見出し画像

『ヒラヒラヒヒル』感想

 どうもです。

 今回は、2023年11月17日にANIPLEX.EXEより発売された『ヒラヒラヒヒル』の感想になります。

主題歌:「星たちの歌」
歌唱:KOCHO、作詞:瀬戸口廉也、作編曲:MANYO

 主題歌「星たちの歌」、MANYOさんらしい優しく美しいメロディラインが本当に好き。穏やかに涙腺を刺激してくれますね…。KOCHOさんの作詞された曲は聴いた事あるんですが、歌声は初めてかもしれません。むっちゃ柔らかい高音が魅力的ですね。
 プレイしたキッカケですが、ライターである瀬戸口先生の作品だから!以上。前作『BLACK SHEEP TOWN』や『SWAN SONG』など本当に心に残る作品だったので、今回もそんな期待と共にプレイした感じです。

 では、感想に移りますが、受け取ったメッセージと、雑感をなるべく簡潔に書けたらなと。こっからネタバレ全開なんで自己責任でお願いします。


1.受け取ったメッセージ

 キャラクター毎の色んな想いが刺さったので、まとめるのが少し難しかったのですが、敢えて言葉にしてまとめるのなら、大きく分けて以下の二つになりました。

①理解に努める姿勢をもって欲しい
②人生を絶対に諦めないで欲しい

 このメッセージには大前提があって、それは""風爛症患者だって人間だということ””、加鳥先生が序盤の演説でも力説しており、作品のHPの物語紹介にも""みんな、普通の人間なんだ""とありますね。どんな環境、肩書、立場、病気などがあっても大前提は人間であると、そう強く訴えていました。そして、みんな人間である以上は一人一人に人生があります。そこに優劣なんか無く、誰しもが色々な人生を送っていて、そんな色々な人生へのエールがこの作品には込められていたと感じました。

 まずは、苦言を呈した以下の台詞から始めましょう。

「あのね、みんな人間なんだよ。風爛症も、そうでないものも。賢い者も愚かな者も、高貴な者も卑しき者も、富める者も貧しき者も、善き者も悪しき者も、その人が天からどんな下らないものを授かったにしろ、結局みんな人間なんだ。……僕からするとね、みな、生まれたからには、必定、死なざるを得ないという儚い定めを背負っているのに、ごちゃごちゃとお互いを苦しめ合ってるのが、どうしても理解出来ないんだよ。」

千種正光-『ヒラヒラヒヒル』

"お互いを苦しめ合ってるのが、どうしても理解出来ない"、ここが特に印象に残っています。世の中に苦しんでいる人がいるのなら、なんとかしてやりたいと、正光が軍人ではなく、医者になったのも頷けますし。同じ人間であるならば、手を差し伸べ合えるはずだと信じて疑わない強い気持ちも感じ取れますね。それと同時に、"理解出来ない"で終わらせず、理解に努めようと風爛症患者の医者になったのもまた正光の凄い処であり、メッセージとなる部分です。鎮柳先生も同じ様な事を言及していたので引用いたします。

「嫌いだからこそ、その心情を理解しようと思って鼠を主人公にしたんだ。僕はいつだって、嫌いなものを小説の題材にするんだよ。出来れば、それらのことをよく理解して、好きになりたいからね。まあ、好きになれることなんかないのだが。そりゃあ、どうやったって鼠のことを好きになんかなれないよ」

常見敬次郎-『ヒラヒラヒヒル』

「前から惣一は勘違いをしているような気がするけれど、僕は風爛症のことは好きじゃない。むしろ、僕ほどこの病気を憎んでいる人間はいないんじゃないか?……なんでそんな誤解をしているのか、不思議で仕方ない。僕は人生懸けて、この病気と戦う道を選んだというのに……」

千種正光-『ヒラヒラヒヒル』

 鎮柳先生の"好きになれることなんかない"、がポイントかなと。好き嫌いや良い悪いは別として、理解に努める事は出来るはずなんですよね。今作で云えば、ひひるに対して一万歩譲って腫れ物扱いするにしても、その選択を取る前に、理解に努める選択を取ってみてもいいんじゃないかと。やっぱり相手からすると無関心である事が最も心が傷つけられます。寂しいですから、とても。実は、このメッセージは前作『BLACK SHEEP TOWN』でも受け取れたメッセージなので、一応引用しておきます。どんな境遇にあろうと誰一人として見捨てない瀬戸口先生らしいテキストだなと思います。

