見出し画像

税務調査で使われる暗号資産取引所やNFTマーケットプレイスへの顧客情報の報告の求め―特定事業者等への報告の求め―


税務調査と「質問検査権」とは?


税務調査では、税務署の職員が「質問検査権」という法律で認められた権限を使って調査を進めます。この権限により、税務職員は納税者に質問をしたり、帳簿や書類を確認したり、それらの提出を求めることができます(国税通則法74条の2~74条の6)。

納税者はこれに応じる義務があり、質問には正確に答え、帳簿や必要な書類を提出する必要があります。もし、正当な理由なく質問に答えない、虚偽の答えをする、書類の提出を拒むなどした場合、法律違反となり、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります(国税通則法128条)。

昭和の時代に反税団体との戦いで、上記の罰則を適用していましたが、最近は適用していません。それよりも、「課税」したい、追徴税額をはじきだしたいというのが国税調査官のメンタリティです。


無申告者等への対応強化と「特定事業者等への報告の求め」



最近では、暗号資産(仮想通貨)やインターネットビジネスなど、匿名で収入を得やすい取引が増えています。そのため、誰がどれくらいの収入を得ているのかを把握しづらいという課題があります。

そこで、2019年の税制改正で「特定事業者等への報告の求め」という仕組みが導入されました(国税通則法74条の7の2)。この制度により、税務署は取引所やマーケットプレイスなどの事業者に対し、高額な取引や収入に関する情報の報告を求めることができます。

たとえば、国税庁は暗号資産取引所に対して、以下のような情報提供を求めることが可能です。

  • 「○年○月○日~○年○月○日の期間で、取引金額が〇円以上の暗号資産取引を行った顧客リスト」

ここでのポイントは、特定の個人名を指定して情報を求めるのではなく、条件に該当する全顧客の情報提供を求められる点です。この報告に応じなかったり、虚偽の情報を提供した場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。



出典:令和元年12月5日情報照会手続基本的な考え方、特定事業者等への報告事務運営指針 国税庁決裁資料




暗号資産の税務調査での活用

この新しい制度を使うことで、国税庁は暗号資産やNFT(非代替性トークン)関連の収入についても、より正確に調査を行えるようになりました。

暗号資産取引所やマーケットプレイスは、以下のような条件を満たす取引について国税庁に報告を求められることがあります。

  • 取引金額が一定額を超える

  • 顧客情報(氏名、住所、取引内容など)を把握している

このような仕組みは、適正な課税を実現するための重要な一歩であると考えられています。ここで得た情報を、調査官がChainalysis(チェイナリシス)などのブロックチェーン解析会社が提供している解析ツールに入力すれば、さらに多種多様な情報を得ることができるからです。


ただし、これだけでは暗号資産等に対する税務調査が万全な体制になるとはいえません。


暗号資産等の税務調査には多くの課題が残されています。この点については、随時取り上げていきます。



いいなと思ったら応援しよう!