ビオディナミワインとは・・・
ビオディナミ(英語ではバイオダイナミックス)という際、一般にビオディナミ農法のことを指します。それを理解しようとした時、「生命の諸力」「プレパラート」「ディナミザシオン」「天体からの影響」などのビオディナミ特有の用語の出現により、そのスピリチュアルに感じられる側面に眉をしかめ、胡散臭いと感じる人は少なくないでしょう。もしかしたら、ビオディナミ農法を実践するのはヒッピーのような風貌の一部の熱狂的な変わり者だけだと想像する人もいるかもしれません。
しかし今や、多くのヴィニュロン(ブドウ農家であり、ワイン醸造も自ら手掛ける人)が、特に職人肌の優れたヴィニュロンが、ビオディナミ農法は何世紀にもわたって耕され、育てられた土地(テロワール)の力を表現する方法であり、大地と結びつくための方法であることを理解しています。そして例えば、ドメーヌ・ロマネ・コンティにドメーヌ・ルフレーヴ、ボルドー5大シャトーのシャトー・ラトゥール、ローヌ地方で200年の歴史あるM.シャプティエなどの誰もが知るようなワインメーカーがビオディナミ農法への移行を果たしているのです。ビオディナミの国際的な認証団体、デメター・インターナショナルのホームページを見ると、ヨーロッパを筆頭にビオディナミ農法を取り入れる生産者が年々増加しているのがわかります。
日本ではワイン業界の場に限って、ナチュラル・ワインという大きなくくりの中でビオディナミというカテゴリーを目にすることが出来ますが、しかし、一般消費者が日常的にワインを選ぶときにビオディナミについての情報を知り得る機会は非常に少なく、またブドウ栽培にビオディナミ農法を採用する日本のワインメーカーも殆どいないというのが現状です。
まずはビオディナミ農法がどういったものなのか、その概要を紹介したいと思います。
「ビオディナミ」とビオの違い
一般的にビオまたは有機農法とは、「ある種の農薬を使用しない農業」と定義できます。ある種の農薬とは、除草剤、化学肥料、防虫剤、害菌防止剤などがあり、これら農薬の内、有害性の高い農薬を使用しない方法を取るのがビオという事になります。そして、ビオディナミもビオの一種だということ。
ビオと同様に特定の農薬を使わないことが前提で、事前にビオとして認められていなければなりません。
では「ビオディナミ」とその他の有機農法や減農薬栽培や、所謂ビオやオーガニックとの違いは何でしょうか?
ビオディナミの国際的な認証団体、デメター・インターナショナルのVision & Missionを伝えるサイトの序文では、次の言葉が掲げられています。
"HEALING THE EARTH THROUGH AGRICULTURE"
デメター・インターナショナルは、農業を通して良質な食品を加工し、取引するだけでなく、人間と地球両方の発展に関わっていくことを強調しています。地球を健康にする、とは特に土壌の健康状態を何よりも注視することで、土壌中心の考え方はビオディナミ農法の特徴と言えるでしょう。
例えばブドウ畑に何らかの病気が発生した時、病気そのものと闘うのではなく、病気の発生に先立つ周辺環境の乱れを修正する、というのがビオディナミ農法のロジックです。ではどうやって周辺環境の乱れを修正するのか?
ここで登場するのが、植物を煎じてつくられた「プレパラート」という調合剤、つまり肥料です。用途に応じて数種類存在するプレパラートは、「ディナミザシオン」という過程を経て畑に散布されます。(プレパラートやディナミザシオンについては、別の記事で詳しく。)プレパラートの散布は、「活力が足りない」「湿り気が多すぎる」といった崩れてしまった畑の土壌のバランスを改善し、生命の力を最大限に引き出すことを目的としています。畑の環境、特に土壌を改善させる点は、ビオとビオディナミの本質的な違いと言えます。
次に、ビオディナミ農法は、自然界のリズム、特に月の満ち欠けのリズムに則って実践されるということも、その他のビオとは大きく異なる特徴として触れておかなければなりません。
ビオディナミには、次のような重要な考え方があります。ヴィニュロンは単に自分の区画を耕しているのではない、その畑はより広大な全体の一部であり、全体からの影響を強く受けるため、全体を知ることが肝心である、というものです。だからテロワールそして地域の一部、さらに地球という惑星、太陽系、宇宙に関係している、というわけです。
宇宙のリズムに合わせて農業を行うための指針として、ドイツのマリア・トゥーンが開発した「種まきカレンダー」が有名です。種まきカレンダーの中には「果実の日」「根の日」「花の日」「葉の日」というものが存在し、その期間、植物のある部分(果実、根、花、葉のどれか)が優位に成長するという事が示されており、種まき、耕作、プレパラートの散布、収穫などを行う日を決めることが出来るようになっています。
ですが農業は、天体以上に天候に大きく左右されるものです。全ての作業を種まきカレンダーに沿って行うことは逆効果を生んでしまうことになりかねないため、ヴィニュロンにとって、種まきカレンダーはあくまでも多くの判断材料の一つに過ぎず、種まきカレンダーを意識することで、より自然に近づき繊細に仕事をすることができるのです。
種まきカレンダーは今でも天文学データから更新され、毎年出版されています。
ビオディナミの祖、ルドルフ・シュタイナー
ビオディナミ農法の始まりは、100年前の1924年、ドイツで始まったと認識されています。1920年代、化学肥料の使用や単一栽培化による負の影響に気づき始めたドイツの農家たちは、哲学者であり人智学(アントロポゾフィー)を確立したルドルフ・シュタイナーに農業講座を開催するよう依頼しました。そして1924年、彼は「農業再生のための霊的基盤」と題された8つの講座を行います。
講座の中で彼は、農業は植物自体でなく土壌を健康にすることに焦点を当てること、植物の生命が太陽、月、その他惑星など宇宙の力を受けて成長していること、大地の生命力を活性化させる肥料(プレパラート)の作り方、農業は健康や身体活動を支えるだけでなく深いところで精神的、社会的生活と結びついていること、などを説いています。
彼が開催した8つの講座を速記で書き起こしたものが、のちに『農業講座』として出版され、和訳も存在します。
講座後、ドイツの一部の農業団体や研究者たちは、直ちにルドルフ・シュタイナーが提唱する農法を実践し、講座開催から4年後にはデメター(Demeter)という商標が出来て、消費者の前に農作物が登場するようになったのです。
ビオディナミワイン
日本の一般消費者の間で、ビオディナミワイン(バイオダイナミックスワイン)の認知はまだ低いと言えます。ですが自然派ワインが市場シェアを広げている今、確実にビオディナミワインも輸入されています。もしかしたら、ビオディナミという言葉を知っていなくても、フランスのブルゴーニュワインが好きでよく飲んだいる人は、既に何回もビオディナミワインを口にしているかもしれませんね。
次回は、ビオディナミワインの見分け方や認証制度など、ワイン醸造に関するパートを紹介したいと思います。お楽しみに。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?