見出し画像

誰かの生きづらいを誰かの価値に「ouca」 | インクルーシブデザイン事例インタビューVol.6

インクルーシブデザイン事例インタビュー第6回は、インクルーシブデザインの考え方を踏襲し、下着や靴下などの企画・製造・販売を行うアパレル&コミュニティブランド「ouca」です。「ouca」の代表である田村氏にお話を伺いました。

インナーアパレルを展開するouca。最初のキッカケは祖母との何気ない会話から

ーまずはじめに、ouca様の活動内容を教えてくださいー

田村氏:oucaは、インナーアパレルの企画・製造・販売を行っているブランドになります。「ouca」というブランドの名前は、「人生を謳歌する」という意味で名付けました。私自身は幼い頃から物作りが好きで、小中学生の時に思い描いた洋服を作るという仕事をずっと続けて来ました。そんな中で、服作りと「人生を謳歌する」という私の思いを掛け合わせて、「ouca」というブランドが出来ました。

ーoucaの活動を始めたキッカケを教えてくださいー

田村氏:祖母と2人で喋っていた時に、いきなり祖母に「目も見えなくなって耳も聞こえなくなった役に立たない人間になったから、スクラップにして欲しい」って言われたんです。この一言が衝撃的すぎて、初めて「あ、おばあちゃんって障害を持っていたんだ」と気づいたんです。今まで私は、目は見えずとも料理や洗濯、自分でちょっとした裁縫もこなす祖母を見ていたので、あまり障害者という認識が無く接していました。

そんな祖母の「スクラップにして欲しい」っていう言葉を聞いた瞬間、祖母にも悩みや葛藤があり、祖母の苦しみを直に感じました。そのことがキッカケで何かしなければいけないと思い活動を始める決意をしました。

誰かの生きづらさが誰かの価値になる、oucaが服作りでそんな世界を目指し始めたもう一つのキッカケ

田村氏:そんな祖母に対して母は「目の見えない今のままのおばあちゃんで良い。むしろあのおばあちゃんだから私たちが学ぶことはたくさんあるし、だからおばあちゃんは本当に凄い」と。「私たちにとっては宝物で、目や耳が使えなくとも、そばに居るだけで良いんだ」と言っていました。

私はそれを聞いて、居るだけで承認されるって当たり前のようで当たり前じゃないけれどそうあるべきではないか、と考え始めました。母との会話からの気付きもキッカケとなり、誰かの生きづらさが誰かの価値になるなら、その生きづらさは最初の小さな種みたいなもので、服作りを通してそれをどう生かすことが出来るのか、という考え方に発展していきました。
そんなことを考えている矢先にインクルーシブデザインという言葉に出会って、祖母が抱える生きづらさをファッションに落とし込むことが可能だと思いました。

ブランド名の変化から見える田村氏の想い

田村氏:最初は祖母の名前をとって「サカエ」というブランド名を使っていました。祖母が命を繋いで良かったと思ってもらいたい、そしてそう思える活動をしようと考え、祖母の過去を根掘り葉掘り聞き出すことを頻繁に行っていました。そんな中自分自身を振り返る機会がありました。すると、私自身も子供の頃からコミュニケーションに苦手意識があり、人と上手くいかないなどの生きづらさを感じることが多かったと気付き始めました。

このように振り返っていくと、個人の「生きづらさ」とは障害があるなしは関係ないと思うようになりました。生きづらさって他人には理解されないことも多く、障害者手帳を持っているか持っていないかは全然関係ないなと。だからこそ、もっと人間としての根本的な部分を見つめ直す必要性を感じ始めました。そのような想いもひっくるめて、「サカイ」から「ouca」というブランド名に変えました。

友人の一言から始まった、誰も間違えない靴下「minamo」の開発

ー「minamo」という商品に関して概要を教えてくださいー

田村氏:「minamo」は、「誰も間違えない靴下」として販売している商品です。始まりは、視覚障害者の友達から、「ある朝靴下とかタイツとかめちゃくちゃ間違えるんだけど、どうにかしてくれない?」という声でした。その声をきっかけに、間違えない靴下を作りたいなとずっと考えていました。実際に祖母も靴下を履くのにすごく時間がかかっていたので、これは作ろうと決意し商品開発が始まりました。

「minamo」の靴下は、表裏が無いことが一番の特徴です。また、裏返しにすると色が反転し、柄を2倍楽しめるという魅力もあります。かかともありません。表裏もかかとも無いので、縫い目もありません。さらに、私が感覚過敏ということもあり、靴下の締め付けを極力減らした構造にしています。「minamo」のような筒状の靴下ではズレを防ぐために各所にゴムを入れることが多いのですが、「minamo」は靴下の構造設計を変えることでゴムが無い筒状の靴下が完成しました。

