臨床医を目指す医大生が、医療AIのCubecでデータサイエンティストとして働く理由
みなさん、はじめまして。
医療AIのCubecでデータサイエンティストとして働く中村です。
私は現在、医大生として大学で勉強しながら、医療AIのスタートアップ、Cubecでデータサイエンティストをしています。先に結論を言ってしまいますが、私はこのCubecのデータサイエンスの仕事が充実しすぎて、時間が過ぎるのを忘れるほど熱中しています。将来、医療への関わり方を考える上で、大きなマインドチェンジもありました。
とはいえ、私のように医大生でAIを実際にいじっている人はまだ少ないですし、スタートアップでデータサイエンティストとして働く人も限られています。
そこで、臨床医を目指す医大生の私が、
なぜ、スタートアップで働くのか。
なぜ、AIを学ぼうと思ったのか。
医大生にAIの可能性を知ってもらえるよう、Cubecでの経験を書いてみます。
なぜ、医学部に進学したのか
まず最初に、なぜ私が医学部に進学したのかを話したいと思います。
私は暁星中学校・高等学校の出身で、中学時代はバスケ部、高校時代は競技かるた部に所属していました。暁星は競技かるた部が強くて、特に高校時代は部活に熱中していました。
高二の時、父が心臓の手術を受けることになりました。現在は富士登山ができるほど回復した父ですが、この経験がきっかけとなり、私は医療の世界に関心を持ちはじめました。
高三で進学を決める際、医学部か文系か、とても迷いました。正直、数学も英語も苦手、勉強自体があまり得意ではなかったのですが、もともと生物にも興味があったこともあり、思い切って医学部の道に進むことにしました。
日本医科大学医学科で臨床医を目指す
その後、日本医科大学医学科に進学し、現在は4年生です。
医大を卒業し国家資格に合格すると、大学病院等で2年間の臨床研修があります。この期間に幅広い分野の科を経験し、それが終わると大抵は勤務医として働くことになります。専門の分野の道に進む人は、専門医となるために数年勉強し、専門医の資格を目指すことになります。
私は父の病気の経験も踏まえ、循環器の専門医の道に進みたいと考えています。臨床医か研究医かでいうと、私はコミュニケーションを取るのが好きなこともあり、目の前の患者さんに向き合う臨床医を目指しています。
医大生の6年間は勉強しなくてはならないことが多くありますが、授業の多くは座学で、部活やバイトをする時間と体力は結構あります。ですので、周囲の友人は部活、バイトで忙しくしていますが、企業でインターンをしたり、働いたりする人はまだ限られている印象です。
医大生の課外活動事情
コロナ禍で部活動が禁止になり、時間に余裕ができた医大生が企業でインターンをする機会は少し増えたと思います。ですが、インターンをする医大生、私のようにもう一歩踏み込んで企業のメンバーの一人として働く学生はまだ多くありません。データサイエンティストという分野になると、なおさら限定されます。
そんな中、医大生のうちに社会で働こうとする人には、医療という狭い世界に進むからこそ、学生のうちに広い社会を経験しておきたい、という目的があると思います。
私はCubecで働く他に、厚生労働省でインターンをしています。医学生の中にはベンチャーキャピタルでインターンする人もいますし、画像解析のAIを開発する企業がインターンを募集する例もあります。
また、医学部は学費、生活費でコストがかかるので、塾講師、家庭教師などのバイトをする人は多いです。私は塾講師、家庭教師があまり向いてなかったので、Cubecで興味ある分野のデータサイエンティストをしながらお金ももらえるというのは一石二鳥です。限られた時間を思い切り、自分の興味関心の分野(私の場合はAI)につぎ込むことができています。
東大松尾研、大規模言語モデル講座での出会い
AIとの出会いは、 AIの研究をしている東京大学松尾研究室のグローバル消費インテリジェンス寄付講座で、データ解析を学んだのがきっかけです。その後、同研究室の大規模言語モデル寄付講座を受講しました。ヘルスケア領域のAI事業のエキスパートであり、CubecのCAIOを務める新井田さんも大規模言語モデル寄付講座を受講していました。その新井田さんから連絡をもらい、カジュアル面談をしたのが始まりでした。
そもそも私が大規模言語モデルに興味を持ったのは、ChatGPTがきっかけでした。大学のリサーチで情報整理にChatGPTを使ったところ、短時間で高精度のアウトプットができたのです。これはすごい技術だ!と思って大規模言語モデルに興味を持ち、調べているうちに松尾研の講座を発見しました。
私はCubecにジョインする前から心電図に興味があって、心電図のデータから何か予測したり、治療につなげられるんじゃないかと漠然と思ってました。新井田さんとのカジュアル面談で、Cubecでは患者さんの検査値など診療情報を元に、エキスパート並みの治療選択肢をアウトプットするAIを開発していることを知りました。
