米国ビットコインETFを売却した場合の所得には分離課税が適用されるか?(ビットコインETFの税金/所得税関係)
この記事では、日本の居住者が、米国のビットコインETF(直物)を米国の市場で売却した場合の所得について、分離課税の適用があるか否かを検討する際に、解決すべきいくつかの問題点・疑問点があることを指摘します。
次の点にご留意ください。
前提知識を書いていると膨大な量になるので、一般向けの内容にはなっていません。
筆者(泉)の知識不足や誤解により、内容に誤りがある可能性も否めません。
問題点や疑問点のみを端的に取り上げているので、法律の細かい適用関係の説明や根拠条文の表記は省略している場合があります。関係する法律の適用関係に関する情報は、斎藤創=水嶋優「米国の暗号資産ETFの日本での取り扱いについて(第1.2稿)」(2024.2.28)をご参照ください。
取りあげている内容、問題点や疑問点について、ご意見・ご助言等があればプロフィール欄の連絡先を通じて、是非お願いいたします。
この記事の内容は、基本的に2024年7月に所属する大学から発行される紀要(東洋法学)に掲載される予定の拙稿をベースにしています。詳しい検討をご覧になりたい方は、この紀要に掲載される論文をご確認ください。
20240613追記
後で紹介する、租税法上の信託の意義の解釈について判断した国税不服審判所令和6年3月14日裁決(東裁(法)令5第80号)を貼っておきます。ご自由にダウンロードしてください(情報公開制度を利用して入手したもの)。
この裁決は、次のとおり述べていますが、外国法の信託らしきものにに当てはまる際にもそのような解釈をそのまま述べることだけで足りるのかは議論の余地があるでしょう。個人的には、審判所ではなく、裁判所の判断が欲しかったところです。
外国法との関係では、審判所は特に説明をせずに、次のように述べています。
この裁決の事件では、オランダ財団が株式を保有して管理するために、depositary receiptsを対価として当該株式を所有していますが、これについていかなる証券も発行していないとしています。ここでの証券はどのような意味で用いられているのかという点に関心が向けられます。
裁決では信託該当性について細かく検討しています。ビットコインETFは信託ではなく、人格のない社団等や法人に該当する可能性を検討する際に有益な裁決です。
2024.09.5追記
拙稿「日本の居住者が米国ビットコインETF(上場投資信託)を譲渡した場合の所得は分離課税の対象か?――暗号資産現物ETFと外国信託の課税問題―」が公開されました。下記からダウンロード可能です。
1 ビットコインETFと分離課税
2024年1月10日に、SECは、米国で初めて[1]、ビットコインの現物を運用対象とするETF(上場投資信託)を承認しました。同日において、ビットコインETF11銘柄が承認されています。
ETFは、投資家にとって管理等が楽な分、手数料が発生します(しばらくは、スポンサーが手数料を放棄している場合もあります)。各銘柄の手数料の相違はこちら。
ビットコインETFの詳細な仕組みを説明すると長くなるので省略しますが、図表の中のスポンサーがデラウェア州法定信託を設立する手配、信託の受益権である持分(Share)を上場する責任を負っています。
各銘柄について、基本的には、次のような共通点があります。
運用対象は現物のビットコインのみ。ただし、Hashdex Bitcoin ETFはファンド資金の95%以上が現物のビットコイン、5%がビットコインの先物契約等
受託者はデラウェア州法定信託法に従って設立されたDelaware Trust Company。ただし、Hashdex Bitcoin ETF はデラウェア州のWilmington Trust Companyなど例外あり
信託は米国連邦所得税法上、グランタートラスト(ただし、Hashdex Bitcoin ETFはパートナーシップ)として取り扱われる可能性が高いという見解
SECに登録されたブローカーディーラーなどの指定参加者のみが、(例えば1万口の持分で構成されている)バスケットを購入・償還可能(発行市場)
一般の投資家はブローカーを通じて、市場で持分を売買(流通市場)
自由民主党デジタル社会推進本部web3 プロジェクトチーム(座長:平将明衆院議員)の「web3 ホワイトペーパー2024―新たなテクノロジーが社会基盤となる時代へ―」(この後、政務調査会の審査を経て、自民党の政策になりる予定)は、「個人が保有する暗号資産に対する所得課税の見直し」の項目において、次のような問題が存在することを指摘しています。
