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民藝の父、柳宗悦が残した「大切な視点」とは

左から柳宗悦、バーナード・リーチ、濱田庄司、いずれも民藝運動の立役者だ。柳宗悦は河井寛次郎、濱田庄司と共に民藝という言葉を産んだ「民藝の父」と言われている。大正時代、それまで誰からも評価されず「下手物」と呼ばれていた日用品に照明をあて、「用の美」という新たな視点を打ち出した人物だ。

俺はつい最近までアアルトをはじめとする北欧のインテリア、建築、デザインにすっかり魅了されていた訳だが、「自然との調和」を大切にする北欧デザインの哲学と「用の美」という民藝運動の哲学は深いところでつながっている。

実は以前、東京駒場にある「日本民藝館」に行ったこともあり、また富山には「光徳寺」という「民藝運動の秘密基地」のような凄い場所があって、数回足を運んでいる。この「光徳寺」の住職も柳を師と仰ぐ方であり、民藝運動を独自に進めていたことをご婦人から直接聞いたこともあって、俺自身、柳が成し遂げた仕事には特別な思いをもって見ている一人だ。

柳は詩人画家ウイリアム・ブレイクの評伝を日本に紹介し、バーナード・リーチをして「イギリス人よりも綺麗な英語ができる」と言わしめるほどの英語の達人であった。彼の学習院大学時代の英語教師は世界的な禅学者である鈴木大拙、ドイツ語は「善の研究」で有名な西田幾多郎だったというから驚きだ。この2人との師との出会いは思想的に柳にかなり大きな影響を与えている。

柳はいち早く近代西洋美術に開眼し、雑誌「白樺」を介して印象派の絵画や彫刻を多数紹介している。その中でもロダンの作品を日本に初めて持ち込んできたことが彼の人生を大きく変えることになる(これは生まれも育ちも特権階級だったからこそできたと言ってもいい内容)。

大正3年(1914)このロダンの作品をみるために柳の住む我孫子まで「手土産」を片手に京城(現在のソウル)で小学校教員をしていた浅川伯教が訪ねてくる。この「手土産」こそ、民藝運動の原器となる「李朝白磁」との出会いだった。その当時の彼の言葉はこうである。

「今まで些細な陶器として軽んじていた一つの陶器に『人間の温かみ、高貴、尊厳』を読み得ようとは夢にだにしなかった」

全く飾らない曲線、計算なしの自然で飾らない感覚、人々が日常で使う感覚、その中に潜む神秘な力!この視点を持つまでに柳に影響を与えたのがウイリアム・ブレイクであり、東洋思想であった。禅の思想である「平常心是道」が根底にあったからこその発見であったといっていい。

「民藝前」「民藝後」はこの白磁との出会いを起点としている。
柳は同時にこの白磁の背景として当時の日本社会の病理と感じていた植民地支配からくる「驕り」にも容赦なくアンチを突き付けた。

柳は夫人で声楽家の柳兼子の経済的な支援を受けつつ大正8年(1919)朝鮮3.1独立運動以降の日本による弾圧・文化破壊に真っ向から反対し、朝鮮民族美術の保護を提唱して京城(ソウル)に朝鮮民族美術館を開設したのだ。

実はこれが「日本民藝館」の開設にいたる民藝運動のルーツになっている。
これ以降日本で「下手物」とよばれていたあらゆる陶器、道具を再評価し、「職人達の技」を日本国民が評価しなおすことに繋がっていく。

大正8年当時の柳の熱い思いは「朝鮮の友に送る書」(岩波文庫「民藝四十年」)に切実な思いをもって語られている。

「私はこの頃、ほとんど朝鮮の事にのみ心を奪われている。(中略)私は貴方がたの祖先の芸術ほど私に心を打ち明けてくれた芸術をほかに持たないのである。(中略)私は朝鮮の芸術ほど、愛の訪れを待つ芸術はないと思う。それは人情に憧れ、愛に生きたい心の芸術であった。(中略)高麗の陶磁器は日々人の心に親しみたいための器であった。李朝の代におよんでも日常のすべての用品にさえその心を深くにじませた。(中略)形でもなく色でもなく、線こそはその情を訴えるに足りる最も適した道であった。(中略)線にはさまざまな人生に対する悲哀の想いや苦悩の歴史が記されている。」

この「親しみ」を出発点として「特別な人たちによってつくられたもの」と「日常に使われるもの」=「用の美」が同じ土俵で語られることを可能にしたのが民藝運動の重要な視点だ。職人の技に対するリスペクト、それを可能にしたのが「用の美」を軸とした民藝運動だった。これは北欧のデザインにもつながる要素を強烈にもっているし、実際、日本の民藝は世界で高く評価されている。

柳が残した大切な視点。
それは芸術が芸術家のものではなく、生活の中にあるものだという事。つまり、芸術と生活の融合であった。その思想的背景は禅の「平常心是道」であり、私達の生活そのものがアートであると言う視点だ。

それはクリエイターが集まるこのnoteという場所にもつながっていると思う。それぞれの仕事はまさに民藝といっていいのではないだろうか?

参考図書
西岡文彦「柳宗悦の視線革命」東京大学出版会
柳宗悦「民藝四十年」岩波書店

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