ー「minamo」という名前の由来を教えてくださいー

田村氏:実はouca自体が水をモチーフにしていることから、「minamo」の柄では水面がキラキラ輝いている様子を表現しています。また名前には、キラキラと個性が輝いてその人らしく「人生を謳歌できるように」という願いを込めています。

ー商品説明に「障害者向けとは書かない」ことを意識している理由をお聞かせくださいー

田村氏:一番の理由は障害者向けに作ると他の人は見向きもしないからです。カテゴライズすることは大事ですが、時と場合を選ばないと勿体無いというか寂しいなと思うことがあります。まずはカテゴライズしないというのが前提に、障害の有無に関わらず日々みんな生きているということを商品を通して知ってもらいたいと思っています。実際商品を買ってくださったお客様が、視覚障害者の人ってこういうことに悩んでたんですねって勝手に気付いてくれて、このように商品を通じて別の知らない人を知る機会を作る為にも、障害者向けとは記載しません。

ー「minamo」を開発する中で、どのような困難がありましたか?ー

田村氏:コロナ禍ということもあり、リードユーザーの方に試着してもらえない事や、直接会って感想を聞くことなどが出来ない期間があり、オンライン上でしかやり取りが出来ないのことがストレスでした。また、実績も何もない人がいきなり靴下工場でこんな靴下作りたいって言っても、「minamo」の特徴は靴下業界からしたら普通しないよねということを言われたりして、開発期間に1年近くかかったことも困難でした。

まずは当事者を知ることから始めた田村氏の向き合い方

ーouca様はアパレル製造販売の他に、「夜な夜な女子会セキララ部」などのワークショップ等、いろいろな活動をされている印象を受けました。これらの活動に関して概要を教えていただけますか?ー

田村氏:私は職人畑の人間なので、服作りの現場しか知らないし、現在のoucaが対象としているような当事者の方は祖母しか知りませんでした。障害者手帳を持っている方や、生きづらさを感じている方と話す機会が全く無かったので、そんな人たちをもっと知らなければいけないと思いました。そんな時に出会ったのが、「ヘレンケラー自立支援センター すまいる」さんでした。全国にも盲ろう者(※)を対象とした施設は少なく、これは凄いなと思い「すまいる」さんとの交流が始まりました。
※盲ろう者の出典:http://www.tokyo-db.or.jp/what/ 

最初は話を聞きにいくだけでしたが、もう少し密に交流を深めたいと考えワークショップを提案しました。丁度コロナ禍に入りアパレルの仕事が停滞していた時期でしたので、今の時期は人と会う機会を増やそうと思い、zoomを活用して当事者の方と交流する機会を増やしていきました。

人生を謳歌するために必要なことを学ぶ為に行われた数々のイベント

田村氏:zoomで交流してく中で仲良くなった女の子同士が集まって女子会のようなものをするようになりました。脳性麻痺や高次脳機能障害を持つ女の子たちが参加するこの女子会では、普段外で話せないような性や恋愛の話をメインにかなりディープなところまで話します。マッチングアプリをどう使うのか?とか、障害の有無を表記するのか?とか。それぞれ身体的な機能の関係で出来ること出来ないことがあるので、彼氏との性行為についてなど非常に深くまで話します。これが「夜な夜な女子会セキララ部」です。

このように交流の機会を設けることを目的として、ワークショップやイベントを開催していました。oucaが掲げる「人生を謳歌する」ということは、服だけでは不十分だと思います。お金や恋愛や性のことも必要だと思います。私は、そのためには「知る」ことが非常に重要だと考えています。知る必要があること、学びたいことをコンテンツにしてイベントを開催しました。

商品開発期間にイベントを開催する意義とは

ーイベントを開催している期間、アパレルの方はどのような活動をしていたのでしょうか?ー

田村氏:イベントの開催期間は、大体商品開発をしている期間でもありました。裏側では商品の開発をしていて、開発途中なので表に情報をあまり出せない期間でもありました。お客様との接点がなかなか取りづらいんです。でも実際は、商品開発後にいきなり商品を出しても、お客様との繋がりが無ければ「?」の状態になってしまいます。「なんか良さそうだけど、で?」みたいな。それって機能的価値観だけを押し付けているような気がして、そこだけを見られないように、お客さんと言うより友達を作ろうと思いました。

その友達作りの意味もあり、イベントを開催しています。人生を謳歌するためのテーマを決め、先生を招き、障害の有無に関わらず安心して来られるイベントとして周知しました。そしてイベントの最後に、今開発している商品の宣伝とか、oucaはこんな想いを持って活動していますと言うことを伝えました。このようにして、商品開発とイベントを結びつけていました。

ーイベントを行う上で気をつけたことはありますか?ー

田村氏:ワークショップやイベントは、障害の有無に関わらず安心して来られるように気をつけていました。安心して来られると言うのはバリアフリーにしたら良いかというと、私は違うと思っています。逆にバリアフルにすることこそ大切だと考えています。

