闇の承従 ヴォルフガング 7話「決戦、闇と光」

デレイラッド城の城内四階。

奥の部屋まで続く、全面白いレンガ造りの薄暗い通路を抜けると、同じレンガ造りの天井が高く広い場所。
それが謁見の間だ。

そこには、正面と側面の上部にステンドグラス。
四方には白い石柱と篝火(かがりび)があり、中央に赤い絨毯(じゅうたん)が引かれていた。
そしてその先に、祭壇と手前に石造り白い玉座がある。
祭壇には火が焚かれ、その上部に換気口があった。

女王テフィソネルが玉座に座り、その前に男官ニッチトルトと女官メリロメルが立っていた。
三人は、同じ金のライン刺繍が入った白いローブ姿で待ち構えていた。

「……やはり、誰も止められなかったか」

玉座に座っているテフィソネルの視界に、茶色の長い髪、マントを羽織った黒い皮製の鎧とヴァローアを持つナイウェルトの姿が入ってくる。

「テフィソネル。戻ってきたぜ、ヴォルフガングとしてな」

ナイウェルトは両手でヴァローアを構え、テフィソネルに立ち向かって行く。

「うおおお!」

ニッチトルトとメリロメル、同時にナイウェルトに向かって手から光を放つ。
それを、ヴァローアで防ぐナイウェルト。

「くっそ……!」
「ナイウェルト、あきらめろ。お前ではテフィソネル様には勝てん!」
「いくらお前がヴォルフガングとなって蘇ったとしても、我らリチトーの前では何の意味も持たないんだよ!」

競り合いながら、交互に諭すニッチトルトとメリロメル。

「お前らなんかに、俺は止められはしない!ヴァロー俺に力を貸してくれ!」

ヴァローアの装飾にある獣の目が光って、剣全体が光を帯びる。

「うおおお!」

ナイウェルトの放った光に押され、吹き飛ばされるニッチトルトとメリロメル。
そして、その場に立ったままテフィソネルを睨みつけるナイウェルト。

「フン。それがヴォルフガングの力か……」

ナイウェルトが、玉座に座っているテフィソネルに飛びかかって行く。

「行くぜ、テフィソネル!」

テフィソネルは、ナイウェルトの反対側に軽く飛んで攻撃を避けた。
すかさず振り向いて、更に攻撃し続けるナイウェルト。
反撃せずに、ナイウェルトの攻撃を避け続けているテフィソネル。

ナイウェルトが一旦、テフィソネルとの間を空けた。

「なぜ反撃しない……!」
「フン。……そろそろ効いてくるか」

ナイウェルトの右腕全体が紫色に染まって、痛みが走ってきた。

「うおお!な、何だこれは!」

「ルフィットナに、いざという時のために古代魔術(リフトスベレイ)でお前の力に侵食するよう命じておいたのだ」
「(腕を触られた事思い出し)……どうりで素直に行かせてくれた訳だ」
「フフフ、ダンケルヘイトは、リチトーによってかき消されるのだ」

ナイウェルトは、激しい痛みでその場に跪いてしまう。

「(跪きながら)それを言うなら、ダンケルヘイトがあって初めてリチトーが輝けるの間違だろう」

そんなナイウェルトに向けて、テフィソネルが両手から光を放ち空中に浮かせ始めた。

「この世にダンケルヘイトがあってはならんだ。リチトーだけが輝いてこそ繁栄しうる世界なのだ!」

苦しみながらも、ヴァローアを握り続けるナイウェルト。

「俺のように、リチトーとダンケルヘイトは表裏一体だ!お前の中にもダンケルヘイトは存在する!」

ナイウェルトの言葉に、動揺するテフィソネル。

「ええい、黙れ黙れ!リチトーの前ではダンケルヘイトの姿は映らんのだ!」

テフィソネルは、光を増大しナイウェルトを滅ぼそうとする。

「うおおお!」

ナイウェルトの危険を察知し、手から消えるヴァローア。

「消えてしまえ!」

ヴァローアが、テフィソネルの背後に現われ切りかかった。

「ぐっはあぁ!」

テフィソネルの力から解放されその場に倒れるナイウェルト。

ヴァローアは、ナイウェルトの手に戻った。
  
切りつけられ倒れようとしているが、堪えているテフィソネル。

「く、くっそ、あの剣め……!」

テフィソネルは周りを見渡し、ニッチトルトとメリロメルを捜し、そちらの方を見た。

「ニッチトルトとメリロメルよ、私の力となれ!」

テフィソネルの声に応じ、起き上がるニッチトルトとメリロメル。

「はっ!」

ニッチトルトとメリロメルは、光に包まれテフィソネルの背中に付き翼となった。
そして、上を見上げ手から光を放ち天井を壊したテフィソネルは、身に付けた翼を広げ上空へ飛び上がった。

