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ユーザーのグローバル化とアプリケーションの多言語対応について

こんにちは!ゲストライターのトゥクです。
本連載では、外国人視点から日本に住む上で感じたこと、気づき、出来事を通して、読者の皆さんに新たな視点や発見を届けたく、私自身や家族、友人が外国人として日本に住む中で感じていることや、出来事についてご紹介しています。前回は「こんなに違う!ベトナムと日本の日常」というテーマの記事を発信しました。

今回は私が持つデザイナーと外国人と言う二つの視点から、アプリケーションの多言語対応について考えていこうと思います。本記事では、最近私が出会ったアプリケーションを例に挙げつつ、国内のアプリケーションにおける多言語対応の方法を考察していきます。
デジタルプロダクト開発に携わる方や、普段利用される方からのご意見もお待ちしておりますので、是非とも最後までお付き合い頂けたら幸いです。

「連絡用アプリ」から考える多言語対応の必要性

今回ご紹介するのは、私が甥っ子の子育てを手伝う中で出会った連絡用のアプリケーションです。
私には3人の甥っ子がおり普段から同居しています。そのため私が、甥っ子のパパやママの代わりに役所や学校に関連する書類申請の提出や、連携などを行う事も多くあります。毎日幼稚園の送り迎えも私の仕事です。
私の甥っ子が通っている幼稚園では、資料配布や送り迎えの連絡、幼稚園での様子などのお知らせは、紙の連絡帳を使用せず、「連絡用アプリケーション」を活用してます。

「連絡用アプリケーション」を活用することで、今まで電話をしなければならなかったり、手帳に文字を書かないといけなかった手間と比較すると、とても便利になりました。一方で、日本語がわからない保護者も一定数存在し、そのような方は、基本的に日本語で作成されている「連絡用アプリケーション」を活用することが出来ません。その為、毎日お願いされていること(その日の自宅での様子、お迎え時間などの申請、毎月のお知らせ資料の確認等)を今まで同様に直接電話をして幼稚園とコミュニケーションをとるような保護者もいます。
こういったコミュニケーションに関してはアプリを活用できない方の存在を前提にルールや運用方法を考えることが大切だと私は考えています。そのため、必要以上にデジタルに頼りすぎることなく、幼稚園自体が対人でケアを行う必要も出てくるのではないでしょうか?

多言語のユーザーを想定しているアプリケーションでは、多言語対応を行っているアプリケーションも多く、各アプリや企業ごとに様々な試行錯誤の結果が見受けられます。
私自身もデジタルプロダクトを作ることを本業にしていますが、多言語対応はコストがかかり、それぞれの言語を利用するユーザーが一定数いなければ、コストに対して効果が見合うことは難しいという面があります。
しかしながら、人々の暮らしに欠かせないような医療、教育、行政等のサービスにおいて、費用対効果を最優先の指標にしてしまうと、結果的に排除されてしまうユーザー(対応していない言語話者等)が出てきてしまいます。
ただ、多くのデジタルプロダクトが民間企業によって作られているという側面もあるので、サービスを拡大させるために費用対効果を考えないわけにはいかないというジレンマがあります。

多言語対応の障壁とは?

改めて、多言語対応の障壁とは何なのでしょうか?

私自身、デザイナー歴は浅く、私見に基づく内容になっているので、以下で述べる見解が間違っている可能性もあります。そのため、実際にプロダクトの多言語対応を行っている読者の方がいらっしゃいましたら色々と勉強させていただけたら嬉しいです。是非ともコメントお待ちしております。

多言語対応をするべき二つの理由

まずは、私が考える多言語対応をするべき場合と理由を2つ挙げさせていただきます。

  1. 「海外マーケットへのプロダクト展開を通してユーザーの拡大を目指す場合」
    国内で飽和したサービスの場合、次のステップとして海外マーケットへの展開を視野に入れる可能性が考えられます。
    その際に、国内のユーザーと海外のユーザーでは母語や文化の違いを考慮する必要性があり、多言語対応が必要になります。

  2. 「国内で展開しているサービスを享受出来ていない新規ユーザーを開拓する場合」
    過去の記事で私が紹介した「病院のカルテに書かれた日本語が読めない外国人」のように、国内在住でも国内で展開された最低限の公共サービスにアクセスすることが困難なユーザーも存在します。個人的には、前述した通り、本ケースは当人の権利に関わることでもあるので、費用対効果で多言語対応の有無を考えるべきでは無いと感じています。

多言語対応における「デザイン」の障壁

前述した通り、多言語対応は様々なサービス開発における必須事項となりつつあります。そこには費用対効果を考えるという障壁も存在しますが、本節では、多言語対応を行う際のもう1つの障壁である「デザイン」について述べたいと思います。

一つの言葉を多言語で表示しようとすると、それぞれの言語に応じて文字の向き、長さなどが違います。例えば日本語や英語などであれば、左から右に向かって文字が書かれるのが一般的ですが、アラビア語などであれば右から左に向かって文字が書かれます。デジタルプロダクトなどであれば、UIなどもそれに従って表示されます。

例えば、アラビア語になったTwitterは、右から左へ視線が流れる設計になっています。

Twitterでアラビア語に変更した際の操作画面

このように、UIデザインをする際にボタンラベル(=ボタン内に表示するテキスト)に合わせて画面のレイアウトやボタンの配置を考えたりしても、多言語対応を行った際に各言語のルールなどによって、母語を基本としてデザインされた綺麗なデザインが崩壊してしまう場合があります。

