寺山修司「幸福論」角川文庫
久しぶりに寺山節に触れた。「家出のすすめ」は20代の俺に決定的な影響を与え、その後も常に共感をもって接してきたが、ここ数年、寺山からは離れていた。今回、出張のお供に連れて行ってみて読んだ。
この本が出された頃、巷ではアランの「幸福論」が一斉を風靡していたらしい。しかし、そんな幸福論を寺山は一蹴し、「私たちの時代に失われつつあるのは、幸福ではなくて、幸福論である」という名文句を残している。
寺山自身も不幸な人生を送ったが、彼が世の若者の家出を煽動し、その後、たくさんの若者に問いかけたのは、「不幸を語れ!想像の翼を広げろ!」だった。つまり人生を肯定的にとらえるとかいったあまっちょろい感覚ではなく、走りながら幸福をつかもう!というものだ。未来に希望をもつなどという言葉を根っから信用しない。
彼の結論は「幸福論は永遠に到達し得ない戦いの原理」だ。幸福という状態などあるものか!というのだ。
「幸福は幸福論を追い越せない」
「出会いに期待する心は幸福を探すことになるが、その期待は同時に裏切りを孕んでいる」
「出会いはいつも残酷である」
「幸福論には『幸福の暴力性』が内包されている」
いかにもリアリスト寺山の言葉だ。彼は空想を生活の中に叩き込んで居直ることを推奨する。まさに「演技の人生」だ。そのためには肉体を鍛えなければならない。走りながら読書をし、書を捨てて町に出よう!というのが寺山修司の流儀。俺は彼のイズムに共感する。やっぱり寺山修司はええなあ!
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