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2022年12月16日に与党・令和5年度税制改正大綱が公表されました。
自社発行暗号資産を法人税の期末時価課税の対象外とすることなどが記載されましたので、簡単に整理して、見解を述べます。
なお、個人所得税の申告分離課税や 暗号資産同士の交換の課税繰延べなどの記載はありませんでした。
(2023.4.3、5.21追記)政令・規則の内容が明らかになりましたがわからない点も。
https://twitter.com/taxlaw17/status/1642345849002008579
https://twitter.com/taxlaw17/status/1660216072807800833
(2023.02.20追記)
T&Amaster967号9頁では次のような内容の記事が掲載されています。 ・現行法令上、借入れた暗号資産を期末時点で有している場合には、負債側も時価評価不要であることを課税当局に確認 ・期末時点で有していない場合は、令和5年度改正にも関係する論点であるため、改正法令を確認した後でなければ明確な回答は困難 ・令和5年度改正では、暗号資産交換業者から借り入れた場合について規定している法人税法61条7項の取扱いを暗号資産交換業者以外の者から借り入れた場合にも広げる趣旨の改正をする。
2023.12.25追記
令和6年度改正により、第三者発行の暗号資産も期末時価評価課税の対象から除外できる予定ですが、色々と議論すべきところは多そうです。
1 大綱(暗号資産課税関係抜粋)
税制改正大綱のうち、暗号資産に直接的に関係する記載は、次のとおりです。
上記は、節税封じですかね。
参考として、マイニング業に係る所得の事業所得該当性が争われた事案の裁決文を柳谷憲司税理士がアップしてくれています。
以下のリンクからご覧ください。
上記裁決の内容は以下の記事を参照してください。
他社発行の暗号資産を期末時価評価課税の対象外にすることは実現しませんでしたが、自民党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチーム(平将明 PT座長)の「web3政策に関する中間提言」によれば、改正の取組はまだまだ継続されるようです。詳しくは、以下を参照。
あと、「資金決済に関する法律の改正に伴い、同法に規定する電子決済手段の譲渡について、消費税を非課税とするほか、所要の措置を講ずる。」という一文も入っています(大綱95頁)。
2 期末時価評価課税の改正
(1)自己発行継続保有要件と譲渡継続要件
法人税は、暗号資産を手放さずに保有しているだけで、期末に時価評価して課税する期末時価課税を採用していましたが、上記2①の記述によれば、一定の要件を満たした暗号資産については、時価評価による評価損益の計上対象から除外されるということです(細かくいえば、時価評価はするが、その評価損益は計上しないという整理がなされる可能性があります)
そうすると、対象除外とされるための一定の要件が重要となります。
要件は次のとおりとなります。
現行の条文の建付けを前提とすれば、法人税法61条3項が改正されて、細かい要件は同項からの委任により法人税法施行令が定めることになる可能性があります。
法律又は政令、通達制定前に、簡単にですが、いくつか見解を示しておきたいと思います。
私が勝手にネーミングした上記イの「自己発行継続保有要件」とロの「譲渡制限継続要件」は、「イ又はロ」ではなく、「イ及びロ」と読む可能性が高そうです。
つまり、イとロの両方の要件を満たす必要があるこということです。
対照的に、ロにおいては「次のいずれかにより」と明記されていますので、(イ)と(ロ)の要件は少なくともどちらか一方を満たしていればいいということになるでしょう。
技術的にありうるのかわかりませんが、当初ロの要件を満たしていたが、途中でイの要件を満たすように変更した場合にどうなるのかは、わかりません。
(2)発行に関して
(3)保有・譲渡制限に関して
技術的措置と信託による譲渡制限継続要件が規定されるということは、裏を返せば、(信託以外の)契約・合意による譲渡制限では要件を満たさないと理解されることになりそうです。
上記の「保有」・「譲渡制限」に関して次の点が検討されるべきでしょう。
技術的措置については、@shogochiaiさんから、次のようなコメントをいただきました。
要は、中古の家買ったら買主は家の鍵を新しいものに交換しなさいという話だとしたら、吸収合併等により、暗号資産発行法人を自社に取り込んでも、安全性の問題がつきまとうということかも。このような場合、少なくともその発行法人が保有していた暗号資産を安全なウォレットに移転する必要があるため、事実上、上記の要件を満たせないことになるかも?
3 自己発行暗号資産の発行費用と取得価額
「② 自己が発行した暗号資産について、その取得価額を発行に要した費用の額とする。」という改正に関して、次の点を指摘しておきます。
柳澤先生は、次のとおり、ツィートされています。
4 借入暗号資産の取扱い
借入暗号資産は色々やっかいな問題がたくさんあります。
「③ 法人が暗号資産交換業者以外の者から借り入れた暗号資産の譲渡をした場合において、その譲渡をした日の属する事業年度終了の時までにその暗号資産と種類を同じくする暗号資産の買戻しをしていないときは、その時においてその買戻しをしたものとみなして計算した損益相当額を計上する。」という改正に関して、詳細は法令案を見てからにしたいのですが、次の点を指摘しておきます。
上記裁決についてはこちらのリンクにございます。
柳澤先生は、次のとおり、ツィートされています。
やはり、実際の法令案を見ないと何ともいいがたいですね。
貸借取引の譲渡損益を認識するか否かを検討する際に参考になる文献として次のものがあります。
ニューヨーク州法曹協会等でも議論されている論点ですので参考になります。同協会は、一定の要件を満たす暗号通貨ローンの譲渡損益を認識しないことを明らかにする規則を発行すべきと提言しています。結局、貸し手が有するものは法的には暗号通貨ではないが、貸し手が有する権利は貸した暗号通貨と実質的に異なるものではないか、貸し手の経済的ポジションが貸付け前後で実質的に変化していないか、という観点が、ポイントとなりそうですね。その際、暗号通貨のファンジブル性や、ハードフォーク・エアドロによる恩恵の取扱いに着目した要件設定の議論がなされていることは興味深いです。
https://nysba.org/app/uploads/2022/04/1461-Report-on-Cryptocurrency-and-Other-Fungible-Digital-Assets.pdf
なお、課税上(解釈論上)、暗号資産をお金(金銭)とみたり、その貸付けによる対価を利息とみたりすべきか、という問題については、次の文献がシンガポール税制との関係で興味深い議論をしています。
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