Cubecの現在のアプローチは心電図ではないのですが、「データから予測や治療につなげたい」という私のやりたいことを、事業として実際にやっています。話を聞いた途端にビビっと来ました。新井田さんとのカジュアル面談の最中も終わった後も、もうウキウキで、心臓がバクバクしたのを覚えています。
この面談の後、Cubecのデータサイエンスチームでデータサイエンティストをすることになりました。短期ではなく長期で、大学卒業後もCubecに関わりたいと思ってジョインしています。
Cubecのデータサイエンスチームは何をやっているのか
医療現場では、画像診断をはじめとする「診断支援AI」の普及は進みつつあります。ですが、Cubecが開発する「次世代治療提案型AI」は、診断から治療立案まで支援するので、さらに一歩踏み込んだ挑戦です。
Cubecが最初のターゲットを心不全においているのは、慢性疾患の中でも日本で患者数が急増し、社会的に緊急性の高いとされているからです。
AIの活用範囲は次の3つです。
1 個別のリスク判定
2 個別の治療提案
3 診療Q&A
これらの取り組みは、国立循環器病研究センターをリーダーとして、琉球大学、帝京大学、名古屋大学医学部附属病院、九州大学病院と共同で進めています。
新井田さんを中心とするCubecのデータサイエンスチームでは現在、「診療Q&A」を手掛けています。かかりつけ医が意思決定するための関連情報を、認められたエビデンスから提供するLLM(大規模言語モデル)を開発中です。膨大な量の循環器領域のエビデンスをインプットさせ、エキスパートと同じレベルのアウトプットするLLMは、2024年夏の完成を目標にしています。
ChatGPTなどのLLMは普及しつつありますが、医療、しかも専門医の知識に特化したLLMを開発しているスタートアップとして、Cubecは業界で最先端のチャレンジをしていると思います。
アウトプットの精度を高めるためには、医療に特化したLLMならではの工夫が必要です。エビデンスの本文以外の図表等の情報をどうインプットさせるか。ハルシネーション(一見正しそうな誤情報を出してしまうこと)をいかに防ぐか。専門医らしいふるまいをどうさせるか。Cubecが手探りで蓄積している医療LLMのナレッジは、今後、循環器以外の慢性疾患へと展開するときに大きなアドバンテージとなっていくはずです。
私は医療LLMのモデル自体の開発と、専門医との比較検討をするための検証スキームを考えるなど、医学的観点から医療LLMを改善する仕事をしています。
データサイエンスチームの一員として、責任のある仕事をさせてもらっています。人の命に関わるプロダクト開発を担っていますので、新井田さん指導のもと、真剣に取り組んでいます。
とはいえ、この医療LLMの開発の最前線の試行錯誤が面白すぎて、つい時間を忘れて取り組んでしまう毎日です。
データサイエンスチームの仕事に興味がある人は、新井田さんのブログも読んでみてください。
医療AIを開発するのに、医者を目指す理由
ここまで読んだ方の中には、Cubecが循環器専門医のAIを公開したら、私が循環器の専門医を目指す必要がないんじゃないか、と思う人がいるかもしれません。
しかし、AIの進化のためには専門医の知見が必要で、AIと医師は二人三脚のように進んでいくと考えています。
また、私は目の前の患者さんと向き合う臨床医を目指しています。一方、Cubecの仕事は直接患者さんとは接することはなくても、間接的により多くの患者さんを救うことになります。厚労省でインターンをしたり、Cubecで働き始めたりしたことで、マクロとミクロを同時に考えることができたことが、医療の道を目指す上で大きなマインドチェンジにもつながりました。
現状は臨床医か研究医かの二択のキャリアが一般的ですが、今後は臨床医をしながらCubecの仕事も続けるなど、両軸で続ける方法を模索したいです。
医大生データサイエンティストの可能性
今はまだ、私の周辺の医学生でAIを実際に触っている人は多くありません。しかし、数年後、日常的にAIがある生活を経て医大に来る後輩は、医療にAIを活用することへの感度が高くなっているはずです。
医療AIの分野の先行者側にいくなら、まさに今がチャンス。AIに興味がある医大生はぜひ、私のような働き方も検討してほしいです。
実際Cubecで働いてみて感じたのは、会社の雰囲気がとてもいいなっていうこと。それは慣れ合いとかではなく、高い意識、高い目標を持ったメンバー同士で働く場のエネルギーみたいなものです。
医者の世界ではなかなか経験することができないであろう、企業の組織文化、事業開発、ファイナンスなど、ビジネスサイドの経験ができるのも魅力です。
Cubecは一緒にチャレンジしてくれる仲間を募集していますので、興味があればぜひ、こちらからカジュアル面談も申し込んでみてください。