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"アマチュアスカウト”必読!日刊スポーツ「田村藤夫のファームリポート」(2024.09.03)

野球ファンなら、スポーツ新聞で楽しみにしている企画がいくつかあると思う。私の場合でいうと断然、日刊スポーツ「田村藤夫のファームリポート」だ。

ご存じの方も多いと思うが、同シリーズは2019年まで中日2軍バッテリーコーチとして若手を育成してきた田村藤夫氏が、ファームで目にとまった選手や期待の注目若手選手の現状をチェックする野球コラムである。

コロナ禍の2020年7月からスタートして今年で4年。菊田拡和(巨人)を皮切りに高校生にまで対象を広げ、選手、コーチとして長年培った眼力、視点で、現在のまた未来のプロ野球選手の"今”を詳しく分かりやすく伝えている。

私が同コラムを推す理由は、コラムの趣旨そのままの「プロ野球OBによる若手の技術評価」だからだ。

プロ野球評論家による1軍選手への技術チェックはよくよく目にするが、2軍の選手のリアルを両リーグ横断的に、しかも忖度なしで評価する野球評論家は滅多とお目にかかれない。

プロ野球において「編成」領域に最も興味を持つ私にとって、「かつてのドラフト候補」のその後はとても気になる。

そういう意味で、田村氏の精力的な活動はたいへん貴重でありがたいのだ。

ドラフトで指名された選手をまるでくじ引きのように近視眼的に「当たり」「外れ」で評価しがちな自分を、田村氏のコラムは諫めてくれる。

では、バックナンバーを振り返ってみよう。

入団1年目の高橋宏斗(中日)について

2021年2月15日付けのコラム高橋宏斗(中日)のケースは3年後の今読んでも面白い。

当時、高橋は高卒NO.1 の評価を得て入団していたが、ファンには実力の見極めが難しかった。

前年に同じ高卒でプロ入りしたロッテ佐々木朗希、ヤクルト奥川と比較してどうなのか、田村氏はファンの気になる点をしっかりと見定めレポートしている。

仮に、すぐにでも1軍クラスを「S」、シーズン前半で1軍昇格レベルを「A」、故障者続出で昇格のチャンスありを「B」、今季は2軍でしっかりトレーニングを「C」とするなら、高橋宏は「C」に当てはまると感じた。昨年のロッテ佐々木朗、ヤクルト奥川を見て、あの2人でさえ奥川がシーズン最終盤に1軍デビュー、佐々木朗に至っては2軍でも投げなかったことを踏まえると、2人と比べまとまりでやや落ちる高橋宏の今季の1軍昇格は考えづらい。

日刊スポーツ

ストレートは144~145キロ。カーブとスライダーの中間くらいの曲がりの変化球を、捕手を座らせて全51球。シュート回転が目につき、ストライクゾーンに集まるボールも安定しているとは言えない。指にしっかりかかったのは10%ほどの4、5球だった。

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また、田村氏はブルペンの高橋をじっくりと観察し「肘が下がっている」「シュート回転が多い」ことに気づいている。そして、下半身の粘りが無く状態が早く開くことにその要因を見てとったことが、以下の記述を見るとよくわかる。そしてコラムでは以下のように締めくくっている。

昨夏甲子園での交流試合の時のように、肘がしっかり上がり、前でボールを離せるようになった時のキレ、制球を見てみたい。

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このような調子で田村氏は、キャンプや試合を通じて各球団"ホープ"の技術的な課題と可能性について具体的に言及している。

高橋の場合、ルーキーシーズンの結果は田村氏の予想通リとなったが、そんなことよりも、ファンに推しの成長を見届けるためのポイントを提供している点に氏のコラムの価値がある。

田村氏が度会(DeNA)にみた"プロの壁"

今年はこれまで横山聖哉(オリックス)前田悠伍(ソフトバンク)井坪陽生(阪神)、根尾昴(中日)、瀧澤夏生(西武)、進藤勇也(日ハム)、度会隆輝(DeNA)などが取り上げられている。

中でも6月の度会に関するコラムでは、「必ずどこかでつまずく・・」としてDeNAファンならずとも納得の分析をされている。

ボールの見極めに関することで、それを読み私は「消えた天才」高山俊(元阪神)を思い出した。

「見逃したくない」病はやがて打撃フォームを根本から崩していく。度会には田村氏が指摘する悪癖を修正し高山の二の舞にはならないでほしいと思うが、どうなるか。今後、注目していきたい。

「野球を書く」予備軍の立場でも参考になるコラム

私は仕事の大半がリモートということもあって、日中、ファームの試合を動画でよく観る。

「ファーム観戦」に関しては「箱」推しではなく、リーグ関係なく気になる選手個々の成長プロセスをチェックすることに主眼をおいている。

その際、成績や指標ではなく「内容」「状態」を自分なりに把握することに努めているが、そんな時、同コラムに記載されている技術視点はとても役立っている。

田村氏のコラムはどこか、幼少期に自宅で読んだ週刊朝日連載「野村克也の目」を思い起こさせる。

もちろん野村氏ほどのアクはないが、捕手目線で対象選手の技術だけでなく野球脳、センスにまで広く言及するあたりは共通しているように思う。良き「書き手」を側に置いている点も当たる企画の共通項だろう。

野村氏はいわずもがな、自身の卓越した野球脳を余すことなく披露し、ファンの野球を見る眼を向上させた。

私にとっての田村氏も同様で、若手選手やドラフト候補のアマチュア選手ヘの視点を養わせてくれている。「野球を書く」予備軍の立場でも参考になると思っている。

それはまた、現在、活況を呈しているアマチュアスカウトの方々にもあてはまるだろう。

注目選手を取り上げても、その多くが「最高球速」「通算本塁打数」など数値的な実績の報告に傾斜しすぎている。上述した田村氏のような「スカウトレポート」を作成できれば、競争相手との差別化、ひいては自身の持続的な収益化につながるのではないだろうか。

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