暗号資産に関わる分離課税の議論に関して、①外国の暗号資産現物ETFが国内で流通した場合と、②国内でも暗号資産を原資産としたETFが組成された場合という2つのルートを挙げて、これらの取引から生じた所得が分離課税の対象とされる可能性があることを前提に、議論を展開しています。
このうち、②のルートについて、「web3ホワイトペーパー2024」でも述べているとおり、現時点では、暗号資産は投資信託及び投資法人に関する法律(以下「投信法」といいます)において、投資信託の投資対象資産である特定資産に含まれておらず、金融庁の「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2024.4)において非特定資産等に対する投資信託の組成及び販売が制限されているため、暗号資産を投資対象とするETFを含む投資信託は存在していません。
①のルートについても、外国ですでに上場されている暗号資産現物ETFを国内で販売することは、現時点では、難しいようです。
それでは、暗号資産現物ETFが分離課税の議論への影響を与える可能性として、第3のルートはどうなっているのでしょうか?
つまり、日本の居住者が、米国のビットコインETF(持分・Share)を米国の市場で購入し、譲渡した場合の所得について、日本において分離課税の適用があるかという問題です。この点については、既に、分離課税の適用の可能性を肯定する見解が示されています[2]。
そこでは、様々な留保は付されているものの、ビットコインETFの譲渡に係る所得が、法人課税信託に係る規定の適用を経て、租税特別措置法37条の11の上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例(以下「本件特例」といいます)の適用の可能性があるとされています。
2 分離課税への道に転がっている問題点・疑問点
(1)法人課税信託とは
上記のとおり、ビットコインETFには信託(デラウェア州法定信託)が利用されています。したがって、信託税制が適用されることは予想されますが、同税制の概要の説明は省略します。
日本の居住者が、ビットコインETFの持分を米国の市場で売却して得た所得に対して、分離課税が適用されるか否かは、上記信託が日本の法人税法上の法人課税信託に該当するかどうかに左右されます。
法人課税信託に該当すると、信託の受益権は株式とみなされます。それが上場されていれば、上場株式として、分離課税の適用があるということです(所法6の3四)。分離課税を適用を検討する際に必要な「上場株式等」、「外国金融商品取引所」の定義等については省略しますが、次の点だけ記しておきます。
NYSE Arcaは、金融商品取引法施行令2条の12の3第4号ロに規定する指定外国金融商品取引所に該当すると思われるので、外国金融商品取引所に該当すると考えております。
平成22年金融庁告示41号(最終改正:平成29年12月20日付金融庁告示第47号)
上記の告示の中に「ニューヨークストックエクスチェンジ」があるため、過去のパブコメへの回答を参考としても、ここには「NYSE Arca」も入るだろうと推測しています。過去のパブコメでも類似の質問があり、これに対して金融庁が回答していたため、念のために、金融庁企業開示課に問合わせをしましたが、「お示しできるものが何もないため、回答できない。」という回答でした。
参考:過去のパブコメにおける金融庁の回答は以下のとおり
ビットコインETFの信託は、取引所で売買可能な信託の未分割受益権を表章する持分(Share)を継続的に発行します。持分は、信託の受益権の均等かつ比例的に分割された単位を示しています。
よって、法人課税信託に該当すれば、持分の譲渡による所得に対して、分離課税の適用があるということです。
そうすると、法人課税信託の定義を確認する必要があります。そこで、検討すべき点だけを簡単にとりあげると、次の要件をすべて満たすと、法人課税信託に該当します(法人税法2条29号の2)。
上記③については、上記ア及びイのほか、例えば、委託者が法人で、かつ、自己信託等で存続期間が20年を超えるものとされていたことという信託の類型に該当するかを検討する余地もあります。
