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データサイエンティストのマインドチェンジ〜ディープラーニング時代から生成AI時代へ〜

みなさん、こんにちは。
Cubec共同創業者で CAIOの新井田です。

メンバー紹介のvol.1では、医大生データサイエンティストの中村さんを取り上げました。その中で、中村さんはCubecでの大きな「マインドチェンジ」を語っています
目の前の患者さんと向き合う臨床医と、間接的により多くの患者さんを救うことになるCubecの仕事。どちらか一択だと思っていたキャリアが、両軸で続けることをイメージできるようになったそうです。

この「マインドチェンジ」という視点を受けて、Vol.2では私がどんなマインドチェンジをしてきたのかという視点も踏まえて自己紹介をしていこうと思います。

早速ですが、私にとっての一番大きなマインドチェンジといえば、サラリーマンから創業者へ変身する時のマインドチェンジでした。

また、データサイエンティストの活躍の場が広がっている昨今ですが、ディープラーニング時代と生成AI時代とでは、データサイエンティストにも大きなマインドチェンジが必要だと考えています。これについても、私のこれまでの経験も踏まえてお伝えしていきます。


サラリーマンから創業者へのマインドチェンジ

私は医療業界におけるデータサイエンティストのエキスパートです。
データサイエンスでは機械学習・自然言語処理が専門、医療では循環器・リウマチ・消化器・皮膚科・感染症の領域での経験があります。

”医療×データサイエンス”といえば、製薬業界にはAI開発に携わるエキスパートが数多くいます。私も起業前は外資系製薬会社のデータサイエンスマネージャーをしていました。港区のキレイなオフィスで何不自由ない毎日を送っていました。いわゆる順風満帆なキャリアだったと思います。

その中からあえて飛び出して、スタートアップの創業者として経営とデータサイエンスの両立させるエキスパートはまだまだ少数派です。私が自身のwant toに向き合い、創業への思いを確かなものに変えたのはコーチングがきっかけでした。

データサイエンティストをサラリーマンとしてやるのか、
創業者としてやるのかー。

同じデータサイエンティストだとしても、この2つの間の変身には大きな「マインドチェンジ」が必要でした。創業を決意して立ち上がった後でも、何度も襲ってくる不安や恐怖と向き合う日々が続きました。

コンピュータサイエンスか、医学部か

私が医療に関心を持ったきっかけは、母方の祖母のパーキンソン病です。

子どもの頃、お盆や正月に祖母の家にあそびに行くと、祖母の手が震えていたり、よく座っている姿を目にしていました。幼心に不思議に思ってはいましたが、いつもの光景でもあり特に気にせずにいました。

しかし大学生の時、祖母が転倒し大けがで入院したと連絡があったんです。その時、初めて、祖母がパーキンソン病であると聞かされました。その時、雷に打たれたような衝撃だったことを今でも覚えています。

パーキンソン病はマイケル・J・フォックスが闘病しているという、自分には遠いところの話で、身近にある病気だとは思ってもみませんでした。また、同時に襲ってきたのは、パーキンソン病は未だに根治ができないという現状への絶望感です。

「この現状をこのままにしていいのだろうか?」

当時、コンピューターサイエンスを志し進学していたのですが、退学して医学部に行くか?という思いが一瞬よぎりました。

ただ、その思いと同時に「この現状に対する自分らしいアプローチは何かあるのでは?」という思いが湧き出て、次の瞬間には、コンピューターサイエンスによる新しい価値を臨床に向けるという、自分のゴールが決まりました。

ファーストキャリアは創業まもないベンチャー

東大在学中は、最先端のスパコンによるテンソル解析による心臓シミュレーションに従事する傍ら、薬学系研究科ファーマコビジネス・イノベーションにも通い医薬政策学を学びました。ここで医療におけるイノベーション創出の可能性と難しさを目の当たりにしました。

今後のキャリアを通じて医療でイノベーションを創出するために、20代は自分のSpecialtyを伸ばすことを決意。まずは当時のゴールデンパスだった戦略コンサルティングを志しました。

