見出し画像

立浪監督退任で表出するドラフトへの"隔靴掻痒"。竜は蹉跌を乗り越えられるか?/中田宗男著「星野と落合のドラフト戦略」〜元中日スカウト部長の回顧録〜(2024.09.25)

中日の立浪和義監督が今シーズン限りで退任する。球団が長く低迷を続ける中、満を持しての登場であったが、"レジェンド"は3年でユニフォームを脱ぐこととなった。

退任報道を聞いたとき、真っ先に思ったことは「3年では間に合わなかったか・・」ということだ。

私は竜党ではないが、PL学園時代に甲子園春夏連覇した"立浪主将"の姿が心に強く刻印されていたこともあり、就任当初から「頑張ってほしい」という思いがあった。

同時に「長期政権でなければ再建は容易ではない」とも予想していた。中日が優勝争いをするには「選手を根っこから入れ替える必要がある」との素人考えからなのだが、結果として予想は当たった。

そして退陣報道から数日が経った今、立浪政権の3年を振り返って思うことは、立浪監督は「人を残した」ということだ。

投手は高橋宏斗、松山晋也。野手では岡林勇希、石川昂弥、細川成也、村松開人、福永裕基に成長機会を与え、実際に彼らは結果を残している。また、京田、郡司に見切りをつけての積極的なトレードも評価に値する。

ドラフトにおける「二遊間乱獲問題」が取り沙汰されているが、これは人材の見極めとして不可欠なプロセスとして割り切れる。立浪監督は、来季以降、ドラゴンスの飛翔につながる大きな仕事をしたと思っている。

立浪監督が歩んだ道のりは、どこか阪神元監督、金本知憲氏の姿と重なる。共に球界に名を馳せた選手で、コーチ経験のないまま低迷する球団の再建を託されたことなど共通点は少なくない。金本氏も立浪監督同様3年で監督を解任されたが、後を継いだ矢野氏とともに今の阪神の安定した強さの下地を作ったことは多くが認めるところだ。

立浪監督も数年後、良き後継者に恵まれれば、金本氏同様に評価されると私は本気で思っている。

元中日スカウト部長の回顧録から見えてくるもの
立浪監督は3年では結果を残せなかった。阪神のケースでも分かるように、低迷するチームを浮揚させるには相応の時間を要するということだろう。逆に、強かったチームが弱体化するには左程、時間はかからない。

そんなことを考えながら、中田宗男著「星野と落合のドラフト戦略」〜元中日スカウト部長の回顧録〜を再読した。

今のドラゴンスの戦力を語るとき、近年のドラフト抜きには語れない。本書の帯には「星野さんは人を残し、落合さんは結果をのこした」とあるが、穿った見方をすれば、「落合さんは良い思いだけした」と受け取れなくもない。

実際、落合氏は監督として、井端、荒木、福留、森野、吉見、川上憲伸、岩瀬など選手に恵まれドラゴンズ黄金期を築いた。

しかし、GM時代の2013〜16年ドラフトにおいて、球団貢献度は少ない。小笠原慎之介(2015)、柳裕也(2016)のドラフト1位はヒットした感はあるが、以下の2014ドラフトなどは、当書によると「竜党の間でも悪名高い」のだそうだ。

1位 野村 亮介 投手 三菱日立パワーシステムズ
2位 浜田 智博 投手 九州産業大
3位 友永 翔太 外野手 日本通運
4位 石川 駿 内野手 JX-ENEOS
5位 加藤 匠馬 捕手 青山学院大
6位 井領 雅貴 外野手 JX-ENEOS
7位 遠藤 一星 内野手 東京ガス
8位 山本 雅士 投手 徳島インディゴソックス
9位 金子 丈 投手 大阪商業

中田宗男著「星野と落合のドラフト戦略」〜元中日スカウト部長の回顧録〜

落合GMは「社会人、大学生の即戦力」を重視
本書でも言及されていたが、落合氏は「社会人、大学生重視」の考えが大きかったという。「高校生はよくわからない」が口癖だったそうで、「プロの練習についていけるか不透明」という考えが根底にあったらしい。

現に、監督時代の2008年ドラフトでも、大田泰示(東海大相模)を押すスカウトの声を振り切り、野本圭(日本通運)のドラフト1位を強行している。

自身が社会人から成功を遂げたこともあり「即、練習についていける」という意味で大学、社会人選手を重点的に指名したがっていたのではないか、と中田氏は推測している。

上述した2014ドラフトなどはまさに「オレ流」を貫いたようだが、「全員即戦力狙い」を敢行したにも関わらず、結果はまったく伴わなかった。当時竜党が頭を抱えたことも頷ける。