仮に委託者=スポンサー(いずれもLLC)と考えるならば、日本の税法上の「法人」とされて、委託者が法人であるという要件を満たすことになりそうです。
後は、自己信託等で存続期間が20年を超えるものかという要件ですが、以下の点からすれば、存続期間が20年を超えるものとされていたとは必ずしもいえないため、この要件を満たさないのではないか(つまり、この要件を満たして、法人課税信託に該当するとはされない)という見解と、本信託は(デラウェア州法定信託法及び信託契約の規定によれば)原則として永久存続であるからこの要件を満たすという見解(他の要件も満たして、法人課税信託に該当するかをさらに検討することになる)で、立場が分かれそうです。
(2)①「信託であること」
外国の信託又は信託に類似する制度が、日本の租税法上の信託、信託法上の信託に該当するといえるのかという問題です。最近の参考裁決(国税不服審判所令和6年3月14日裁決(東裁(法)令5第80号))として、吉村浩一郎「外国法に基づく法律関係について日本税法上の『信託』該当性を肯定し、外国子会社合算税制に基づく課税処分が取り消された事例」NO&T Client Aleret2024年4月9日号参照。
委託者、受益者、受託者、信託会社などの概念についても同様の問題が起きます。
ここでは、デラウェア州の法定信託が日本法上の信託に該当することを前提として考察していますが、さらに検討する余地は残っています。
なお、投信法上の外国投資信託との関係において、次の見解が参考になります。
なお、財務省のホームページでは、振替国債等の利子の課税の特例(措法5の2)の適用要件を満たす適格外国証券投資信託に、信託ではないFonds commun de placement が含まれることが明らかにされています。同特例の外国投資信託も投信法2条24項の外国投資信託です。
この点は、長島・大野・常松法律事務所 編『アドバンス金融商品取引法〔第3版〕』(商事法務、2019)19頁、平川雄士「借用概念論に関係する国際的企業租税実務上の諸問題」金子宏編『租税法の発展』(有斐閣、2010)361頁の脚注(24)参照。
(3)③イ「投信法2条3項の投資信託であること」
投信法2条3項の投資信託は同法に基づき設定されるものに限定されているので、デラウェア州法定信託法に基づいて設立されたビットコインETFの信託は、これには該当しません。
(4)②「集団投資信託に該当しないこと」
次に示す理由から、ビットコインETFの信託は、①合同運用信託に該当しません。
合同運用信託とは、「信託会社(兼営法1条1項に規定する信託業務を営む同項に規定する金融機関を含む)が引き受けた金銭信託で、共同しない多数の委託者の信託財産を合同して運用するもの」です。ただし、投信法2条2項の委託者非指図型投資信託及びこれに類する外国投資信託、委託者が実質的に多数でない信託は合同運用信託から除かれています(法法2二十六、法令14の2)。
以下、検討と疑問点を整理します。
第1に、「信託会社」該当性について、ビットコインETFの信託の受託者は、信託会社なのか、という疑問があります。
まず、ここでいう信託会社という概念を日本の信託業法の概念と整合的に理解するならば、規制当局等から信託業(信託の引受けを行う営業)を営むことの免許又は登録を受けていることが必要となりそうです。
このような理解が正しいならば、次の点から、ビットコインETFの信託の受託者はこの意味での信託会社には該当しないのではないかと考えます。
ただし、法人法上の信託会社の概念、日本の信託会社による限定責任信託、デラウェア州の信託会社に対する規制について、さらに検討する余地はあるのかなと考えています。
デラウェア州の法定信託の受託者の責任は信託法上の限定責任信託と共通しているという指摘及び信託業法との関係等については、有吉尚哉「証券化のビークルとしてのデラウェア州のスタリュトリー・トラストの特性」クレジット研究39号(2007)86頁、94頁の脚注(4)・(12)が参考になります。
なお、法人税法上の信託会社には信託業法上の外国信託会社が含まれると解されますが(信託業法88)、外国信託会社とは総理大臣の免許又は登録を受けた外国信託業者のことですから(信託業2⑥)、ビットコインETFの信託の受託者はこれに該当しません。
第2に、「多数の委託者」該当性について、ビットコインETFの信託の目論見書や信託契約書では「settlor」、「trustor」、「donor」、「creator」という語は使用されておらず、米国連邦所得税法上のグランタートラストの課税関係の文脈で「grantor」という語が使われているにすぎません。
