【村上春樹】 記
「1Q84」が発売される直前だったでしょうか、作家の林真理子さんが
数年に一度、小説を書き上げそれが発売前から話題になる作家は村上春樹さんをおいていない。作家としてうらやましい。
と、ある雑誌に寄稿されていました。
確か、「1Q84」は予約が殺到していた作品ではなかったでしょうか。
アメリカで課題図書にもなっていた「海辺のカフカ」
私がアメリカ・カリフォルニア州の州立カレッジで音楽を学んでいた頃、日本人の友人が英米文学のクラスを取っていました。
彼女は元々日本では、中高一貫校で国語を教えていた人だったので、英米文学に興味を持ったようです。
ある学期、村上春樹の『海辺のカフカ』が課題図書になった、と彼女はうれしそうに報告してくれました。
もちろん、クラスでは英語に翻訳された作品で授業が進みますが、日本語での原書を併読すれば、英語で直接読むよりははるかに楽だろう、という理由で彼女は喜んでいたのです。
しかし、残念ながら友人の目論見は外れました。
日本語で読んでも難しい・・・。
無事にその学期を乗り切った友人は、私に日本語版「海辺のカフカ」を貸してくれました。
海外に暮らしていると日本語の本や雑誌は貴重品。しかも、村上春樹の小説。
喜んで読み始めたものの・・・、途中でギブアップでした。
「風の歌を聴け」との出会い
「乾いた作風」として村上春樹氏のデビュー作品、『風の歌を聴け』は話題になっていました。
奥付を見ますと、初版は昭和57年7月。
私が買った文庫本は、昭和60年5月の第9刷。
実際にこの本を手に入れたのは1987年(昭和62年)。
当時、私は高校生から大学生になった頃で、地元の奈良でバイトをしつつ休みには神戸に住む祖母を訪ねていました。
何度読んでも飽きない小説で、近鉄電車、地下鉄、阪急電車、と乗り継いで祖母の家にたどり着くまで、ずっと読み耽っていました。
私と同じ大学生なのに、「僕」と「鼠」は行きつけのバーがあったり、車を持っていたり、ガールフレンドがいたり、すごく大人だなあ、とうらやましい思いがしたものです。
祖母の家に滞在している間は、一緒に三ノ宮に出掛け、賑やかなセンター街・元町を歩いていると奈良にはない華やかさに、私も小説の登場人物に近づけたようなワクワク感を感じました。
また、「僕」が生まれた街について話すくだりがあり、その箇所を読んだときに、「これはもしかしたら芦屋のことかもしれない」と思い当たり、灘区の祖母の家にいると、小説の世界の端っこに私もいる!なんて妄想でうれしくなったりもしました。
奈良ー神戸間の移動の際には必ずバッグに入っていた小説、『風の歌を聴け』は、私にとって生涯手放せない一冊です。
相性の良し悪しもまた良し
『海辺のカフカ』はどうにも難しくて私は読了することができませんでした。
『1Q84』はギリギリなんとか読了しましたが、『風の歌を聴け』のような何度も読み返したい作品にはなりませんでした。
村上作品は長編、中編、短編小説とたくさんあり、私のように長編はちょっとアレだけど、短編は好きという方もいらっしゃると思います。
ウィットのきいた、洒脱な村上エッセイを好む方もいらっしゃるでしょう。
若かりし頃の私は、『風の歌を聴け』から、『1973年のピンボール』、『羊をめぐる冒険』などはぐいぐい引きつけられて読みました。
『ノルウェイの森』あたりで、ちょっとした違和感を持ち、『国境の南、太陽の西』をなんとか読み終えてから、しばらくは『風の歌を聴け』ほどのインパクトを受ける作品に出会っていません。
あるいは、私の感性の問題かもしれません。
しかし、先にも書きましたように、多くの作品を発表している作家なのでその作品ごとに自分との相性はあって当たり前だと思っています。
あれこれ詰まった一冊
そんな私に宝箱のような一冊が現れました!
まさに珠玉の作品集。
基本は全てエッセイですが、私たちがこれまで読んできた村上作品が生まれたきっかけとか、書くにあたって調べたことから派生した小話、作品発表後の評価に対する作者の想いなどが書かれており、なんだかお得感を感じます。かなり分厚いですしね!
(余談ですが、私が子供の頃、駅前のケーキ屋さんが『モザイク』という名前の長方形のケーキを売っていました。底がうす〜いパイ生地、バームクーヘンやスポンジケーキの小片がランダムに積み重なり、一番上には甘く煮たリンゴのコンポートが。
私はこれが大好きで、父や母が買って来てくれるととてもうれしかったのです。
実はこのケーキは、各種のお菓子、ケーキの余りものを再利用して作っていた一品。
後年、両親からその話を聞かされ「ボリュームもあったし、お手頃価格だったからよく買っていた」と言われた時には、「あんなに美味しいケーキをそんな理由で両親は買っていたのか。ケーキに対して失礼だ!」と、妙な怒りが湧いたものです。
この『村上春樹 雑文集』を読み始めた時、私の頭の中を『モザイク』が横切って行きました。)
『雑文集』はまだ読了していません。
私が読んだことのない村上作品を読みたい、と思うきっかけになるかもしれないし、すでに読んだことのある作品の「裏側」を知るのも楽しみです。
少しずつ少しずつ味わって読んでいこうと思っています。。
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