見出し画像

ワーク・エンゲイジメント(WE)とは。【産業組織心理学専攻の大学院生が解説】

みなさん、こんにちは。現役大学院生(産業組織心理学専攻)かつ組織・人事コンサルタントのミナミです。
今回は、社員のモチベーションに大きく関係するワーク・エンゲイジメントについて記事を書いていこうと思います。


ワーク・エンゲイジメントとは?

ワーク・エンゲイジメントとは、「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、特定の対象・出来事・個人・行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知」です。

ワーク・エンゲイジメントは、3つの要素(活力・熱意・没頭)によって特徴づけられます。

ワーク・エンゲイジメントは、オランダの学者シャウフェリらによって提唱されました。

①活力

活力は、以下の3つに特徴づけられます。

  • 仕事中の高い活動水準と精神的な回復力

  • 自分の仕事に対して努力しようという意思

  • 困難に直面した際の粘り強さ

②熱意

熱意は、以下のような感覚に特徴づけられます。

  • 仕事に対する意義

  • 熱中

  • ひらめき

  • 誇り

  • 挑戦

③没頭

没頭は、「自分の仕事に深く集中し、幸福な気持ちで没頭している」に特徴づけられます。

ビジネス界と学術における「エンゲイジメント」の違い

ワーク・エンゲイジメントは、ビジネス界における「エンゲイジメント」とは異なる概念であるということに注意しなくてはなりません。

ビジネス界と学術における「エンゲイジメント」の違いを簡単に説明すると、以下のように言える。

ビジネス界におけるエンゲイジメントは、「組織」に関連した情動、認知、行動についての概念。

学術的に定義されている「ワーク・エンゲイジメント」は、「仕事上の役割、あるいは仕事自体」に関連した情動、認知、行動についての概念。

「エンゲイジメント」に対する認識が関係者間で異なっている可能性に留意し、効果的な実践の阻害要因とならないように配慮する必要があります。

ワーク・エンゲイジメントとワーク・モチベーションの違い

ワーク・エンゲイジメントは、ワーク・モチベーションとどう違う?という声もあるでしょう。私も最初はよくわかっていませんでした。

ワーク・エンゲイジメントとワーク・モチベーションの大きな違いとしては、ワーク・エンゲイジメントが仕事そのものを発生源としているのに対して、ワーク・モチベーションは仕事そのものではない様々な欲求や仕事内容とは直接関連しない報酬なども含めた、より広範な源泉を仮定している点が挙げられます。

また、ワーク・エンゲイジメントは、仕事をすることへのポジティブな認知・態度ですが、ワーク・モチベーションは、「やらないといけない」といったネガティブな認知も含んでいます。

これらを踏まえると、ワーク・エンゲイジメントは、ワーク・モチベーションの中でも「仕事そのもの」を源泉とし、仕事をすることへの「ポジティブな認知や態度」を有している心理状態といえます。


ワーク・エンゲイジメントの測定方法

ワーク・エンゲイジメントの測定方法は、様々なものがありますが、本記事では最も使用されている尺度をご紹介します。

最も使用されている尺度は、UWES(Utrecht Work Engagement Scale)です。

この尺度はシャウフェリらによって開発され、23カ国で標準化されています。

日本語版も発行されており、島津らによって良好な信頼性・妥当性が確認されています。


ワーク・エンゲイジメントの効果

社員のワーク・エンゲイジメントが向上すると、組織にどのような良い効果があるのでしょうか。

ワーク・エンゲイジメントは、

  • 心身の健康

  • 仕事や組織に対するポジティブな態度

  • 仕事のパフォーマンス

といった要素に効果を与えることがわかっています。

①心身の健康

ワーク・エンゲイジメントの高い社員は、心理的苦痛や身体的愁訴が少ないことが明らかにされています。

また、睡眠の質が良好であることもわかっています。

②仕事や組織に対するポジティブな態度

仕事や組織に対するポジティブな態度に関しては、ワーク・エンゲイジメントの高い社員は、職務満足度や組織へのコミットメントが高く、離転職の意思が低いことが明らかになっています。

また、ワーク・エンゲイジメントの高い社員は、働きがいのある状況を自ら作り出しやすいこともわかっています。

③仕事のパフォーマンス

パフォーマンスに関しては、ワーク・エンゲイジメントが高いほど、自己啓発学習への動機づけや創造性が高く、役割行動や役割以外の行動も積極的に行います。

また、部下への適切なリーダーシップ行動が多いことも明らかになっています。

ホテルやレストランの従業員のワーク・エンゲイジメントが高いと、それらの施設を利用した顧客の満足度が高まり、施設の再利用の意思につながることも報告されています。

さらに、社員の日ごとのワーク・エンゲイジメントの高さが、日ごとの店舗の収益を予測することを報告する論文もあります。


ワーク・エンゲイジメントを高めるには?

