長野県立大学安藤理事長が語る「脱ふつう」part1
長野県立大学理事長の安藤国威氏にインタビューを行いました。「常識にとらわれないことを大切にしている」と語る安藤氏に、「ふつう」というバイアスをおしつけられながらも自分らしさを問われる現代社会において私たちはどのように「脱ふつう」を目指していけばよいのかを聞いてきました。
安藤理事長が大切にしている考え方
内田:では早速ですが、安藤理事長が普段の生活の中で「大切にしている考え方」を聞かせてもらえますか?
安藤理事長:私が大切にしていることは、「常識に縛られずに、世の中で行われていることをそのまま鵜呑みにしない」ということです。
日本社会では「出る杭は打たれる」とか、「空気を読めない」とか、人と違うことを嫌がる傾向がありますが、私はむしろこれからの社会は自分が何を持っているかをもっと大切にすべきだと思うのです。
自分の持っている価値観や考え方を尊重すると他者と意見の不一致が生じることは多々あります。これは一見悪い事のようにとらえてしまいがちですが、考え方が違うことは悪いことではなく「十人十色」で違う考えがあって当たり前なのです。
例えば欧米みたいに違う言語、違う価値観、違うバックグラウンドを持った人がいっぱいいると、自分の考えていることと相手の考えていることを本当に理解し合えているのかどうか分からないことって当然あるわけですよね。
しかし日本では「以心伝心」だとか「腹芸」だとか言われるように、日本語しか喋っていなくて、誰でも相手のことを理解できる社会に住んでいる。そのため誰でもお互いを理解するのは当たり前だと決めつけてしまうのです。だからこそバイアスが生じて日本人は普通にとらわれてしまうのだと思います。
そうならないために私は、本当に自分が大事にしているモノや考えというのは、単に世の中の人がこう言うからとか、常識がこうだからとかいうバイアスにはできるだけ与さないようにしています。
そういう意味では、バランスの取れた人格とか言いますけども、バランスが取れちゃうと結局人間としては面白くないんじゃないかと思います。面白みのある魅力的な人間とは、個性的で自分とは全く違う考えを持っていて、こんなふうな考え方もあるんだというように、自分でも気がつかないことを教えてくれるような人だと思います。
人と付き合う良さって、いろんな人の考えを知ることにあるわけですから。だから、そのためには何でも他人と同じ考えを受け入れるのではなくて、自分は自分なりの考えを持つということが私は一番大事なことじゃないかな、というふうに思っています。
その考えに至った経緯
内田:ありがとうございます。ではその考えに至った、過去の経験や経緯を聞かせていただけますか?
安藤理事長:学生時代は、正直に言うとあまり優秀な学生ではありませんでした。むしろ、小学校の頃は不登校だったほどでした。それでも、親の協力や小学校時代の先生の助けもあって、大学に入学することができました。
大学に入学してからは、自分の周りにいる人たちがすでに自分のことを知っている状況から抜け出し、未知の世界でゼロからスタートしたいと思うようになりました。子どもの頃はそんな自由な選択ができませんでしたが、大学に入学したら何をしたいかを考えたとき、私は絶対に海外に行くと決意しました。当時はまだ英語も話せませんでしたが、他人とは異なる経験を求めての挑戦でした。
当時、海外留学は大学院生や博士課程の学生がほとんどで私のように単に海外に行きたいと思っている学生は少なかったです。それでも、すべて自分ひとりで様々なハードルを乗り越え、アメリカの大学に入学をするという経験が私の自信を深めてくれました。
もう一つ私の人生を大きく変えたきっかけとなったのがソニーとの出会いです。アメリカに留学中に、たまたまニューヨークの5番街を歩いていた時、日本の国旗が揚げられているのを見かけました。興味本位で入ってみた店は、小さなソニーのショールームでした。
トランジスタラジオや5インチのマイクロテレビなど、当時としては革新的な商品を販売している会社でした。ソニーという会社は、従来の経営手法とは異なる新しい経営哲学を掲げており、「学歴無用論」や「ソニーは人を生かす」といった斬新な価値観を持っていました。その価値観に魅かれて私はソニーに入社することになりました。