ただ選考を進める中で、現役コンサルタントと話すとある違和感が。それは、ロジカルや精密な分析といいつつ、アプローチがめっちゃ文系的ということ。大規模なテンソル計算やコンピューターサイエンスをしてきた自分からすると、ずいぶんざっくりとしたやり方のように感じました。もっと精密にできることはないのだろうかー、とモヤモヤが。

そんな時出会ったのは、創業間もないブレインパッドでした。当時、大学院生はエージェントが企業を紹介してくれるサービスが始まったのですが、そのエージェントからの紹介でした。

当時のブレインパッドは五反田の雑居ビルにあって、社員十数名のまさにベンチャー企業。ただし、データサイエンスによるコンサルティングを目指すブレインパッドの事業内容に「これだ!」とビビッときました。

ベンチャーではありましたが、データサイエンスという職業はハーバードビジネスレビューで「データサイエンティストが21世紀で最もセクシーな職業である(Data Scientist: The Sexiest Job of the 21st Century)」と紹介され注目されていました。

ビッグデータブームも到来し、ブレインパッド時代は小売りや金融、広告など、広く様々なビジネス・クライアントの方とデータサイエンスによる問題解決の経験を積むことができました。

赤ちゃんを守りたい。
ウイルスの流行をAIで予測するプロジェクト

ブレインパッドが上場するまで伴走した後、30代にもなった私はヘルスケアの道へ進むことにしました。

アッヴィ合同会社でAI業務を立ち上げ、AIを患者とその家族、医療従事者に役立てることに奔走した8年間。その中でも忘れられないプロジェクトといえば、赤ちゃんを守るためのAIの取り組みでした。

インフルエンザなどウイルスの流行が毎年変動する中、流行期のカレンダーの精度をいかに高めるかは、赤ちゃんの命を守ることにつながります。ですが実際に起きていたのは、薬剤投与前にカレンダーのずれが発覚し、赤ちゃんを守りきれない現実でした。

この現実を前にして、自分の中に火がついた感覚がありました。昼夜土日関係なく、無我夢中でAIに取り組みました。

アンサンブル学習で計算を試みたこのプロジェクトは、流行予測の精度を高めることに成功し、主要学会のガイドラインの改訂につながりました。これにより、赤ちゃんへの薬剤投与タイミングが見直され、多くの命を守ることができました。

この赤ちゃんを守るプロジェクトで出会ったのが、Cubec共同創業者の奥井伸輔さんです。

診断補助AIから、治療提案AIへ。


最善の医療を、すべての人の手の中に。

このミッションを掲げ、2023年2月に奥井さんと共同で、医療AIのスタートアップのCubecを創業しました。

報道では医療AIの記事もよく見かけますので、最近の医療現場ではAIの活用が進んでいるように思う人もいるかと思います。ですが、その多くは画像診断など「診断補助」を中心にしたAIです。Cubecはそこから一歩踏み込み、治療提案まで含む包括的なAIの実現を目指しています。

診断補助AIから、治療提案AIへー。

この前進は決して容易な挑戦ではありませんが、機械学習・深層学習・LLMなど、AIのあらゆる可能性で医療に貢献しようとしています。

まずは心不全をターゲットとして、かかりつけ医に専門医レベルの判断を提供する医療AIを開発中です。

AIの活用範囲は次の3つです。
1  個別のリスク判定
2  個別の治療提案
3  診療Q&A

これらの取り組みは、国立循環器病研究センターをリーダーとして、琉球大学、帝京大学、名古屋大学医学部附属病院、九州大学病院と共同で進めています。

Cubecのデータサイエンスチームでは現在、「診療Q&A」を手掛けています。かかりつけ医が意思決定するための関連情報を、認められたエビデンスから提供するLLM(大規模言語モデル)を開発中です。膨大な量の循環器領域のエビデンスをインプットさせ、エキスパートと同じレベルのアウトプットするLLMは、初期のモデルをこの夏に開発。その後、医師が診療における活用の在り方を探索しつつ、より専門医の応答に近づけるような学習・更新を継続していきます。

