折ればよかった
札幌を普通列車で小樽まで行く。
「快速だとあっという間だよ」という友人に、普通列車で行きたいと言った。
快速とはちがう向こう側のホームに渡り、友人の横顔や鉄路におちる水滴を眺めながら、過ぎていく一瞬の残酷を感じていた。
手稲の駅を過ぎたころから札幌の街の面影が無くなっていく。
車窓から見える海がすぐそこにあり、白く泡立った波頭にのみこまれてしまうのではないかと、錯覚さえするほど近くに感じた。
窓に顔をうんと近づけてみると、白く泡立つまえの波の中が透けて見えた。
小樽は小林多喜二が暮らし育った街。
29歳で殺された多喜二が愛してやまなかった坂の街。
全ての不平不満が言論の自由として認められる今。
それのほとんど全てが黙殺される今。
多喜二が生きた時は、特高に殺人の権利も与えられていた。
プロレタリアとか共産とか社会とか、そんな主義主張なんてクソ喰らえだけれど、多喜二の人を思う深い深い優しさと愛には参ってしまう。
闇があるから光がある
そして
闇から出てきた人こそ
一番ほんとうの
光のありがたさがわかるんだ
29歳という一生を愛し続けたタキに送った手紙の一節です。
若き頃に知った小林多喜二。
決して失念していたわけではなくて
その真っ直ぐさと純情さと正直さ。
あまりに近寄り難かった。
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