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感想:可燃物(米澤穂信)

群馬県警捜査一課の葛警部は、組織の体面も部下のモチベーションも構わない寡黙な一匹狼。捜査員達が足で稼いだ情報を元に、深く推理を巡らせ、事件の裏側にある真実を炙り出していく。

audibleで聴取。
朗読は山内健嗣。
たまげるほど苦み走った声である。

第一声から切腹覚悟の家老みたいな雰囲気なので、この人を起用するという事はよっぽど女性の登場人物が少ない作品(同じ米澤穂信の「黒牢城」audibleもやはり激シブ声=荻沢 俊彦による朗読で、こちらは女性がほぼ一人しか出て来ない)なのかと思ったが、別にそんな事はなかった。

若い女性の役も作品世界内では自然にこなして違和感ないのだが、それにしても、通常の語り口が激シブである。パンチの一発一発が重いヘビー級ボクサーさながらである。

著者初の警察小説という事だが、他の警察小説にありがちな組織的ドロドロはあまり描かれていない。どちらかと言うと「現職の警部が主人公の安楽椅子探偵物」という印象である。

葛警部は聞き取りはする(そして部下に嫌がられる)し、現場にも乗り込む(そして他部署に嫌がられる)が、結局のところ彼は捜査本部で資料をじっと見つめて、事件の中に隠された「本当の道筋」を嗅ぎ取るのである。

スキー場のコース外で失血死した被害者。犯人はほぼ特定出来るのに、現場に凶器が見当たらない。被害者の喉を貫いた棒状の凶器とは何か?

もう、子どもの頃から「めいたんてい100のひみつずかん」みたいなのを愛読してきたこちらとしては、

「つ・ら・ら! つ・ら・ら!」

とシュプレヒコールをあげていたのだが、さすが2023年ミステリーランキング3冠達成作品。葛警部の灰色の脳細胞はそんな罠にははまらないのだった。

あっと驚く大ネタはないが、「あー、……なるほど。あるかもね」と腹落ちするトリックが一作一作きちんと料理されている。


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