神楽という祝祭体験はデジタル村民の共通言語となるか?
Local DAO椎葉村チームの村上健太です。日本三大秘境とされるこの村に移住コーディネーターとしてやってきて7年半。Local DAOという新しい共同体の在り方にシビレて、ファウンダー募集に手を挙げてから1年と数ヶ月。そして山古志に続く新たな地域として、Nishikigoi NFTホルダーの皆さんから承認を頂いてから3ヶ月半の月日が流れました。
スピード感こそありませんが、この美しくも、過疎の村が今後どうやってサバイヴしていくのか、凡人なりに考え、切り拓き、積み重ねてきた結果、今があります。ネイティブ村民の皆さんをはじめ、様々な人に支えられ、助けられ、ようやくたどり着いたスタート地点。いよいよここから、具体的な動きが始まります。今回はそのご報告とお誘いとなります。新地域として注目してきて頂いた方も、今までこの村に関わってきてくださった方も通りすがりの方も、ぜひ最後までお付き合いください。
私たちがLocal DAOを立ち上げる動機や目指すところについては、こちらの記事にまとめてありますので未読の方はまずご一読いただけると幸いです。
■ 椎葉のNFTは、よってたかって作りたい
「Local DAO」は、Nishikigoi NFTの取組みから生まれた新たな概念であり、定義が定まったものではありません。鍵となるのは、「デジタル住民票」という発想から、これからの「住民」のあり方について問う姿勢だと捉えています。発祥となった山古志では、デジタル村民とネイティブ村民(地元民)が混じり合い、互いを隔てる見えない垣根を溶かしていくような交流が生まれています。私たち椎葉村チームとしては、新地域の募集時に掲げられた4つの条件を手がかりに、村内で顕在化する人口減少・少子高齢化という現実の荒波を乗り越えるべく、Local DAOという旗印に参集したという思いです。
その第一歩となるのが、山古志におけるNishikigoi NFTのように、世界に向けたデジタル住民票としてのNFT、ジェネラティブアート作品を制作・発行することです。
当然、そのモチーフは地域と結びついたものである必要があります。選定基準としては、この村のアイデンティティとなるものであること。10に分かれた地区の中に十人十色の個性が混在するこの秘境の村において、なにか一つに絞り込むのは簡単なことではありませんでしたが、議論の末に私たちが選んだモチーフは、「神楽」でした。
神楽とは、五穀豊穣を願い、その土地の神様に様々な舞を奉納するお祭りです。移住者である僕も、地域の皆さんのご厚意で「ほおりこ(祝子)」と呼ばれる舞手を担わせて頂いています。この村で営む日常の一部として神楽に携わる中で、神楽の舞にはその土地での暮らしの動き、身体性が込められているのではないかと考えるようになりました。であるならば、舞の所作からこの村に生きる人々の身体性を明らかにし、再構築するなかで地域の暮らしや土地柄の解像度を上げることができるのではないか、という仮説を立てました。
神楽をモチーフにNFTアートを制作するのであれば、分析や再構築といったプロセスも含めてできる限りオープンにして、作家のみならず、他の専門家も含めて様々な人に関わってもらいたいと考えています。手始めに、まずは皆さんを僕がお世話になっている神楽の現場にお招きしたいと思います。(詳細はページ下部に記載しておりますのでご覧ください。)
総称して「椎葉神楽」と呼ばれるこの村の神楽には26の保存会があり、毎年11月22日を皮切りに、12月の下旬まで村内各地で毎週末に奉納されます。僕が所属する「小崎・川の口神楽」は11/23(土)夜〜24(日)未明の予定で奉納します。
「神楽=舞」と捉えられがちですが、神様をお連れするところから始まる神事や、せり歌と呼ばれる周囲からの歓声、表情、空気感も含めて、始めから終わりまですべてをひっくるめたものが神楽です。泊まる場所はこちらでご用意できますので、この機会にぜひ、現地へとお運びください。
■ 非言語領域を埋める、神楽の体験
「言語化」の時代です。「言語化する能力がもてはやされるのが現代」だと思います。日常生活にプレゼンが浸透し、言葉にしなきゃ伝わらない、というのが当たり前になってきました。デジタルに乗せるには、すべて言語化する必要があることから、言葉で語り尽くすことで理解したり、分かろうとしたりするコミュニケーションが一般化しているように感じます。
一方で、「言語化できないもの(つまり非言語の領域)」というものが確実にあります。神楽もそのひとつです。もっと言えば、神楽はそのすべてが身体に落とし込まれた伝統芸能です。例えば神楽の舞は、基本的には毎年、身体の記憶を思い出し、確認をしながら「慣らし(稽古)」を重ねていきます。
神事の手順、しめ縄の作り方、御幣の飾り付けなど、どれをとっても基本は口伝です。身体によって伝えられます。ヨソモノの身としては、何をするにも実際に手足を動かすことで確かめていく様子を見て、なんて非効率なんだろうと感じることがなくはありませんでした。しかし、今では完全に考えを改め、こうして身体を動かして確かめていくこと、言わば肉体に刻み込まれた伝統を呼び醒ましていく工程の繰り返しこそが、唯一無二となる”わたしたちの”神楽を作り上げていくのだと確信しています。
この村の神楽は、必ず「舞う」と言います。「踊る」と言うと訂正されます。この「舞う」というのもまた、言語化することができません。神楽を舞えているか否か、それは所作の達成度といった指標で測られるものではなく、0か1かの世界です。所作の正しさとは別に、舞えているか否かという判断基準があります。「神楽の舞にはその土地の暮らしの動きが込められている」というのは僕の仮説に過ぎませんが、神楽を「舞う」ことができるようになって初めて、この村の住人になれるのではないか。今ではそんな風に考えるほどです。
NFTアートにするための神楽の分析や再構築を通じて、この地域やここでの暮らしの解像度を高めていく。そうすることで、この村の価値をより見える化し、住むことでしか見えなかった暮らしの身体性や土地の特徴がデジタル村民にも分かるようになる。ただ、解像度を高める方法は必ずしも言語化とは限らない。むしろ、神楽のような非言語の領域を身体化することで浮かび上がるものがあります。そんな、この村の肝となるものをNFT化して、皆さんと共有をしたいし、実際に帰省することで体感してもらいたいと思います。
■ 非言語体験が育む、この村への当事者意識
神楽の担い手は減少していますが、僕のところの神楽はUIターンの新人が3分の1を占めるようになりました。新人は、身体に伝統が刻み込まれていないので、従来より多く「慣らし」を重ねることになります。慣らしの後には歓談の場が生まれる。その積み重ねがお互いの人柄の理解を深め、神楽の舞も馴染んでいく。共に過ごした時間の長さによって、新たに見えたり理解できたりするものがある。一見非合理でも、それが村での暮らしというものです。
共に過ごせる時間が物理的に限られるデジタル村民にとっては、年に一度の神楽の時間が、この村を知る共通言語になり得ます。そして、その神楽を形作っているのが日常の暮らしなのであれば、田植えや稲刈りといった農作業や道路の草刈りのような暮らしの営みを一緒にやることで、それもまた共通言語となり得るのです。
非言語体験の共有による共通言語を獲得したデジタル村民が増えれば増えるほど、この村の課題に当事者意識を持って向き合える人が増えることになります。”帰省”できることをデジタル村民の条件にするつもりはありませんが、この村のことを自分ごと化する人を増やすための第一歩として、まずは現地での非言語体験をできる人を募集したいと思います。どうぞよろしくお願いします。
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