そうすると、委託者のいない信託宣言なのか、ビジネストラストなので主たる登場人物は受託者と委託者兼受益者なのかとも思いましたが(銘柄によっては、信託宣言という語も使われている)、法人税法上の委託者=信託法上の委託者=信託の設定者と解するならば、ビットコインETFではスポンサー(1社)が委託者になる又は委託者に相当する当事者と考えてもよいのではないかと思います。
「委託者に相当する当事者」という考え方は、日本証券業協会「米国デラウェア州法に基づくビジネス・トラストについて―営業ルール照会制度に基づく照会及び回答―」証券業報582号34頁の記述を参考にしたものです(デラウェア州法定信託は昔はビジネス・トラストという名称でした)。
実際に信託に金銭を拠出する指定参加者や最初にバスケットを購入するシードキャピタル投資家を委託者(兼受益者)と解したとしても、多数の委託者とはいえません。持分を購入する一般の投資家は多数いますが、市場で持分を購入しただけですから委託者ではないでしょう。
よって、「多数の委託者」該当性は否定されます。
次に示す理由から、ビットコインETFの信託は、②外国投資信託に該当しません。
この場合の、外国投資信託とは、投信法2条24項に規定する外国投資信託です。投信法上の外国投資信託とは外国において外国の法令に基づいて設定された信託で、投信法上の投資信託(委託者指図型投資信託及び委託者非指図型投資信託)に類するものです(法法2二十六括弧書、二十九ロ、所法2①十二の二、措法2①五、投信法2①③㉔)。
この場合の「投資信託に類するもの」の要件については、必ずしも明確な指針はなく、投信法上の投資信託に類するものといえるかどうかが問われます。その判断要素に関する見解を調べてみたところ、種々の事情を総合勘案すべきという見解が多いように思いますが、運用対象が主として特定資産に対するものであるかという判断要素を重視する見解が有力なのではないかと考えます。
そうすると、ビットコインETFは特定資産に該当しない暗号資産のみに投資するので、「投資信託に類するもの」に当たらず、よって、外国投資信託に該当しません(投信法令3)。
特定資産を定める投信法施行令3条の「商品」が掲げられていなかった時代のものですが、大阪国税局審理インフォメーション127号(課税第一情報第66号)(H20.9.29)(TAINSで入手可能)は「上場された金現物連動型ETF『SPDRゴールド・シェア』 の特定口座の対象となる株式の適否について」と題する照会に対する回答の中で、次のとおり述べています。
以上より、国税当局もビットコインETFの信託は投信法上の投資信託に該当せず、投資信託に類するものとしての外国投資信託にも該当しないと判断することが予想されます。
ただし、次の留意を示しておきます。
投信法における外国投資信託に関する解釈や判断が、租税法上の外国投資信託に関する解釈や判断に大きな影響を与えます。これは、租税法上の外国投資信託の定義規定は、外国投資信託の定義を定めた投信法の条文を直接的に引用しているため、その意味内容について租税法固有の解釈論を展開する余地がないと考えられているからです。結局、投信法の解釈(場合によっては、金融庁の解釈)に依存せざるをえない状況になっています。
そして、「投資信託に類するもの」であるかを判断する際の決定的な考慮要素は何であるかという点について投信法領域で議論が固まっていないという不安定な状態が、租税法領域において(ともすれば)無限定に引き継がれるという構図になっています。
このような問題の存在は、以前から論者によって指摘されていました(Yuko Miyazaki, Classification Issues Regarding Foreign Trusts Under Japan’s Tax Law and Overhaul of the Trust Law, Vol. 61-9/10 Bulletin for International Taxation 418, 425 (2007)、増井良啓「信託と国際課税」日税研論集62号234頁など)。
次に示す理由から、ビットコインETFの信託は、③特定受益証券発行信託に該当しません。
特定受益証券発行信託の対象となるのは、信託法185条3項の受益証券発行信託に限定されています(法法2二十九ハ)(ただし、租税特別措置法8条の3は、特定受益証券発行信託が国外で発行されうることは認めているようです)。
