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【第26章】人脈を持っている人は昇進が早く、給料も高い

前章で「弱いつながりの強さ」(strength of weak ties:SWT理論)について解説した。今回は2大理論のもう一方のストラクチャル・ホール(以下SH)理論を解説する。同理論を生み出し発展させてきた中心人物は、シカゴ大学のロナルド・バートである。
繰り返しになるがソーシャルネットワークがビジネスで重要な理由は、人のつながりを通じて情報・知識・噂話・アイディアなどが伝播するからだ。
ネットワークは、1対1(マクロ)の関係性、1対多(中間)の関係性、多対多(マクロ)の関係性、の3つに分けられるが今回扱うのは中間の関係である。



ブローカレッジ

エゴ・セントリック・ネットワークにおいてスライドの一番右側にある図A,B,Cの3者の関係を見た時「ネットワーク上の情報伝播で、一番得する人は誰か」を誰になるだろうか。
SH理論における答えはCとなる。Cは「AとBの間をつなぐ唯一の人」だからだ。この時、2つの意味でAやBより優位になる。
1.情報の優位性
Cは唯一AとBの両者にアクセスできるので、両方の情報を手に入れることができるし、誰にどこまで共有するかをコントロールできる。これを、情報の優位性と呼ぶ。
2.コントロールの優位性
情報を伝播させるかさせないかを制御できることで、何らかの利益を得られることをコントロールの優位性と呼んだ。
このように「つながっていないプレーヤー同士の媒介となり、それを活かして優位に立つ」ことをブローカレッジという
すなわち、ネットワーク上でAとBの間にすきまがあり、それがcに便益をもたらすのだ。これがストラクチャル・ホール(SH:構造的すき間)であり、SHに囲まれてブローカレッジを活用できる位置にいるプレーヤーをブローカーという。
この説明をするとSWT理論と似ているように感じるがとそれぞれが独立した理論として確立しており、確かに組み合わせて研究する人もいるものの、著者の理解では主に2つの違いがある。
違い1:SWT理論ではつながりが弱いことが重要だが、SH理論ではつながりが「弱い」必要はない。
違い2:SWT理論は広範囲に渡るソシオ・セントリック・ネットワークにも関心をもっているが、SH理論はエゴ・セントリック・ネットワークにフォーカスしている。

SH理論は商売の基本

SH理論は1980~90年代以降、多くの経営学者が同理論を検証する実証研究を行ってきた。その蓄積は膨大であり、情報の優位性・コントロールの優位性を証明する実証研究も多く示されている。
例えば「人脈上でSHを豊かに持つ人の方が、昇進が早く、給料も高い」傾向が示されている。これは人脈を通じて情報が効率的に入ることを活かした自身の成果の結果と言えるだろう。
また、総合商社などはSHをゆたかに持つことを活かしたビジネスであり、取引先同士がつながっていないことを利用して、利益を得ている。(逆にAとBが直接つながってしまうとその介在価値が薄まってしまうともいえる。)
同様にコンサルティングファームもA国に企業のコンサル事例をもっていることで、B国の企業の同様な課題に対してコンサルティングができるブローカーとしての価値を活かした商売と言える。

では、ここまでの説明でSHの有用性は明らかになったが、効果的に生かすには条件があることが研究結果で示されている。
1.どのようなプレーヤーとつながるか
SHでは同じタイプではなく、異なるタイプのプレーヤー間の結節点になること」が重要ということが学者のおおむねのコンセンサスとなっている。
その理由は2つはある。
理由1:ブローカーの優位性は、ソーシャルネットワーク上の多様な情報・知見が入ってくることにあるが、同質なプレーヤーとつながっていては多様な情報が入りにくい。
理由2:同質なプレーヤー間の結節点でブローカレッジを行うと、ネットワーク上の他プレーヤーとの信頼関係が損なわれる可能性がある。(A社をコンサルした事例をB社でも同様に行うと信頼関係がなくなる。)
2.SHを維持するか、埋めるか
過去、卸売業界・商社業界はブローカーの立ち位置にいることで利益を得ていたがIT化などの進展で今ではビジネスモデルの変化を求められている。
その変化の方向性として、「イノベーションを実現する上では、自らが積極的にSHを埋めた方がいい」と主張する研究も出てきている。つまり「これまでつながっていなかった人と人をあえてつなげて、価値創造する」ということだ。
ただ、みずからのSHを埋めてしまうので、「SHから我々が何を得たいのか」を明確にしておくことが重要になる。つまり、情報・コントロールの優位性から利益を得ることから、人をつなぐことで「SHを生み出す人」に今求められていると言える。これを経営学では「バウンダリー・スパナー」と呼ぶ。

バウンダリー・スパナー

バウンダリー・スパナーという概念は古く1970年代には提示されていた。
”バウンダリー・スパナーとは、組織の境界で行動する人々であり、組織に必要なタスクを遂行し、そして(国境を越えて)組織内部と外部の要素をつなげる役割がある。”
平たくというと「境界を超える人」のことである。人と人ではなく、企業と企業、組織と組織、分野と分野をつなぐ結節点となる存在だ。
バウンダリー・スパナーは企業イノベーションを創出するため「部門間で異なる言語、価値観をうまく翻訳しながら、部門間の調整やコンフリクトを解消する役割」として注目されてきた。これは「SHを生み出す人」と先ほど書いた①異なるプレーヤーをつなぎ、②自身のメリットだけではなく、ネットワーク全体の利益を追求する役割と重なる。
筆者はこのような人材は「H型人材」と呼んでいる。
世間ではT型人材(「1つの専門性の軸を深く縦方向にもって、後は多様な知見をもつ」人材)が重要と言われているが、今の日本で活躍している人にはH型人材が多いというのが筆者の実感としてはあるそうだ。
昔の日本企業は職人気質で、1つの分野に精通している「I」型人材が重宝されてきた。H型の越境人材は、異端者とさえみなされたが、いま日本を動かそうとしている人は少なくとも2本の軸があり、その間を往復している。
実際「H型」人材を育成する仕掛けづくりをする組織も出てきている。
例えばNPOの二枚目の名刺がそれに当たる。同組織は、企業内部の人材に本業以外の社会活動を促している。また、大企業の若手を新興市場に送り込み社会問題を解決させる仕組みをつくっているNPOクロスフィールズも同様だ。

越境を実現する人々は、クラスターとクラスターの結節点となり、ブローカーとなり、SHを活用し、時にSHを埋めて、新しい価値を生む。
個人的所感として、確実性な高い現状においては、複数のバックグラウンドがあることで、認知が広がり、様々な状況に対して柔軟に対応することが求められる。ここまで読み進めてきた要素が、H型人材に凝縮されている気がする。


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