落合GM時代のドラフトが「現在のドラゴンス低迷の元凶」とまでは言わないが、落合氏の偏ったドラフト観が谷繁監督から立浪監督まで続く長い低迷に「多少なりとも影響を及ぼした」と考えるのは、私だけではないだろう。

「獲得はしたものの・・」歯痒いドラフト
とはいえ、ドラフトを成功裡に収めるのは容易でないことは、スカウト歴38年の振り返りを読まずとも理解はできる。獲得した選手の「想定外」「見込み違い」は少なくないだろうし、そして何より、選手の評価は数年後にならなければわからない。

スカウトは、こうした不確実な未来を予測しなければならず、その一方で、指名した選手が結果を残せずユニフォームを脱げば批判の矢面に立たされる。まさにもどかしく「因果な商売」といえるだろう。

ドラゴンズの歴代のドラフトにも「想定外」は少なからずあった。中田氏の回顧録で印象的だったのが、堂上直倫と根尾昂、高卒ドラ1の2人だ。

堂上直倫の「想定外」
現在、1軍内野守備走塁コーチの堂上直倫氏は、巨人の坂本勇人と同期で、プロのキャリアでこそ大きな差が開いてしまったが、高校時代は全国区だった堂上の方が坂本よりも評価は高かったと中田氏は振り返っている。

ドラフトで3球団競合の末、引当て「意気軒昂」だったスカウト陣だが、入団後に堂上の「異常」が判明した。堂上は「肘痛により右肘が曲がった状態で入団した」のだ。

堂上は高校時代、強肩遊撃手だったが、抑え投手の役割も託されていた。要所で快速球を投じていたこともあり、ドラフト年には肘に痛みを抱えていたという。堂上の右肘の状態は、結果として打撃にも影響を及ぼした。高校時代まで上手く打てていた内角がプロでは打てなくなった。右肘を上手くたためず、バットを内側からだせなくなった。中田氏は、堂上がプロで思うような結果が残せなかった要因をここに見ている。

治らなかった根尾昂の欠点
そして、4球団競合の末引き当てた根尾にも誤算があった。根尾は打撃と守備いずれにおいても「間(ま)」「タイミング」が上手く取れずに苦しんだという。

守る方では、ゴロの合せ方に戸惑い捕球ミスが解消されず、打つ方では、構えてトップの位置から打ちに行く際のタイミングの取り方が、ついぞ呑み込めなかったと中田氏は述懐している。

入団3年目の春、臨時コーチとして根尾の打撃指導をした立浪氏が「ちょっと厳しい」と周囲に漏らしていたそうで、監督立浪によって根尾が投手に転向したことも、これら内情を知っている人たちにはさして驚くべきことではなかったようだ。

ちなみに、現在、巨人の二軍監督をしている桑田氏も、解説者時代に中日の春季キャンプを訪問した際、立浪監督から根尾に関して「投手と打者、適性はどちらか」と問われ「投手」と答えている。

大阪桐蔭時代の勇姿を見て、「遊撃手 根尾」のプロでの成功を信じてやまなかった私自身にとっても、一連の根尾の野球センスは「思わぬ誤算」だった。

気になる次期監督。そしてドラフトの行方

立浪監督の3年間に関しては、すでにメディアで検証されているが、これに関しては、私はあまり興味がない。異論は覚悟の上だが「立浪監督就任までの編成(布陣)が優勝を狙えるレベルでなかった」ことにドラゴンズの不振は集約されると思っているからだ。

そういう意味で、中田氏のドラフト回顧録は、面白かった。ドラフトには抽選とは別の意味で“運の要素"が極めて大きいことを痛感した。そして何よりスカウトの苦労と希望が虎党の私にも伝わってきた。

イチローを逃したことで、地元の選手を積極的に指名する流れができたこと、高橋周平に未来を託したかったという想い、そして広いナゴヤドーム(当時)を本拠にする故、守りに不安を感じる野手は指名を回避する傾向があったことなどは、まさにドラフト当事者ならではのサイドストーリーだ。

中田氏の後を継いだスカウト陣は、今年のドラフトでどのようなビジョンを持って有望選手を獲得していくのだろうか。そして、次期監督も気になるところだ。名門球団の再建には、ドラフトの成功が欠かせない。近年、竜に冷たかったドラフトの神様は、今年は微笑むのだろうか。10月24日を楽しみに待つこととする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?