イギリスの大学で法律を勉強しようと思った理由(普通の主婦がイギリスで弁護士資格に挑戦した話)
イギリスの大学院法学部の修士課程(LLM)で勉強している日本人の方はたまに見ますが、大学一年生からの学部であるLLBをやっている日本人は見た事がありません。日本人と言ってもイギリスで生まれ育った2世ならいるかもしれませんが、日本で生まれ育ったコテコテの日本人でLLBに入学したクレイジーな人間は、イギリス中探してもで私一人かもしれない…とも思ったりもします。
1、イギリスの法律を学ぶ日本人が稀な理由
LLBに挑戦する日本人が少ない理由は、まずは言葉の問題。例えば理系やアート系の科目は数字や実技で表現できるので、言葉の壁がそこまで比較的(あくまでも比較的)大きなディスアドバンテージになりません。対して法律の勉強は言葉が100%の世界。数字や視覚的な要素など、国境を超えた共通言語に頼ることが出来ない複雑な法律を学ぶのは正直かなり大変、いや過酷です。
二番目に、法律はユニバーサルではない事。当然ですがイギリスの法律資格をとっても日本では使えません。(元殖民地などのコモンウェルス国では書き換えられ国もあるらしいですが)例えばMBAなどは一度とってしまえば世界共通で認識されハクがつく資格ですが、法律の学位なんざハッキリ言って国を一歩出れば役立たずです。
要するに壮絶な努力を要するワリに、やっと取ってもウマミの少ない資格なので、まともな日本人はわざわざそんな事に時間とお金と気力を使わないのです。身も蓋もないですね。しかも40過ぎで大学1年生から始めるなんざ、無謀でクレイジーな行いと言えるでしょう。実際、私が始めた時も、自分含めて周りの人も最後までやり通せるとは誰も思っていませんでした。普通に賢い人は、苦労の割にリターンの少ないそんな事は元からやらないんです。
2、死ぬ前に死ぬほど勉強してみたかった
ではなぜ私は挑戦したのだろう…… 正直、あまり深く考えませんでした。でも「死ぬほど勉強してみたい」「自分の限界に挑戦したい」というマゾ的な気持ちはありました。私マゾだったんだ。勉強する事に飢えていたとも言えるでしょう。
思えば私は、それまで本気で勉強した経験がなかったのです。
高校はまあまあの進学校に入りましたが、そこで3年間の間、控えめに言っても全く勉強しませんでした。4年制の大学を希望していたものの勉強しなかったので当然落ちまくり、浪人するガッツも無く、1つだけ引っかかった第5希望くらいの短大に入りました。その短大も面白くなくて中退してしまった10代の私。いい加減すぎて人生闇だった時期です。
そんな私でもバブル時代だった事もあり就職でき、20代は日本で働き、30代で渡英し結婚、出産しました。そんなこんなでその時々、人並み程度には日々の生活を営んでいたのですが、学ぶべき時期にきちんと勉強しなかったという事がいつも心の何処かに負い目となって引っかかっていました。いつか、どの国でも良いから4年制の大学に行こうといつも思っていた気がします。
3、マウンティングする人や学歴で人の能力を判断する人から解放されたかった
職場での足の引っ張り合いに嫌気がさした事もあります。学歴だけが人の能力を推し量る指標だと本気で思っている人もいるので「一応(文系では)一番難しいとされる資格を取れば、面倒くさいマウンティングする人とか寄ってこなくなるのかな」とかなりザックリした願望を伴う理由(笑)。
4、弱者である外国人の自分を認識し、知識武装したかった
ロンドンで暮らすようになってからは他の理由ができました。この国で外国人として暮らす私は様々な意味で弱者であることに気がついたからです。ロンドン生活間もない頃、コベントガーデンの駅前で友達と待ち合わせをしていた時です。日本で買った服(今はどうでも良い服装をしてる私ですが、ロンドンに来たばかりの頃はバブルに買った質の良い服を着ていました。その頃の日本で普通のOL服はロンドンではかなりきちんとした身なりに見えました)を着ていた私に体格の良い男が近づいてきました。首から下げた身分証を見せて、チャリティーに寄付しろと強引な口調で迫ってきました。その態度に嫌な予感がして一度は断りました。するとその男は私ににじり寄り、壁ドン(胸キュンの方でない、怖いやつ)で「恵まれない子供たちのために寄付するのが嫌だっていうのか」と脅すように迫ってきたのです。今ならそんな事をされれば経験とおばちゃんパワーで逆にこっちが脅してやるくらいの勢いで追い払うでしょうが、ウブな海外初心者だった私は怖くなり幾らかお金を渡してその場をやり過ごしてしまいました。彼が本当のチャリティーワーカーだったのか、そうでないのかは分かりませんが、明らかに私の性別や人種を含めた容姿や醸す出す雰囲気から「カモ」と踏んだのでしょう。
日本人、女性、英語ノンネイティブ3つ揃った私は一番ターゲットにされやすい属性なのかもしれない。日本人は大人しいというイメージがあり、身体的にもあまり強くは見えません。しかも女です。端的に言えば「とっても舐められやすい」属性と言えます。悔しいけれど事実です。現に知り合いの日本人が何かでお金を請求された時、「これは自分が払わなくてはいけないのだろうか?」と納得いかなくても相手がまくしたてたり、法律の条項が記してあるレターを送られたりして震え上がり、トラブルを避けるためにお金を払ってしまうのを何度も見てきました。
日本人、女性、英語非ネイティブの事実は変えられないし、背が高く筋肉粒々のボディーガードのような肉体を手に入れることもできません。が、それなら知識で武装すれば良いのではないかと考えつきました。原始時代でもあるまいし、腕力で負けても今時知識の面で強くなれたなら、貧弱な体つきのオリエンタル女でもどんなに口達者な大男にも勝てると思ったのです。しかもこの武器は置き忘れたり、無くしたりする事がない。いつも私の身体と一緒に動き、ハンディです。
実際、法律の知識を得てからちょっとやそっとの事では動揺しなくなったし、イギリス生活が楽になった様に思います。幸い今のところ大きなトラブルには見舞われていませんが、アンリーズナブルな請求をされたときなど、法律で武装した慇懃無礼な鬼の様なレターを書くと、相手が即刻言い分を取り下げてくるケースが数回ありました。舐めていた日本人女がこんなに「強力な」レターを書ける事を想像もしていなかった相手の顔を思い浮かべて、ひっひっひと密かに爽快な気分になります。
最後まで読んでくださってありがとうございます!サポートしていただいたら、イギリスでは滅多に食べられない美味しい日本食を食べに行きます!