よって、デラウェア州法定信託法により設定されるビットコインETFの信託はこれに該当しません。
(5)③ア「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」
「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」該当性について、どのようなものに定められているかまでは言及されていませんが、少なくとも目論見書又は信託契約書にその旨の定めがあればこの要件を満たすことになることを前提として考察します。
この場合の「証券」を「財産法上の権利義務に関する記載のされた紙片」(大森政輔ほか編『法令用語辞典〔第11次改訂版〕』(学陽書房、2023)752頁)と解するならば、ビットコインETFは少なくとも通常は、受益権を表示する紙の証明書を発行するものではないので、これに該当しないという見解がありえます。
ビットコインETFの持分に関しては、基本的には、次のような仕組みであるといえます。
色々定められていて、場合によっては紙の証書の発行もあるのかなと思わせる記述もあるのですが、結局、持分に係る受益権について振替式を採用し、それはデジタルで記録していると推察することが正しいのであれば、紙の証書の発行はないということになるでしょう。紙まで発行したら権利関係が複雑になってしまいますし、そもそも上場して転々流通する持分を今さら紙で発行することはしないのではないかとも思います。
ただし、銘柄によっては、スポンサーが独自の裁量で持分を証明するものを発行させることができるようなことも記載されている場合があります。ですから、事実認定や契約解釈等の領域で、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」該当性の議論を続ける余地はあるかもしれません。
また、法令の解釈論の領域においても、個人的には、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」には、紙片を発行せずに振替式を利用する定めのある外国信託も含まれるとする解釈を検討する余地があると考えます。
長くなるので、理由は簡単?に示しておきます。
3 まとめ
冒頭で述べたとおり、ビットコインETFの譲渡に係る所得が、法人課税信託に係る規定の適用を経て、本件特例が適用されて分離課税となる可能性はあるものの、その道程にはいろいろな問題点や疑問点があることを指摘しました。
特に、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」及び「証券」の意義については更に検討が必要でしょう。また、ビットコインETFの仕組み、デラウェア州法定信託を含む外国法上の信託制度又は関連する概念を、日本の租税法の規定を適用しようとすると、わからない点が多く出てきました。もちろん、個別の銘柄によっても仕組み等が異なることに注意が必要です。
上記の「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」への該当性という点について、外国信託を法人課税信託と受益者等課税信託のいずれとして扱うかについて、信託証書に受益権を表示する証券を発行されうる旨の定めが含まれているか否かが決定的な判断要素となる場合には問題が生じることは既に論者から指摘されています。そこでは、おそらく世界のほとんどの地域で信託の条項をどのように定めるかは当事者の裁量に委ねられているから、この点が決定的な判断要素である場合には、外国信託の当事者は、その裁量によって、容易にいずれか一方を選択できるという問題意識が示されています(Yuko Miyazaki, Classification Issues Regarding Foreign Trusts Under Japan’s Tax Law and Overhaul of the Trust Law, Vol. 61-9/10 Bulletin for International Taxation 418, 425 (2007))。