人間ってのはね、はたから見ればどんな異常でとんでもない行動でも、本人にしてみればやむを得なかったり、筋が通っていたりするんだよ

見土道夫-『BLACK SHEEP TOWN』

 ひひるを特別視せず、同じ人間として耳を傾けてあげる。真摯な気持ちで向き合い、普段から当たり前にしている事を当たり前にする事が風爛症を理解する上で何よりも大切であると。この理解に努める姿勢と云うのは風爛症に関わらず、人間との間に生まれる憎しみや苦しみなど、殆どの事に言える事であり、それらを解決する足掛かりに必ずなるはずだと改めて受け取る事ができました。その際には感情無しでは向き合えない時もあるでしょう。でも、それもまた人間として当たり前なのだから、思いのままにしたらいい。苦しみや憎しみも含めて、人間との間に生まれる感情は尊いモノだから。こんな処で一つ目のメッセージは締めさせていただきます。

 続いて、二つ目ですが先のメッセージと関連してもいます。作中では、色んな人生を目の当たりにしてきました。言葉を失ってしまう程の誰も想像できない様な光景もありましたね。明子の発症や、正光の母親との再会は特に衝撃的でした。そんな悲しい事も嬉しい事も、色んな事が起きてしまう事実の理解に努めた上で、我々はどう生きていくべきかの話が二つ目のメッセージになります。

 先ほど、"みんな人間である"と云う大前提には、優劣なんか無いけれども、その一方で、人それぞれが感じる尺度で制限や影響を受け苦しんでいるのも事実です。環境や制度など仕組みが悪く、個人ではどうしようも出来ない限界があって。その限界に近づけば近づく程、感情は消耗されてしまう。尊い感情が失われてしまう前に、狂ってしまう前に、外からの助けを求める必要な時や場面が絶対にあると。それまで本当に苦しいとは思うし、人として誤った行動に走ってしまう時もあるかもしれません。それでも今作は、何よりもまず、生きるのをやめないで欲しいと切に願っていたと思います。

「ひひるになったからって何だ! お前はまだ生きてるじゃないか。生きてるのに、生きるのをやめようとするなんて弱虫のすることだぞ! 身体より先に心が腐ってしまったのか!」

野村惣一-『ヒラヒラヒヒル』

 惣一のこの言葉が特に印象に残っています。苦しんでいる人にとって、"生きてさえいれば"、と云う言葉は酷な一面も確かにあると思います。死にたいと思いながら生きる事と、生きたいと思いながら死ぬ事。どっちが不幸かなんて当人にしか解らない。けれども、"生きてさえいれば"、可能性は潰えないから。風爛症は先の快復が視えない病だった訳ですが、可能性はゼロではないと物語のTRUEでは精一杯の希望と愛を魅せてくれましたね。武雄の章では、明子との結婚は感動的だったし、正光の章では自分で口にした『風爛症になったからと言って人生をあきらめることはないんだ』という言葉を証明して魅せたのも大きかったと思います。

 精一杯生きている人達が一人でも多く、何か可能性を見出せる様にする為に何が出来るか。その生きた記録や証を残す事が描かれていました。

「僕らの仕事はこの状況を記録することじゃないか! 彼らの死を誰にも知られないまま失わせてしまってもいいのか? 写真にして、世間に知らしめるんだ。この世界にはこんな苦しみがあるんだって」

千種正光-『ヒラヒラヒヒル』

「人間、何を言ってもどうせいつかは忘れ去られるし、どんな美人も最後は死んで土になる。だけど絵は違う。たとえお前がもっと悪くなって、正気を喪って、喋れなくなっても、身体が腐って誰だかわからなくなっても、いい絵を描けばずっと残る。だからお前は絵を描くんだ。それがお前の生きた証になる」

野村惣一-『ヒラヒラヒヒル』

 一つ目のメッセージである理解して貰う為にも、まずは知って貰う必要がある。誰にも知られずに終わってしまうモノほど悲しい事はなくて。方法は何でもいいはずです。限られた手段や人手しかない状況で、惣一や武雄が自力で走って助けを求めに行くシーンなんかも胸に来ましたし。言葉でも、写真でも、絵でも、何でもいい。広く言えば、"想い出"になるのかと。これから想い出を残し続けて生きていく。想い出と云うと、過去のイメージが付きますが、それは後付けで。先に目を向けるべきは"これから"だとも受け取る事ができました。

「……大事なのはこれからだ。これからの話をしよう。僕らみたいな、下らない間違いを繰り返す不完全な人間に出来る唯一正しいことは、糞みたいな今日より少しでもマシな明日について話し合うことだけだ」