データサイエンスチームでの役割

データサイエンスチームは私を入れて現在6名。
大きく分けると① リサーチ、② デベロップメント ③ 検証の3つのステップに対して、各人が担当領域を持って開発を進めています。

東京で集まれるメンバーは週1回程度シェアオフィスに集まり、対面でコミュニケーションを取りながら仕事するようにしています。

私はチーム全体をマネジメントしながらも、常に一歩先、二歩先の開発を考えながら日々リサーチに時間を割いています。この分野は次々と新しい研究が発表されるので、大量に出てくる論文を日々チェックし、それらをどうビジネスに活用できるか考えながらリサーチをしています。

研究だけでなく、社会実装側も常にチェックしています。Googleが発表した新たな医療向けAIモデル「Med-Gemini」もその一つ。研究と実装が猛スピードで動く業界で、Cubecが進むべき道筋、日本の医療機器におけるAI活用の道筋についての自分なりの考えを常にアップデートしています。

また、マネジメントとしての自分の役割という観点では、CAIOという役割で経営に関わりながらAIにコミットメントしているところが大きいです。一般的に、データサイエンティストのマネジメントは、IT部門のトップやCTOが担う場合が多いです。

CTOではなく、AIを理解している人がCAIOとして経営に直接関わる。これはものすごく大きな違いです。AIを活用してどう企業を成長させるかという観点はもちろん、優秀なデータサイエンティストを採用できるかどうか、という面でも大きく影響します。

ディープラーニング時代と生成AI時代
データサイエンティストのマインドセットの違い

ここでもう一度マインドセットの話に戻ります。

私はディープラーニング時代のデータサイエンティストと、生成AI時代のデータサイエンティストでは、マインドセットを大きく変える必要があると考えています。

私がブレインパッドで仕事をしていた時は、機械学習とかディープランニングの時代でした。この時代に一番求められているのは問題解決です。ビジネス上の問題を特定し、持っているデータの特徴を理解し、問題解決のために正しく展開してモデルコーディングして形にしていく仕事でした。たとえば、ハンバーガーの販売個数をどれだけ精度高く予測するか、といった話です。

ところが、生成AI時代になると、単なる問題解決だけでなく、クリエイターとしての能力が高く求められるようになるわけです。ディープラーニングは正解を合わせにいくのですが、生成AIは何かを新たに生成するわけですね。この”何かを作る”というプロセスが入ることで、問題解決のプロセスの中でどう作り、どう見せるのかという想像力が必要になる。最終的には作ったもので何かを解決するところは一緒ですが、プロセスが大きく違います。

例えるならば、ディープラーニング時代はオリンピックの競技。速度を上げる、高さを上げるなど、数字などの決まった正解を取りに行くイメージです。生成AI時代のデータサイエンティストは、自分自身で競技もルールも作っていい、というイメージです

生成AIが前提にある現在は、真っ白なキャンバスに何を描いてもいい時代。この時代において、医療における問題でどういうものがあれば最適なんだろうと、想像力を働かせること。データサイエンティストとしてそれを楽しめるかどうかは、マインドセットの書き換えが必要になると思います。

この違いについては、ディープラーニング時代の仕事をまだしている人の多くは薄々気がついていると思います。ですが、既存の仕事に引っ張られたりしてなかなか一歩踏み出せない。

それに比べて、デジタルネイティブ世代、「AIがなかった頃のビジネス経験がない」大学生は、古い前提、凝り固まった概念によるメンタルブロックがほとんどありません。Cubecで働く医大生がまさにそうですが、そうした新しいマインドを持つデータサイエンティストがこれからの時代を牽引していくでしょう。

ディープラーニング時代の経験も、もちろん大切です。生成AI時代のデータサイエンスの実務家を目指したい人には、ぜひCubecも働く場所として検討してもらいたいです。

私はもともと未来思考で、新しいテクノロジーを調べたり、試して変えていくことに対して、不安よりもワクワクするタイプです。データサイエンティストとして、この激動の時代の挑戦を面白いと思ってくれる人がいたら、ぜひ連絡してほしいです。

Cubecに興味があればぜひ、カジュアル面談も申し込んでください

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