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【第31章】生態系の相互作用が、企業内部の進化に繋がる

本章では、「エコロジーベースの進化理論」の中でも「組織はなぜ変化しにくいのか」「それでもあえて変化を起こすには」について解説していく。同理論の基盤になるのは「多様化(variation)」「選択(Selection)」「維持(Retention)」「苦闘(Struggle)」のプロセスだ。頭文字をとってVSRSメカニズと呼ぶ。

VARSメカニズム

スライドで紹介しているVARSメカニズムについて、具体的な事例を以下に紹介する。
米国新聞業界の事例

新聞業界は19世紀初頭に黎明期を迎え、多様な個性を持つ新聞社が生まれた。(Variation)19世紀半ばには新聞社数はサンフランシスコ周辺だけで395にまで増加した。一方で、顧客・投資家な限られた「資源」ををめぐって競争も進み、多くは環境にフィットできず、市場から退場していった。(Selection)20世紀になって生き残った新聞社はその個性を維持し「ニューヨークタイムズ」など全国紙や地方新聞が長きに渡って反映する。(Retention)しかし、21世紀にはいるとデジタル革命が起き、変化スピードについていけない新聞社の淘汰が進んでいる。2013年に「ワシントン・ポスト」がアマゾン・ドットコムに買収されたのは、象徴的な出来事だ。(Struggle)
企業は本質的に変わりにくく、米国では社齢40年が迎えられる企業は全体の0.1%しかないという統計もある。ただ、逆に言うと0.1%は環境変化に対応し、生き延びるとも考えられる。
では生き延びる企業の違いは何なのか。これに対する基本主張としては「この内部の人材・情報に対してもVARSメカニズムが働いている」と考えている。

企業内人材のVSRSメカニズム

この企業は創業期には、多様な人材が存在している。そして人の入れ替えが行われやすい。選抜の基準は大きく2つある。第1に周辺社会から顧客・取引先・資金の獲得に苦労するため、社会的正当性を獲得するための人材が選抜されていくことがある。第2にホモフィリーである。これは「生物は、本質的に同じ特性のものがつながる性質がある」ということだ。
これは、創業メンバーがチームを組む時に5つのメカニズムが働くという研究がされている。
①その人の役割・能力を重視して人を選ぶ
②ステータスのある人を選びたがる
③人脈を活用して選ぶ
④地域的に高い人を選ぶ
⑤ホモフィリー効果
このメカニズムは時間が経過するにつれ「人は同質の人を選びがちで、企業内の同質化の進んだ人々がまた外から同質の人を選び、さらに同質になった企業はまた同質の人を選び続ける」というプロセスが繰り返され、同質化が進んでいく。

企業内戦略形成のVSRSメカニズム

次に企業内の情報処理プロセスにおけるVSRSが、企業の戦略形成に与える影響を解説する。企業が戦略・事業計画を立てるためには、企業内外から得られた情報が重要となる。したがって戦略形成は、企業内外からどの程度多様な情報が得られ、選別され、維持されるかに大きく左右される。
多様な人材がいる企業は多様な知見が集まる。加えて企業がこれまでにない行動をとれば、その経験からも新たな情報が入る。これらが企業内情報の多様性を高める。
しかし、組織が大きくなり構造化されていくと情報は意思決定層に届く過程で選別・淘汰され、毎回同じような情報だけが経営陣に届きがちで、維持される。そのため、戦略形成も、固定化されたものになりやすい。
よく「経営層には現場の悪い情報が届かない」と言われるが、管理職は現場の問題を報告する自身の評価に悪影響があるので、情報を選別・淘汰する際に良い情報しか残さないことが考えられる。
このロジックをもとにバーゲルマンは「戦略は組織に従う」と主張した。一般によく知られるチャンドラーは「組織は戦略に従う」と主張したが、現実の組織内ではVSRSのメカニズムが働きその逆になりがちということである。
企業は生まれた瞬間から進化が起こせなくなるという前提を踏まえ「それでも変わりたい企業は何をすべきか」という問いに対し、先端研究では「一度生まれた生物はDNAの塩基配列(ゲノム)そのものは変えられないが、塩基配列のどれを引き出して使うか(=異なる遺伝子を表出させるか)は変えられる」ことが分かりつつあり解決の糸口となりうる。
つまり、多様な人材の確保を入り口として、それを活かす「開かれた情報のプロセス」を確保することが大事なのだ。

上記のスライドに表されているとおり、時に人材を他の生態系に手放し、還流させ、複数の生態系とともに進化することが業界・企業の飛躍には必要なのだ。

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