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ありあまる富

「大体入学してすぐに付き合うとかありえんわ。おまえらお互いの事ほんとにわかってんのかよ。」そう言って彼はコップの水を一気に飲み干した。
「夏休みに彼女ができましたってどんだけ計画的なんだよ。そこに至るまでのプロセスを教えろ!」もう1人のメガネが言った。

「夏休みも終わったし次はハロウィンとかクリスマス狙ってんだろ。俺はクリスマスに雪が降らないように10年以上前から呪いを込めている。」次に小太りの男がそう言って肉にかぶりついた。口の周りはポテトやらの油でギトギトだ。

「いや、あのー。今日は俺の動画配信についての話なんだが。」小柄なマッシュが間を挟む。

「うるせいよ。お前のタルイ2時間もあるゲーム実況なんて誰も見ねぇよ!」

皆が一斉にそう言う。

「大体高評価2件って何だよ。あんなカスイ実況に2人ついただけでも奇跡だわ!」

「うるせえよ!その2件は両親だよ!」

「ところで次のバレンタインの話しなんだがそこまで何人の女子が生き残っているかだが。」
「どうせその頃にはみんな固まってるだろ。俺らは黙って三年生を迎えるのみだ。」    

「いや、だからどのタイミングで彼女を作るかと言う話なんだが。」「三年生になったらアウトだね。みんな受験やら就職やらでそれどころではない。」
「卒業式かもしれないぜ。まあ何の卒業だかわからんがな。」

「結局どこのイベントでみんな彼女を作ってるんだ?俺はあざとさが先行して何が何だかよくわからない。」

「あー。もういいよ。負けた負けた。みんな好きにやってくれりゃいいよ。俺は一生童貞だ。修行僧にでもなってやる。」

そう言って皆で頭を掻いているその刹那、ひとりの女性店員がこう言った。

「お正月なんてどうですか?」

全員のコップに水を入れその店員さんはクスリと笑って後を去った。

それが合っているのか間違っているのかは関係ない。ただその瞬間、全員は研ぎ澄まされた超感覚でその女性店員をロックオンした。

そしてその妄想は地球を3周回りつい今しがた戻ってきたばかりだ。

世界はオープンワールドでこの瞬間も無数の人たちが同じ時間軸を進んでいる。信じるにしろ信じないにしろ今そこにいるということが常に全ての始まりであり、人類の存亡を賭けた華麗なるレースなのだ。

そうやって夜は優しく過ぎていき彼等を次のステージへと転送していく。

                おわり

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