そのため、デザインにおける「わかりやすさ・綺麗さ」などのクオリティを担保しながら、多言語対応を行うことは簡単なことではありません。ですが、その見た目のクオリティはユーザーが使い続ける要因に直結するため、このクオリティを保つことも必要であり、ここに多言語対応における「デザイン」の障壁があると考えられます。

事例紹介:ユニークな多言語対応の実装例

ここまで多言語対応の目的と、その難しさについて紹介してきました。ここからは、ユニークな多言語対応をしているアプリを1つ事例として紹介させていただきます。

VISH株式会社の提供する「れんらくアプリ」

上記のアプリは、私の甥っ子の幼稚園で実際に使用されていて、「多言語対応」に対してユニークな実装をしていると感じたので、今回取り上げてみました。
甥っ子の幼稚園では、こちらのアプリケーションを活用して、「毎月の園だより」などの配布物共有、園からの諸連絡、毎日の欠席連絡などを行っています。
もちろん私以外にも、甥っ子の両親がスマホにダウンロードをしています。しかしながら彼らは日本語が読めないのでUIパーツ(ボタン)などの意味がわからない場合が多いです。この問題に関しては、多言語対応しているアプリケーションであれば、UIパーツなどは実装側サーバーで指定されているテキストに置き換えられる場合もあります。しかし、幼稚園側が日本語で入力したテキスト情報(=例えば、その日の給食情報など)は対象ではないので、そのまま日本語として表示されることが多いです。なので、逐一文章をコピーして、Google翻訳にかけて読むなどをユーザーが行う必要があります。ただ、その一手間を毎回することも面倒ですし、そのようにアプリを跨いで翻訳してから読んでみるという選択肢を想像できるユーザーは、ネットリテラシーがとても高くなければ出来ず、少数派なのではないでしょうか?

そのような問題に対して、こちらのアプリケーションでは標準でGoogle翻訳が搭載されています。Google翻訳の精度に関してはまだまだ課題があるとは思いますが、AIの発達などに伴い、翻訳精度も上がっていくと考えています。ちなみに、どういう実装がされているのか私の知識不足もあり分からないので、知っている方がいたら教えてください。

そしてここで実装されているGoogle翻訳の範囲は、画面に表示されるあらゆるテキスト情報を翻訳してくれるのです。幼稚園側が入力したテキストも対象となるというところに感動しました。

甥っ子の幼稚園で使用しているアプリの操作画面
甥っ子の幼稚園で使用しているアプリの操作画面

ただ、先述したように言語によって文字の長さや向きが異なるので、作り手がおそらく意図していなかった「デザイン」になってしまっている箇所もあります。ですが、外国人保護者の視点からするとその「見た目の綺麗さ」より、我が子が通う学校に関する情報が届いている、理解できることの方がこのアプリを利用する上では大事なのです。加えて、このアプリケーションを使うタイミングは日常の中で限られていますし、アプリから「卒業」*するタイミングが決まっているので、UIの「見た目の綺麗さ」に関してもある程度許容できるのではないかと思います。

*ここで言う「卒業」とは、ユーザーが求める体験をそのアプリを使う目的で達成して、ユーザー自身が使う必要がなくなり、手放すことを指しています。

実際に私の場合は、毎回私が幼稚園からの通知連絡を確認し、その後両親に伝えていましたが、この機能があることで両親が直接確認できるようになりました。こうなることで、家族間でコミュニケーションが円滑になり、私としても情報をインプットして整理・伝達する手間が省け、とても助かっています。

前述した通り、デザイン上の「見た目の綺麗さ」を担保しながら多言語対応するのは、とてもコストがかかります。しかしながら、この「れんらくアプリ」を通して、「国内在住で国内のサービスを享受できていないユーザー」をケアするのに、「完璧ではない方法」でそのユーザーが求めている体験を迅速に提供することができる可能性があるのかもしれないと改めて考えさせられました。
そして、デジタルプロダクトに関わらず様々な場面でこの姿勢は大事だと思います。異なる言語を使う人と出会った時、完璧に伝えることよりも、「伝える姿勢」や「取り敢えず伝える」ことが大事ですもんね。

おわりに

ここまで、デザイナー視点で多言語対応の理由や障壁について触れながら、外国人視点でアプリケーションを使う体験と、実際に著者が出会ったアプリケーションを通して多言語対応と向き合う可能性を考えてきました。
今後、ますます多くの国籍を持った人々が日本に訪れ、仕事をしたり、暮らしたりしていくと思います。その様な現状を踏まえると、作り手として、自分が想像もつかないバックグラウンドを持った人々を対象にデザインや設計をしないといけなくなると予想できます。その際に、自分と異なる文化背景や価値観を持つ人への寛容さと、想像をしようとする努力をしようとすることが大事な一歩ではないかと思います。

この記事を通して、「確かに」「なるほど」と言う発見を提供すると共に、何気ない日常生活で出会う種々の事柄を、多様な視点で見つめ直してもらえたら嬉しいです。
次回も、今回とはまた違ったトピックに関して外国人としての視点からの感想をお届けしようと思っています。毎月更新していく予定ですので、また来月の記事も楽しみにしていてください!
ここまでご愛読くださり誠にありがとうございました!


とぅく / Lathanh Truc:DeNAデザイナー
ベトナムホーチミン市出身。
多摩美術大学情報デザインコース卒。Takram UIデザインインターン生。
「UX/UIデザイン」「デザインマネジメント」「対話する場づくり」「ひとりひとりの背中を押して、人生を応援するデザイン」
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