしを始めたばかりの頃、知らない人に勇気を出して話しかけたりしてたって話してたよね。」

弟子:「そうだったな。あの頃は、何かを成し遂げようと必死で、自分の存在を証明したかったんだ。すごい、肩に力が入っていた。今振り返ると、懐かしくて、少し微笑ましい話だけど、あの時の選択が今の自分を作ったんだなと思うよ。そして、『お前は、何者だ』みたいなことも言いたいかな。」

師匠:「人生の『罠』とはそういうものだな。選んだ道が今の君を形作っているが、選ばなかった道がどうなっていたかは誰にも分からん。しかし、その選択が意味のあるものであったことは、今の君を見れば分かる。」

弟子の友:「次に、『モーツァルト』のシーンを読んで、弟子が大学時代にピアノやギターを練習していたね。いろいろ教えてもらいながら、そして本も買っていたね。覚えてるよ。指が固くなっていく感覚が忘れられないって言ってたよね。」

 私は〈モーツァルト〉の御主人に教えてもらいながら、彼の勧めるレコードを買って、自分の寝室で夜遅くまで聴き入ったりしました。大阪の大きな本屋さんで、モーツァルトに関する本を買い込み、読みふけったりもしました。

錦繍 宮本輝

弟子:「うん、ピアノやギターを教えてもらいながら、毎日必死に練習してたんだ。ピアノと言っても、電子キーボードだけどね。あの頃は時間がたっぷりあって、何にでも挑戦できた。今は社会人になって、なかなかあんな時間を取ることは難しいけど、あの経験が今の自分の礎になってると思う。まったく、やったことなくても、やれば何かは、できるようになる。」

師匠:「若い頃に得た経験というのは、その後の人生に大きな影響を与えるものだ。大学時代の時間は貴重で、何でも挑戦できる環境が整っている。その経験を大切にするのは良いことだ。勉強も大事だが、経験を積むというのも大事だと思っている。」

弟子:「そして、面白かったのは、『一人で飲み屋に行くことってある?』っていう話題になったことだね。『私は銀座の安酒場のカウンターに坐り、閉店の時間までひとりで酒を飲みつづけました』っていうシーンがきっかけだったけど、僕も友も『一人で飲み屋に行ったことがないな』って言ってたよね。」

私は長い間足を向けなかった銀座の安酒場のカウンターに坐り、閉店の時間までひとりで酒を飲みつづけました。

錦繍 宮本輝

弟子の友:「うん、あの場面は、僕たちにはピンとこなかったね。一人で飲みに行くよりも、家でゆっくり過ごす方が性に合ってるかも。みんなでワイワイするのは楽しいけど、一人で飲むって感覚はないなぁ。」

師匠:「それは面白いな。一人で酒を飲むというのは、人によっては心を整理する時間にもなるが、君たちには静かに過ごす別の形の時間があるようだな。それもまた大切なことだろう。静かに過ごす場所。今では、サードプレイスと言うのかな。そこで、頭の整理をしていくという時間もいいもんじゃぞ。」

弟子:「最後に、『私は清高を不具なら不具のままに、出来うる限り正常な人に近づけるよう、何が何でも〈いま〉を懸命に真摯に生きるしかないではありませんか。』という言葉をもとに『業』について話し合ったことも深かったよね。」

私は清高を不具なら不具のままに、出来うる限り正常な人に近づけるよう、何が何でも〈いま〉を懸命に真摯に生きるしかないではありませんか。

錦繍 宮本輝

弟子の友:「うん、自分の『業』とは何かって考えさせられる。何を成すべきか、どんな生き方が正しいのか、男と女で感じ方が違うかもしれないし、その時によっても違うだろうし、その日の気分によっても違う。今日と明日で違うかもしれない。自分が都合の良いように解釈してしまうこともあるよね。」

師匠:「その通りだ。『業』というのは、自分の背負うものとして重く感じられるが、それをどう受け入れ、今を懸命に生きるかが肝心だ。『業』をどう捉えるかによって、人生の進み方が変わるだろう。」

弟子:「そして、幸せについても考えたよね。『亜紀はしあわせそうだとはお書きになりませんでした』という言葉をきっかけに、みんながそれぞれの幸せを語り合った。友はマラソンで4時間を切ることが幸せって言ってたけど、僕は家族とゆっくり過ごす時間が今の幸せだな。」

でもあなたは、亜紀はしあわせそうだとはお書きになりませんでした。

錦繍 宮本輝


弟子の友:「そうだったね。仕事で偉くなるとか、大きなことを成し遂げることが幸せとは限らないよね。僕も、今では身近なことに幸せを感じることが多いかな。」

師匠:「幸せというものは、その時々で感じ方が違うものだ。今はこの主人公たちと同じ年齢だから共感できる部分が多いかもしれないが、さらに歳を重ねればまた違った視点で物語を読み、幸せについても新しい考えが浮かぶだろう。今回の読書会で話したことも、将来振り返ると、懐かしい思い出になるかもしれん。」


終わりに

弟子の友:「今回の読書会も、本当に楽しかったね。『錦繍』を通じてこれだけいろんな話ができるなんて、本の力ってすごいな。」

弟子:「そうだね。自分たちの経験と照らし合わせて考えると、さらに深く物語が理解できる気がする。師匠、今日もありがとうございました!」

師匠:「こちらこそ、楽しい時間を過ごさせてもらったよ。また読書会がある時は、いつでも呼んでくれ。楽しみにしているよ。」

弟子:「もちろんです!次回も一緒に語り合いましょう!次は、中島敦の李陵・山月記を考えています。」

3人は笑いながらそれぞれの「業」や「幸せ」について考え、楽しい時間を共有した。また次の読書会に向けて、それぞれが新たな一冊を手に取り、心躍らせながら日々を過ごしていくのだった。

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