もっとも、デラウェア州法定信託法は次のとおり、法定信託が「 a separate legal entity」であると定めています(3801条(i)によれば"Statutory trust” means an unincorporated associationではありますが)。・・・すると、法人課税信託に該当しなくても、日本の税法上の「法人」又は人格のない社団等に該当する可能性を精査する必要あるように思いますが、「trust」=「信託」という観念が当局や裁判所の判断に影響を与える可能性も否定できず、まだまだ検討が必要そうです(木内清章『商事信託の組織と法理』(信山社、2014)112頁は、法定信託は、訴訟や取引の主体性など対外的な側面では株式会社に類似するものの、内部的な面では株式会社と同様にはとらえられないと指摘しています)。
デラウェア州法定信託の場合は、日本の信託法のように、受託者に信託財産の権利を移転する必要がないことも考慮すると、日本の信託法上の諸概念≒法人税法上の信託・委託者・受託者・受益者の概念に当てはめようとすると、「??」が残ってしまいます💦(米国暗号資産ETFの受益者は、一応、受益債権+帳簿等閲覧等請求権などこれを確保するための一定の権利があると解されて、日本の信託法上の受益者には当たるのではないか・・・)
また、3804条(a)では、法定信託が訴訟当事者になることを定めています。
株式会社と信託の類似性に着目して、エージェンシーコストの観点から、信託に対して規範的検討を加えることもありうるでしょう。Robert Sitkoff, An Agency Costs Theory of Trust Law, 89 Cornell L. Rev. 621 (2004). 同教授の見解について、山中利晃「信託法の経済分析―Sitkoff教授とその示唆―」金融商事ワーキングペーパーシリーズ2015-2も参照。もちろん、信託の特性を十分に考慮する必要はありますが。Lee-ford Tritt, The Limitations of an Economic Agency Cost Theory of Trust Law, 32
Cardozo L. Rev. 2579, 2594 (2011).
事業体としての信託が法人に類似すること及びデラウェア州のビジネストラストに係る信託法が事実上、一般的な会社法となっていることについて、Henry Hansmann & Ugo Mattei, The Functions of Trust Law: A Comparative Legal and
Economic Analysis, 73 N.Y.U. L. REV. 434, 472, 475 (1998).
このように考えてくると、法人課税信託に該当し、(本信託そのものではなく)本信託の受託者(受託法人)が各法人課税信託の信託財産等及び固有資産等ごとにそれぞれ別の者とみなされて、課税されることは妥当なのか、という疑問が湧いてきます。
他方、両者のアナロジーから出発した場合に、信託を租税法上の「法人」に寄せて捉えられるべきかは、更に検討が必要でしょう。
いずれにしても、このような議論は、組織形態や事業形態と信託の議論とも関わるものです。日本銀行金融研究所「『組織形態と法に関する研究会』報告書」金融研究22巻4号(2014)参照。同報告書28頁は、次のとおり指摘しています。
そういえば、今後、特定資産に暗号資産が追加され、国内暗号資産ETFが分離課税になったとしても、米国ビットコインETFは投信法上の外国投資信託=集団投資信託になり、ETFの組成地によって合理的理由なしに取扱いが異なるというバランスが悪い結果になる可能性もありますね。
なお、信託から居住者に分配があった場合に(信託がビットコインを譲渡した場合や、信託が終了した場合など)、みなし配当に係る按分計算も含めて配当所得該当性やその際の日米租税条約の適用関係(日米租税条約4⑥(e)の適用があっても、居住者の課税関係には影響なしであり、もし、グランタートラストとして信託自体には米国で課税されないので信託は「課税を受けるべきものとされる者」に該当しないと整理されても同じ?)も問題となります。外国投資信託には該当しない以上、居住者の外国関係会社に係る所得等の課税の特例(措法40の4~40の9、68条の3の3➀)の適用はないと考えています。
★実際の税金の申告や個別の税務相談等は、税理士に依頼しましょう。★
※ 引用される場合は、この記事を引用元としてお示しください。