では、ワーク・エンゲイジメントを高めるにはどのような活動を行えば良いのでしょうか。

ワーク・エンゲイジメントを向上させる要因は大きく2つあります。

  • 仕事の資源

  • 個人の資源

仕事の資源

仕事の資源とは、「仕事の要求度や要求度に関連する身体的、精神的な負担を軽減し、仕事上の目的達成を促進し、個人の成長や発達を促進し続けるための物理的、社会的、組織的な仕事の側面」と定義されています。

仕事の資源は①作業・課題レベル、②部署レベル、③事業場レベルの3つの水準に分類することができます。

具体的には以下のような要素が仕事の資源に当てはまります。

作業・課題レベル

  • 仕事のコントロール

  • 仕事の意義

  • 役割明確さ

  • 成長の機会

部署レベル

  • 上司の支援

  • 同僚の支援

  • 経済地位 / 尊重 / 安定報酬

  • 上司のリーダーシップ

  • 上司の公正な態度

  • 褒めてもらえる職場

  • 失敗を認める職場

事業場レベル

  • 経営層との信頼関係

  • 変化への対応

  • 個人の尊重

  • 公正な人事評価

  • キャリア形成

  • ワーク・セルフ・バランス

こうした仕事の資源が豊富であるほど、社員のワーク・エンゲイジメントは高まるとされています。

個人の資源

ワーク・エンゲイジメントを向上させるもう1つの要因が個人の資源です。

個人の資源は、「『レジリエンシー』に関連するポジティブな自己評価であり、周囲の環境をうまくコントロールし、影響を与えることができるという個人の感覚」です。

具体的な要素として、

  • 積極的な対処スタイル

  • 自己効力感

  • 組織での自尊心

  • 楽観性

  • レジリエンス(粘り強さ)

などが該当するとされています。

こうした仕事の資源や個人の資源は、それぞれ個別にワーク・エンゲイジメントを高めるのではなく、相互に関連しながらワーク・エンゲイジメントの向上に寄与します。

個人の資源は、社員自らの力で作り出すことができますが、仕事の資源は社員1人では作り出すことは難しいです。

そのため、社員のワーク・エンゲイジメントを高めるためには会社・組織全体で取り組む必要があります。


ワーク・エンゲイジメントの注意点

これまで、ワーク・エンゲイジメントのポジティブな面をご紹介してきましたが、ワーク・エンゲイジメントの注意点も存在することをご紹介します。

①ワーク・エンゲイジメントは「伝染」する

まずはじめに、個人のワーク・エンゲイジメントは「伝染する」ということです。(クロスオーバー効果と言われています)

例えば、ワーク・エンゲイジメントの高い社員がいると、その高いワーク・エンゲイジメントが他の社員にも伝染していくといったことが挙げられます。

この現象は、ポジティブな場合もありますが、逆にネガティブな場合もあります。

例えば、やる気がある新入社員が入ってきましたが、配属された部署の先輩・上司のワーク・エンゲイジメントが低いと、次第に新入社員のやる気も無くなっていき、ワーク・エンゲイジメントが低くなってしまいます。

②ワーク・エンゲイジメントが高すぎても…

ワーク・エンゲイジメントが高いことは、会社・組織にとっても個人にとっても良いことですが、高すぎるとマイナスな結果を招くことも報告されています。

その例として、ワーク・エンゲイジメントが高い社員は、自分の仕事にエンゲイジするあまりに自宅に仕事を持ち帰ることがある可能性があることが挙げられます。


まとめ

ワーク・エンゲイジメントは活力・熱意・没頭に特徴づけられる仕事に関連するポジティブで充実した心理状態です。

ワーク・エンゲイジメントには注意点もありますが、良い面が多く、近年多くの企業がワーク・エンゲイジメント向上に取り組んでいます。

ただ闇雲にワーク・エンゲイジメント向上に取り組むのではなく、企業風土や社員の意思など様々な要因を検討することが大事です。

会社・組織レベルで取り組みたい場合は、お手伝いいたしますのでご連絡ください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?