黄色い家:Audible感想ノート
始まりは老女が若い女性を監禁した事件のニュース。しかしこの犯人の老女に対して、最後まで読むと全く異なる印象を得る。
Audibleで聴き始めたとき、現実の生活でも、時おりニュースでみるような事件だな、と気味悪く感じ、何やら語り手のアラサー女性は容疑者の老女とシェアハウスをしていたらしいことが分かり、どんなどろどろした物語なのだろうと思った ー それはのちに良い意味で裏切られる。
ここから、知力に難のある片親の貧困家庭に生まれた主人公が犯罪に手を染めていく半生が主人公の回想を通して語られていく。
>ネタばれあり感想。
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面白かった点:
冒頭で想像させられたような、どろどろ惨劇への期待感は、物語が進行する中で悪い方へと転がり落ちていく主人公と人間関係と金のいざこざで、きちんと回収されている。
一方で、黄美子という人物についての真相には、ある意味で、あまり理解されにくい、利用されやすい弱者(おそらく軽い知的障害)を救いたいという気持ちが根底のテーマにあるように感じた。彼女が知的に弱い分、彼女の純粋な優しさが、貧困と親のネグレクト(まではいかないグレーゾーン)、友達もいなくて孤独だった幼い時の主人公を救った。
主人公の母親に対しても同様な視点があるように感じる。酒をのんでばかりで子どもを放置し恋人と過ごし、騙されやすく利用されやすい、頭の弱い母親。主人公はそんな母親のために理不尽な目に合わされ、情けなく悔しく思いながらも、母親を許している。
『正欲』と物語の構成は似ているように思えた。
どちらも、刑事事件のニュースをフックにしており、過去に戻って徐々に物語が語られていき、真相が全く異なるものであることがわかる。過去と現在が繋がって、エピローグのように現在が進行してフェードアウトしていく。
最も異なる点は、物語が誰の視点から語られるのか。
黄色い家は、最初から最後まで主人公の視点で描かれており、主人公の気持ちに深く寄り添うことができ、ラストでとても感傷的な気持ちにさせられる。
『正欲』は多様性という”正義”に切り込むことがテーマだったが、『黄色い家』は貧困ゆえ犯罪に手を染める少女のリアルな感覚を描くことが重要なテーマとしてあるので、作者は、何を伝えたいかで手法を選択しているのだなと改めて尊敬する。