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Artists United Against Apartheid / Sun City 音源備忘録67

 ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドのギタリスト、リトル・スティーヴンの旗振りによるアルバム。当時の南アフリカ共和国の人種隔離政策「アパルトヘイト」を批判した内容で、アルバムと同名のシングル曲がメイン。収益は「The Africa Fund」に寄付されたということなので、チャリティーではある。ライヴ・エイドと同年の1985年リリース。

 リリースから40年、南アフリカにはまだまだ問題はあるけれど、表面的にはアパルトヘイトがなくなってから30年ちょっと、サッカーのワールドカップが2010年に行われてから15年、隔世の感。イーロン・マスクがろくでもない事を言っていて、トランプがそれに同調しているらしいが、まあそれは2025年現在の話なので置いておく。

 私が初めて意識的にヒップホップを聴いたのがRUN DMCがエアロスミスの“Walk This Way”をカヴァーした1986年、初めてヒップホップの音源を買ったのがデ・ラ・ソウルの1stで1989年と思っていたが、実はこのアルバムで意図せず聴いていた、ということになる。1985年なのでいわゆるオールドスクール・ヒップホップ。当時私はまだ「ヒップホップ」という言葉を知らず、ただ「ラップ」とか「ラップ・ミュージック」と言っていた。

 シングルになった“Sun City”はアフリカ・バンバータやRUN DMCだけでなくスプリングスティーンやルー・リードやダリル・ホールがラップ的なヴォーカルを聴かせてくれる。シリアスなアティテュードのため自然に緊張感が生まれるが、それを考慮しなくても楽曲としてのクオリティが非常に高いと思う。

 “Sun City”は多少ロック的な面がなくはないが、“Let Me See Your I.D.”はかなり濃いヒップホップ。レコードのスクラッチ音がこれ見よがしに使われているのが85年っぽい。マイルス・デイヴィスのトランペットがサンプリングされているのも印象的。余談だが、日常の色んな手続きや交通検問などで免許証を提示するときに「Let me see your I.D.(身分証を見せろ)」といつも頭の中で言う変な癖がどういう訳かこの頃からずっとある。

 “The Struggle Continues”はマイルスのトランペットとハービー・ハンコックのピアノ、両手タッピングのスタンリー・ジョーダンのギターが聴けるジャズ・ナンバー。正直全く記憶に残っていなかったので17歳の私には訴求しなかったのだろう。今は普通に楽しんで聴くし、久々に聴いたときはこんな曲だったのか!と興奮したぐらいなので40年という時間はデカい。

 ボノが歌い、キース・リチャーズとロン・ウッドがギターを弾く“Silver And Gold”はその後U2のシングルのB面に収められているらしいが、アルバム“Rattle And Hum”に入っているライヴ・バージョンを何度も聴いた。

 “Do They Know It's Christmas”や“We Are The World”はレンタルだったのに何故“Sun City”はレコードを購入したのか謎だが、参加ミュージシャンを見るとその後の自分のリスナー遍歴を予言していたように思ったりもする。まさか初老とも言うべき年齢になってマイルスが好きになっているとは思いもしなかったが。


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