仮想通貨(暗号資産)の売買等による所得が納税者に帰属するか否かが争われた国税不服審判所の未公開裁決(令和5年2月17日・東裁(所)令4第85号)を紹介します。
この事件において、個人である納税者(請求人)は、仮想通貨の管理処分を行っていたのは自分ではないと主張しました。事実関係の詳細はわかりませんが、請求人が仮想通貨を管理処分していたこと裏づける証拠がある一方で、請求人の主張を裏づけるような証拠は乏しかったのではないかと考えます。
情報公開請求で入手した裁決書は、黒塗り部分が多いため、詳細が不明な点もありますが、黒塗り部分は適宜「?」などと表現して、紹介します。
裁決書をダウンロードしたい方は以下からお願いします。
(追記)R6.8.16
当初申告に係る更正の請求分の裁決書
なお、審判所のホームページでは、次の裁決要旨のみがアップされています。
この裁決では、本件仮想通貨が請求人に帰属するかどうかをまず詳細に検討し、請求人に帰属するといえることから収益も請求人に帰属するという構成をとっています。
1 事案の概要・結論
本件は、審査請求人の平成29年分及び平成30年分の所得税等について、
原処分庁が、請求人名義で行われた暗号資産の売買、交換、使用等の各取引による所得が請求人の雑所得に当たるとして、所得税等の更正処分等をしたのに対し、
請求人が、当該暗号資産の一部は請求人に帰属しないため、当該暗号資産に係る各取引による所得の一部は請求人に帰属せず、また、所得から控除すべき必要経費があるとして、原処分(更正処分と過少申告加算税賦課決定処分)の一部の取消しを求めた事案です。
結論として、審判所は、請求人の上記請求を棄却しています。
つまり、仮想通貨の各取引に係る収益は請求人に帰属し、請求人が行った各支出は請求人の雑所得の金額の計算上必要経費に算入することは認められない、と判断されました。
2 争点
3 事実関係(抜粋)
請求人は、平成29年及び平成30年において、金銭又は仮想通貨の管理のために業者が提供するサービスを利用し、請求人名義のウォレット(仮想通貨の管理を行う口座)を作成し、使用していた。
請求人は、平成27年9月から平成28年3月までの間に、複数回にわたって、仮想通貨ADAを購入する旨の予約をし、請求人の負担で代金を支払って、平成29年9月30日に合計7,002,018ADAの移転を受けた(本件ADA)。
その後、取引所に本件ADAを移してETHやBTCと交換。(本件各交換)。
請求人は、上記ETHの一部を円転し、請求人名義の普通預金口座に送金し、また、上記BTCを移転して、株式を取得した。
請求人は、平成29年12月11日、?との間で、「Business Partnership Contract」と題する書面(本件提携契約書)に記載する内容について合意した。
本件提携契約書には、?と請求人が国際的な業務を提携して行うための基本的な契約を締結した旨記載され、その第2条には、?が負う業務の範囲に「International Settlement System」(本件条項)と記載されていた。
請求人は、クレジットカードを使用して本件各支出を支払った。
4 審判所の判断
争点1:本件ADAの帰属とその収益の帰属
審判所は、次の点を考慮して、本件ADAは、本件各交換時点において、請求人に帰属するから、本件各取引に係る収益は請求人に帰属する、と判断しました。
争点2:本件各支出が必要経費該当性
審判所は、次のとおり述べて、本件各支出は、請求人の雑所得の金額の計算上必要経費に算入することができない、と判断しました。
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