しかし、入社してみると、私の期待とは異なり、ソニーは普通の会社だったのです。私はがっかりしていつ退職するかばかりを考えていました。しかし、20代の最後に、偶然にも創業者である井深さんと盛田さんという二人の経営者のスタッフとして仕事をすることになりました。お二人から直接話を聞く機会を得ることができ、お二人の人生観やビジョンに直接触れることができました。それからというもの私は人が違ったように働くのが面白くて仕方がなくなり時間を忘れて仕事に没頭するようになりました。単に本で読んだり、遠くで話を聞くだけでなく、実際の仕事を通じて学べたのがよかったのだと思います。
もう一つ私の人生を変えた経験は1970年代にアメリカに駐在しているときに、ニューヨークへ出張してきておられた盛田さんに呼ばれて、「君、すぐ日本に帰ってこれをやってくれたまえ」と言われたことです。
その仕事というのは生命保険会社を合弁でつくるというプロジェクトリーダーの仕事でした。ソニーという電気メーカーに入り、念願かなってニューヨークに駐在しているのに生命保険会社をゼロから作れと言われたので、「私はそのためにソニーに入ったんじゃありません」と盛田さんに言いましたら、「いやいや、ソニーのエレクトロニクスビジネスは私と井深さんの2人で作った、現在の社長の大賀さん(東京藝術大学声楽科出身)は自分の経験を生かしてソニーミュージックを作って、今のエンターテインメントビジネスを育てた。君がどんなにエレキで頑張っても、私と井深さんがやったことを超えるわけにはいかないんだよ。君は金融という大きな舞台で新しいことをやったらどうか」と説得され、それで私は生命保険会社をゼロから立ち上げることになったわけです。
その後、私はソニーの代表を務めながら、生命保険ビジネスに10年間携わりました。その結果、当初は業界24番目でビリでしたが、今では日本生命など大手保険会社を抜き、1年間の新契約市場シェアでは業界のナンバーワンになったんです。
私はこの成功のカギは「人がやらないことをやる」「本当に困難だから挑戦する価値がある」「付加価値の高いものを作って世界の人にハイクオリティのものを提供する」などの盛田さんに学んだ価値観であったと感じています。リーダーとして私なりにその価値観を最初に実現できたのがまず生命保険でした。その経験が活き、その後はVAIO PCやデジカメのCyber Shotなどのヒット商品を生み出すことに成功しました。
私は、盛田さんや井深さんから直接「こうやって新しいことに挑戦するんだ」という精神を学ぶことができた最後の幸せな世代でした。私は井深さんと盛田さんという二人の経営者の下でダイレクトに部下として仕事をした経験は本当に幸運だったと思っています。
インタビューアーの学び
ここまで読んでいただいて、読み手のあなたはどんなことを感じましたか?
私は「違いを面白がる」事が重要だと感じました。安藤理事長の人生を振り返ると、「言語・価値観・バックグラウンド」などの多様な違いを感じながらも、その違いを否定することなく受け入れることで、自分の個性や価値観を育んできたことがわかります。
ここで重要なのは体感した「違い」を「否定」でも「肯定」でもなく「面白がる」という立ち位置だと思います。
違いを否定してしまうと自己と他者の境界線があいまいになります。逆に、違いを安易に肯定してしまうとその違いが見えなくなり、本質的な理解が欠如します。
私が「違いを面白がる」という言葉を選んだのは、全ての方法を単純に称賛するのではなく、多様な違いを楽しみ、それを通じて自分の価値観を築くことが大切だと考えているからです。次回は「挑戦する力」についてじっくり聞かせてもらう回です。ぜひお楽しみに。
Part1:https://note.com/csi786/n/n82fc751d5db2
Part2:https://note.com/csi786/n/na5ee72f81384
Part3:https://note.com/csi786/n/ne8492edc7d1b
Part4:https://note.com/csi786/n/n838e3c20f619
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