死んじゃったって話
死んだままだった。僕の心はずっと。
綺麗なものに触れても動かない、僕の精神。いつまで経っても死んだままだったんだ。
生き返らせようなんて思いもしなかった。だって死んだままの方が都合が良かったから。
嫌いなあいつが朝登校して来ても、僕の心は死んでるから笑顔でおはようって言えるんだ。
いつから死んでるのかわからない。でも間違いなく僕の心は僕が殺した。どうやって殺したのかはわからない。でも殺した感覚は確実に残ってる。その時の話をしようか。
***
それは、新宿を歩いていた時だったと思う。
ふと立ち止まってみるとみんながせかせかと歩いてたんだ。止まっている僕を、ある人は邪魔者っていうレッテルを貼って、別の人は舌打ちをくれた。
人生百年時代って言われてるこの時代でなんで急いでいるんだろう。って思ったけど、やっぱりそうやって追い越されていくと焦るんだよね僕。
自分が追い越されて焦って、それで、自分もはやく進まなきゃって。はやくはやくって思ってたら、その速さは僕にはまだ早かったみたいで転んじゃったんだ。笑っちゃったよね。
やっとの思いで立ち上がって自分の体を見てみたら血だらけでさ。その真っ赤な流れ出る血を見て、これが生きてる証か、って不意にセンチメンタル。でもそれも一瞬で忘れちゃって。ただただ流れた血が、脳みそに痛みを誘発させてた。
結局こけて血を見るのは自分なのに、一瞬、少しだけ見えた真理みたいな希望が隠れないように必死なんだ。
きっとみんなもそうだから急いでるのかなって僕は思った。
でもみんな転んでない。器用なの。なんでなんだろうね。クラクションを鳴らされて、チカチカしてる青信号を見て、そしたら劣等感が覆いかぶさってきた。僕はその場で放心するしかなくなったんだ。劣等感に体の自由を奪われたから。
劣等感まみれになって、羨ましくって、ぐちゃぐちゃになって、それで、手をあげたの。劣等感と、その周りを殺したくて。
そしたら手も血だらけになっちゃってさ、
「ああ、殺しちゃったんだ」
ごめんなさいごめんなさいって謝り続けて、しばらくしても$€<%3×÷を殺しちゃった罪悪感で痛かったんだ。消えてくれない痛みと、血で深紅に染まった手を見て、気づいたんだ。
「ああ、殺しちゃったのは自分だったんだ」
***
自分を殺してからはほんとに生きやすくなった。感情も一緒に殺しちゃったから建前を吐くのになんの抵抗もなくなった。
模範人間のコスプレをして人生を歩んでたらみんな僕のことを見てくれるようになって、僕は満足なんだ。
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僕が殺しちゃった僕の心、聞こえる?
あのね、僕、君が死んでくれたおかげで今すごく生きやすいんだ、だから、もう少しだけ死んだままでいてくれよ、頼むから。
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それから2年後、
僕の心が希死念慮と共に反逆を開始してきた物語はまた別のお話。
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