[1] 米国では、ビットコインの先物を運用対象とするETFについては以前から承認され、取引されていました。したがって、なぜビットコインの現物を運用対象とするETFが承認されないのか、同様のものは同様に扱われるべきことが大原則であるにもかかわらず、SECは両者の取扱いが異なることの合理的な理由を説明しておらず、Grayscale社のビットコインETFの上場を認めなかったSECの取扱いは恣意的であるとして(米国行政手続法§706(2))、裁判所がSECの決定を取り消していました(Grayscale. Invs., LLC v. SEC, 82 F.4th 1239 (D.C. Cir. 2023) )。
なお、例えば、後述するカナダなど、米国以外の国ではビットコインの現物を運用対象とするETFは既に存在していました。参考として、各国のビットコインETFを比較する次のリンク先を参照。https://www.statista.com/statistics/1448509/biggest-bitcoin-etfs-worldwide/; https://www.justetf.com/en/how-to/invest-in-bitcoin.html
[2] 斎藤創=水嶋優「米国の暗号資産ETFの日本での取り扱いについて(第1.2稿)」(2024.2.28)参照。なお、筆者は、ビットコインETFの課税関係を検討するに当たり、両弁護士、柳谷憲司税理士及びアメリカ税法研究会(神奈川大学法学研究所共同研究)における筆者による研究報告の場で多くの先生方から貴重なご意見を賜る機会を得ており、この場を借りて御礼申し上げます。
おまけ:第198回国会 参議院 財政金融委員会 第12号 令和元年5月30日
5年以上前に国会で藤巻先生は、暗号資産ETFと分離課税の問題を取り上げておりました。
102 藤巻健史発言URLを表示
○藤巻健史君 ・・・ そこで、今、アメリカの方では、暗号資産ETF、これが何となく、これははっきりはしていませんけれども、許可されそうな雰囲気もあるわけです。SECのコミッショナーのピアースさんですか、これが、進取の精神に満ちあふれた国々に後れを取ることを心配すると書いていらっしゃるわけですね。アメリカでもそう考えているわけで、ほかの国に後れを取っちゃいけないと思いますけれども、金融庁はどう考えているのか、ちょっとお聞きしたいんですけどね。 この法案でも、ハッキングの被害を心配されているわけですよ。ですから、取引業者というのは、最低限のもの、ビジネスに最低限必要なものを除いてコールドウォレット、ハードウォレットで保管しろと言っているわけですけれども、ETFができれば当然のことながら信託されて、債券型のETFだったらば信託銀行に信託されて、信託銀行はまずカストディアンを、例えば非常に堅固なカストディーを持つカストディアンを選択していくということでハッキングの問題というのは極めてリスクが減少すると思いますし、ETFができると暗号資産のマーケットも非常に大きくなって機関投資家も入りやすくなりますし、価格も安定してくると、こういうことになると思うんですが、ETFに関してどうお考えかをお聞かせ願いたいと思います。
103 三井秀範発言URLを表示
○政府参考人(三井秀範君) まず、米国において、暗号資産ETFについてSECに対しまして複数の申請がなされているというふうに承知してございます。ただ、これ、海外当局の検討状況とか判断に関わることでございますので、これについての論評は差し控えさせていただきたいと存じます。 その上で、でございますけれども、日本でこの暗号資産ETFをどのように考えるかということでございますが、この暗号資産についての法制を検討する場で有識者の方々とも議論させていただいたんですが、そこで出てきた議論の中に、通常のここで言う暗号資産というのは、いわゆるビットコインなどで言われているようなパブリック型のブロックチェーンで、株式などと違ってキャッシュフローであるとかフェアバリューであるとかその裏付けとなる資産といったものが必ずしも観念されなくて、需給によってだけ価格が変動すると。極端な言い方をすればフェアバリューはゼロであることがあり得るということで、こういったことから見ると、価格が大きく変動するというふうなリスクを抱えているというふうな指摘を頂戴しております。 実際、この法案の検討に当たった契機となりました様々な出来事におきましても、これが過度な投機の対象となっているということから相談等々の問題もあったということがございます。 こういった状況に鑑みますと、現時点におきまして、この暗号資産のETFというのを組成して暗号資産に対する投資をより一層一般国民に対して容易にしていくということについては、慎重に、あるいはいろんな面から考えていく必要があるかと存じます。