オンラインでのイベントでは、特に視覚障害者の方は大変になると思います。その際に、分からなかったら参加する人に聞いてみんなで解決しましょう、としました。デリケートゾーンケアについてのイベントをオンラインで開催した際に、子宮の形を説明する必要があり、視覚障害者の方にどう伝えるか、という困難が起こりました。その時に視覚障害者の方がジェスチャーで表現したら良いと伝えてくれて、自分の身体を動かして形を理解してもらう伝え方が発見でき、困難が解消されました。バリアフルな状況で生まれた交流によって結果的にバリアフリーになりました。

もちろんバリアフルが苦手という人もいるかと思います。それでも様々な不便を抱えた人が集まるイベントなので、絶対にバリアフルな状況になります。私はそんな状況の中で生まれる知らない人同士の交流によって得られる気付きこそが大切だと考えています。自ら気付くことで、知識を生活に落とし込むことが出来て、イベントの次の日から視覚障害者なり車椅子の人なり、そういう人たちが参加者の日常に現れるってことが大切なんです。

oucaの商品が、自分の生きづらさを誰かにとって価値あるものに

ー活動を続ける中で、嬉しかった反響など教えてくださいー

田村氏:嬉しかった反響は、インナー商品のリードユーザーになってくれた女性と定期的にやり取りをしていて、こういう風に売れたよとか、商品を通して出会ったお客様からの感想とかも伝えています。するとリードユーザーの方は、自分がこうやって役に立ったんだって凄く喜んでくれて、その様な喜びの声を聞けたことが嬉しかったです。靴下に関しても、リードユーザーさんが「左右の靴下の色が違いますよ」と指摘された際に、自信を持って「これで合ってます、これはお洒落なんです」と言えたと、自分が関わったから自信を持って言えると、そういう嬉しい反応をいただけることがあります。

ー最後にouca様や田村氏が今後挑戦していきたいことを教えてくださいー

田村氏:やっぱり物作りをしている人間として、実は出している商品に1個も納得していないんです。なので改良を重ねていきたいし、もっとこんな商品を出したいという思いがあります。インクルーシブデザインという枠にも囚われずに心地よく生活をするみたいな、障害の有無に関わらず「いい人生だよね!」って思えるような、また商品を使ったときに「心地良い!」と単純に感じてもらえる様な物作りをしていきたいです。
私自身心地良く生きられる方法をずっと探しています。心地良いかどうかという視点でいろんな物事を判断することが多いです。なので、私自身もそうですし、私と繋がってくださっている方が心地良くなる環境や物を作って行けたらと思っています。

リードユーザーさんとは、その場限りで終わりでは無く、例えば靴下に関していうと、リードユーザーとして関わって頂いた視覚障害者の方が多いので、了承を得て盲ろう者施設に売上の一部を寄付しています。下着に関しても関わってくださった方には売上の一部を納めさせて頂いています。リードユーザーの方は、活動資金として使って欲しいから要らないと言われることもありますが、しっかりお金の循環も作りたいと思っています。基本的に私の行うことは大きなビジネスでは無いので、私の身近な人にしか手を差し伸べることが出来ないと思っています。

お客様が主体的に繋げたくなるとか連鎖が起こっていくことが大切で、その様な連鎖を生むための物作りをしていきたいと思っています。

【インタビュー後記】

今回oucaの代表である田村氏にお話を伺いました。田村氏のお話は、一つ一つが自身の体験に基づく気付きや想いから来ており、力強い活動意義を伺うことが出来ました。田村氏のリードユーザーとの関わり方は非常に参考になる内容で、「お客様」では無く「お友達」として関わっていくことの必要性を改めて感じました。私も日常生活の中で当事者の存在を認識することは簡単なことでは無いと痛感しており、本記事の内容並びにouca様の今後の活動は、私たちがインクルーシブを理解・体現する助けになると思います。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。次回のインタビュー記事もお楽しみに!

ouca出展:「ひとりからみんなのデザインへ~ささやかな身支度展~」


ouca紹介

マイノリティを巻き込んで作るアパレル&コミュニティのブランド。 インクルーシブデザインで肌に優しい下着や、ホームウェアを企画・製造・販売
。ブランド名の由来は、「私らしく心地よく心豊かに人生を纏おう、我が世の春をoucaしよう」

田村 優季(Yuki Tamura)​​/ouca代表。
高級プレタの婦人服製造工場に6年間勤め、国家資格「婦人子供製造技能士」を取得。フリーランスで雑食縫製士を名乗り、スーツからドレス製作などの一点物の製作やサンプル制作を行う。
2018年人生を大きく変える出来事を経験し、インクルーシブデザインで作るアパレルを目指す。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?