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隙が好き

80'sの音楽は愛すべき「隙」がある。ごちゃごちゃいろいろと詰め込んで豪華に見えるけど、どこか間が抜けていて、それがかわいいのだ。
極端な表現をすると、森高千里の初期の曲。過剰なまでにエレクトリックで無機質な筈なのに、なぜか体温、温度を感じるような・・・

70年代後期から80年代の初期にテクノ、ニューウエイヴのムーヴメントがあり、80年代中盤から終わり頃に打ち込みの音楽が増えてきたが、ドラムマシンのキックとスネアが詰まる感じだったり、黎明期の打ち込みはまだキッチリしていなくて、緩さがあった。そして作り手も手探りだった。
90年代には打ち込みが主流になり、デバイスも急激に進化していき、作り手もキッチリとした完璧な音を求め、余計な物を入れず、人間がプレイする楽器までも削ぎ落し、「隙」、緩さがなくなっていった。今ではギターソロなども聞けなくなったし、あっても弦が擦れる音まで消してしまうという潔癖さ。その結果、逆にわざとらしいというか、ビートしか聞こえない、記憶に残らない物が増えてしまった気がしたんだよな。(※意見には個人的があります)

さて本題へ。88~89年に大ブレイクしたミリ・ヴァニリ "Milli Vanilli"も来たるべき時代を先取りした物を求めたのだろうが・・・

Rob PilatusとFab Morvan、ドレッドヘアでキメた、ファッショナブルなデュオ。曲は時代を先取りしたようなダンサブルなナンバー。余計な物は入れずシンプル、しかしながら打ち込みのキッチリしたBG。90年代を予感させる何もかも完璧な物の筈だった。
88年の「Girl You Know It's True」から5曲連続のビルボードトップ10入り、うち3曲が1位という文句のつけようのない実績をひっさげ、第32回グラミー賞の最優秀新人賞を受賞した。

しかし、愛すべき「隙」がある80's!?
その一点の「隙」がないように見える物が、実は「吹き替え・替え玉」だったというとてつもなく大きな「隙」を持っていた!?

レコードが替え玉なので、当然ステージはそれに合わせての口パク。つまり口パクの口パクだ。機器の故障で(スタッフの嫌がらせか)、サビが何度もリピートされ、それに合わせ踊りながら口パクしつづけていたこともあったという。流石にいたたまれなくなって下がって行ったらしいが。
それなのに、それなのに、グラミー賞のステージでも「Girl You Know It's True」のパフォーマンスを披露しちゃったんだぜ・・・

自分たちの実力でもないのにヒット連発で天狗になっていたふたりは『次のアルバムは俺たちに歌わせろ』とプロデューサーと対立、プロデューサーの逆鱗に触れ、口パクを暴露されてしまったのだった。
替え玉がバレて、グラミー賞剥奪という史上最大の不祥事となってしまい、実際の歌声は失笑を買うレベルで、自慢のドレッドヘアまでつけ毛じゃないかと言われる始末。そんな汚点も80's独特の「隙」ということで、毎年グラミー賞の時期になると“こいつら”(※愛情を込めてこう呼んでいる)を愛おしく思い出している。

余談だが、ドラマ「あまちゃん」の鈴鹿ひろ美の吹き替え・落ち武者(影武者)疑惑のくだりで彼らを思い出してしまったよ。
『わかるヤツだけわかればいい!』ネタだが。

その後の話。“影武者”たちは"The Real Milli Vanilli"として5人組のユニットで90年にドイツ、オタンダ、オーストリアでトップ10入りを果たしている。ミリ・ヴァニリのふたりは“影武者”から3年遅れてRob & Fabとして再デビューしたが鳴かず飛ばず。Robはドラッグやアルコールに溺れ強盗事件で逮捕された挙句、薬物の過剰摂取で死亡するという悲惨な結末が待っていた。この一連の騒動とふたりの人生を映画化するという計画もあったようだが、形にはなっていない。

よく見るとルックスと野太い歌声にギャップがあるかな!?
しかし今じゃ、顔や姿も現さず活動してる歌手もいて、紅白歌合戦にも出場するんだから時代も変わったよな、ホント。

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