104 藤巻健史発言URLを表示
○藤巻健史君 いつも暗号資産の議論になると、安全性とそれから技術の進歩、世界に出遅れるんじゃないかという、その兼ね合いだと思うんですけれども、今、三井局長のお話聞いていますと、価格が大きくぶれるから、ボラティリティーが高いからというお話ありましたけれども、ETFをつくれば、その価格が、変動幅が小さくなるんではないか、どちらが卵でどちらが鶏か分かりませんけれども、暗号資産の価格ボラティリティーを減らすためにもETFというのは非常に重要な商品かなというふうに思います。 あともう一つ、聞いていますと、やっぱり財産としての価値を認めていないんじゃないというような会合でのコメント、SECの会合のコメントを聞いていますと財産価値があるかというような感覚もあるんですけれども、私が聞いていますと、やっぱりETFが、なかなか金融庁で渋っているのは一種の法律上の問題、要するに財産として認めるかどうかという疑問が出てくるということで、その問題であるならば、信託法の第二条、それから投信法施行規則第十九条三項一号に暗号資産を明記すれば、その問題というのはクリアできるようなことになると思うんですが、いかがでしょうか。
105 三井秀範発言URLを表示
○政府参考人(三井秀範君) 法律上の論点で申し上げさせていただきますと、このETFを組成するということについて、この入口の議論は、まず投資信託法上の投資信託になるということがまず入口としてございまして、今度、投資信託法上の投資信託はどういうふうになっているかと申し上げますと、これ特定資産というものがまず法律に定義されていまして、主として特定資産に投資して運用することを目的とする信託とされておりまして、また、特定資産とは何かということで、投資を容易にすることが必要な資産として政令などで定めるものとなっておりまして、この政令に現在暗号資産、仮想通貨というのは含まれておらないという状況でございます。 ここに指定するかどうかということになりますと、先ほど申しましたようなフェアバリューというものは観念し難い等々の問題がありまして、これを一般大衆投資家に向けて投資を容易にすることが望ましい、必要な、こういった資産であるかどうかということがその判断の要素になってくるかと存じますが、現時点ではなかなかこうしたものに指定することについて広く理解を得ることは難しいのではないかというふうに考えております。 こうしたことから、現時点では特定資産に追加するということを考えている状況にはないところでございます。
106 藤巻健史発言URLを表示
○藤巻健史君 いずれは特定資産に暗号資産を書き込むと、可能性もあるという、特定資産に書き込む可能性があるというふうに理解しました。 先ほど、最初にあれだけ褒めてさしあげたんですけれども、非常に先駆的な金融庁というふうに褒めたんですけれども、今の答弁聞いていると、駄目だこりゃと思いますですね。 次、国税にお聞きしたいんですけれども、国税。今のところ可能性はないという話がありましたけれども、もし暗号通貨ETFができましたら、これは二〇%の分離課税ということでよろしいんでしょうか。 というのは、ETFであるならば外形で判断すべきであって、何が入っているかということでは判断する仕組みにはなっていないと思いますので、当然に普通にロジカルに考えれば、ETFで暗号資産ETFができれば二〇%の分離課税と、こういう理解でいいか、お教えください。
107 並木稔発言URLを表示
○政府参考人(並木稔君) お答え申し上げます。 現行法令上、ETF、いわゆる上場投資信託の譲渡による所得につきましては、上場株式と同様、上場株式等の譲渡所得等として申告分離課税の対象となっているところでございます。そして、ただいま申し上げましたETFは、投資信託法に規定する投資信託又は外国投資信託に該当するものを指しているところでございます。 お尋ねの暗号資産ETFの場合はということでございますけれども、先ほど金融庁から御答弁があったとおり、現時点で暗号資産を投資信託法上の特定資産に追加することは考えていないということでありますことから、現段階において国税当局からその税法上の取扱いについてお答えすることは差し控えさせていただきたいと存じます。
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