その様子を、苦しみながらも見上げているナイウェルト。

テフィソネルは太陽を背にし、その光を自分の体内に取り込み始めた。

そこへ、ディネスに連れられ城内に入って来たエメヘルとヴォゲルク。
二人が、ナイウェルトの所へ駆け寄って行く。

「ナイウェルト様!」
「ナイウェルト!」
「お前達、なぜここに……」
「今度は我々が……」
「ナイウェルトを助ける番だよ!」

ディネスが上空を見上げ、テフィソネルの様子を伺った。

「マズイぞ。テフィソネルの奴、太陽の光で己の力を増幅しておる……!」

テフィソネルの体全体が光って、力がみなぎっていた。
それを知ったナイウェルトは、膝をついて起き上がろうとする。

「二人とも、俺に力を貸してくれ!」
「はい!」
「(剣を高く突き上げて)ヴァローア、俺達を導いてくれ!」

ヴァローアが、装飾にある獣の目が強く光らせ三人を光の中に包んだ。
エメヘルとヴォゲルクが、鳥の形になりナイウェルトの背中に付き翼となった。
同じころ上空では、テフィソネルが準備を終わらせていた。

「ナイウェルト!これで終わりだ!」

テフィソネルは両手を前に出し、そこから巨大な光をナイウェルト目掛けて放った。
両手でヴァローアを握り、その光に狙いを定め飛び上がって行くナイウェルト。

「うおおお!」

ナイウェルトが、テフィソネルの放った光を剣で受け止める。

「それで防いだつもりか!剣もろとも滅ぼしてくれるわ!」

光の力を更に増大していくテフィソネル。
それに耐えるナイウェルト。
その状況を、ディネスが見守っていた。

「マズイ……!テフィソネルの力の方が大きい!」

耐えながら、テフィソネルの体に見え隠れするダンケルヘイトの力を見つけるナイウェルト。

「お前のダンケルヘイト、俺が受け止めてやる!」

ナイウェルトが、テフィソネルの光を真っ二つに切り裂きながら突っ込んで行く。

「バ、バカな!私の光が……!」

テフィソネルを切り付け、 潜んでいたダンケルヘイトの力をヴァローアに吸収させたナイウェルト。

その後、互いに力を失って落下し始める。
見守っていたディネスが両手から光を放ち、二人をゆっくり下ろした。
テフィソネルとナイウェルト、それぞれ翼の部分が元の姿に戻っていく。

そんな中、先に立ち上がったのはテフィソネルだった。

「……私は一体……」

ナイウェルトも、テフィソネルの問いに答えるように起き上がった。

「お前の中にも、俺と同じようにダンケルヘイトの力が存在していた。お前はそれに支配されるのを恐れ、他のダンケルヘイトの力を滅ぼそうとした……」

それを、黙って聞いているテフィソネル。
ナイウェルトが立ち上がって、握っているヴァローアを掲げ見る。

「ダンケルヘイトの力は俺が継ぐ。お前はリチトーの力を司るものとして生きろ」
「ナイウェルト、私は……」

ヴォゲルクを起こし、エメヘルをおぶるナイウェルト。

そして、ディネスの方を見た。
ナイウェルトの無言の問いかけに、ディネスが頷いた。


タウセンフェルグ山中。

ダンケルヘイトの砦。
砦の者たち、物見櫓(ものみやぐら)の周りに集まってディネスたちの帰りを待っていた。

そんな中、物見櫓に上っている砦の者が、遠くにディネスたちが帰って来るのを見つける。

ナイウェルトが先頭に立って砦の中に入って行くと、砦の者たちみんなで歓迎した。

                              【END】              
                              

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