千種正光-『ヒラヒラヒヒル』

「忘れてしまったら、完全になくなってしまうものもある。(中略)僕のなかで起きた色んな感情の変化も、僕が忘れたらなかったことになる。」

千種正光-『ヒラヒラヒヒル』

 これまでどれだけ間違ってても、醜くても、苦しくても、忘れてはいけない感情の変化がそこにだってあるはずで。いつかは素晴らしいと思える想い出になる日だって来るかもしれない。その為にも、これからは何事に対しても真摯に誇りを持って、今日より少しでも明日が素晴らしくなるようにと。忘れられない想い出を残していって欲しいと願っていたと思います。二つ目のメッセージはこれで以上です。

 最後に、今作で最も刺さった言葉と共に締めたいと思います。

「まあただね、私もね、もし人生を選び直せたとしても、この人生をもう一度選ぶよ」

野村朝-『ヒラヒラヒヒル』

 人生の終りを迎える時に、こんな風に思える様に私も生きていきたいなと強く思いましたね。相手の気持ちを理解するのに限界がある様に、人間ひとりに出来る事なんてもっと限られています。それでも、理解しようと、出来るようになろうとする姿勢が本当にあるか常に自分に問い続けて生きていきたい。そして、この作品をプレイできた事や、感想記事を書けた事もそうですが、忘れられない想い出を沢山これからも残していきたいです。

 受け取ったメッセージは以上になります。何か少しでも感じ取って頂けたり、考えのヒントになっていたりしたら、嬉しいです。


2.雑感

 名作です。今作も本当に素晴らしかったので、瀬戸口先生はやっぱり凄いなと…。架空の病気を題材に描かれた、キャラクター達の苦しみや憎しみとの戦い自体は我々が生きる世界でも通ずるモノであり、人生を諦めてはいけないと、生きた証を残そうとする彼らの姿や想いが刺さりまくりました。普通にボロ泣きしましたね、明子と武雄の雪山でのシーンとか特に。正光の章と武雄の章のTRUEは、どちらの余韻も長く浸れるモノでした。今作は選択肢も多く、中でもかなり重大な選択を迫られて、瀬戸口先生らしい淡々と心を抉ってくるシナリオもあって良かったです。
 受け取ったメッセージに関しては、先述した通り。あと『SWAN SONG』や『BLACK SHEEP TOWN』にも通ずる処があったので、自分なりに瀬戸口先生の根底にある哲学や魅力を掴めてきたのも大きいです。物語の強度を持ってそのメッセージに説得力を持たせられると云う、私が最も重視している点に於いても凄腕だなと再認識しました。やっぱりキャラクターが生き生きとしているし、我々の現実世界へとグラデーションを以て地続きになっている世界観が好きです。テキスト的な処だと、ボソッと自然な言葉が漏れ出した、"ちょっと"、"たまたま"とか人間味溢れてて堪らなく好きだなぁと。

 原画は、禅之助さん。初めましての方でしたが、凄く存在感のある画風が魅力的でした。線や塗り自体は重厚ではあるんですが、表情はリアル寄りの何とも言えない温かい質感があったなと。瞳に光が宿った時とそうでない時の表情差分は特に目に焼き付いております。

 声優は、初耳の方もいらしたんですが、全員素晴らしい演技でした。河本啓佑さん(千種 正光)は、『SWAN SONG』の主人公である尼子司に似たモノを感じましたし。山本兼平さん(加鳥 周平)の胡散臭さも気づいたらクセになってましたね。敢えて一人選ぶなら、TVアニメでもお馴染みの上田麗奈さん(常見 明子)の演技には何度もグッと来ましたね。雪山で涙混じりに訴え続けるシーンはガチで泣かされました…。一方で、キャラクターは辻菊さんが結構好きでしたね、と云うより正光との空気感や会話が最高。

 音楽は、MANYOさん。KeyやInnocent Grayなど色んな処でお世話になっておりますが、今作でもMANYOさんの音楽だぁ!と喜びに浸りながらプレイする事ができました。大正時代の雰囲気を演出する、心和む素朴な音色に、じんわりと沁みてくるメロディに溢れていたと思います。「平穏」「月夜」が特に気に入っています。主題歌「星たちの歌」もエンドロールで最高の余韻を残してくれたので、サントラの発売が待ち遠しいです。

 とゆーことで、感想は以上になります。改めて制作に関わった全ての方々に感謝申し上げます。生涯忘れられない作品になりました。本当にありがとうございました。瀬戸口廉也先生の作品、来年こそは必ず『キラ☆キラ』をプレイさせていただきます。

 ではまた!


©Aniplex Inc. All rights reserved.

最後まで読んでいただき、ありがとうございました! サポートも嬉しいですが、代わりに「スキ」や「シェア」、「コメント」してくださるともっと嬉しいです!