中澤正行

Cinematographer 『「いつのまにか」の描き方: 映画技法の構造分析』http://amzn.to/34pHk5v 『映画の外に出るのではなく、映画の中で外に出るには: フレーム内フレーム論』https://amzn.to/2Ys03d0

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『関心領域』 (ジョナサン・グレイザー)

※作品の内容および結末など核心に触れる記述が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。 『関心領域』を観て、思い出された映画がいくつかありました。なぜそれらの映画が連想されたのか理由を考えながら『関心領域』について考察できればと思います。 小津安二郎の映画、例えば『小早川家の秋』まずルックですが、広角レンズが多用されています。最近ですと、例えばヨルゴス・ランティモスのそれが思い浮かびますが、同じ広角レンズでも使われ方が全く異なります。 監督本人が、スタンリー・キューブリ

    • ぼくは君たちを憎まないことにした

      ※作品の内容および結末など核心に触れる記述が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。 この映画の原作はアントワーヌ・レリスによる同名書籍ですが、ノンフィクションですからそのままでは映画になりようがありません。原作にはない描写が悉く見事で、脚色のお手本のような作品ではないかと思いました。 mise-en-abymeエレーヌ(カメリア・ジョルダーナ)は仕事の都合で、予定していたコルシカ島への家族旅行に行けなくなったと言います。アントワーヌ(ピエール・ドゥラドンシャン)は、

      • 『To Leslie トゥ・レスリー』 (マイケル・モリス)

        ※作品の内容および結末など核心に触れる記述が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。 レビューサイトを閲覧すると、よくある話でありがちな展開だけれども、レスリー演じるアンドレア・ライズボローが圧巻だった、という意味合いの感想を多く目にした気がします。 確かにその通りなのですが、彼女の演技だけでは、よくある展開のよくある話を助けることはできず、ひいては彼女の演技にもこれほどまでの評価は集まらなかったでしょう。 よくある展開のよくある話を語る、その語り口が、独創的だったとま

        • 『グランツーリスモ』 と 『裏窓』

          ※作品の内容および結末など核心に触れる記述が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。 ゲームにもカーレースにも興味がなく全く知識もないのですが、とにかくわかりやすい面白さとでも言いましょうか、とても面白かったです。 面白かったとしか言いようがない映画には、ただ面白かったとだけ言っておけばいいのでしょうが……でも、なぜ面白いのでしょう? この手のわかりやすい面白さほど、その理由がわかりにくいものはありません。面白さはわかりやすいのですが、なぜ面白いのかはわかりにくい。 と

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          『コンパートメントNo.6』(ユホ・クオスマネン)から成瀬巳喜男、そしてA・ヒッチコック

          ※作品の内容および結末など核心に触れる記述が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。 『めぐり逢い』同じコンパートメントに乗り合わせ、ずっといがみ合っていたラウラ(セイディ・ハーラ)とリョーハ(ユーリー・ボリソフ)ですが、途中下車してリョーハの知り合いの老婦人を訪ねると、二人の距離がグッと近づきます。 あぁ、これは豪華客船を寝台列車に変えた『めぐり逢い』(レオ・マッケリー)なんだ、と思ったのですが、そこから先は、たとえ『めぐり逢い』のエンパイアステートビルが『コンパート

          『コンパートメントNo.6』(ユホ・クオスマネン)から成瀬巳喜男、そしてA・ヒッチコック

          『RRR』のRube Goldberg machine的な面白さ

          御都合主義御都合主義というのは、多くの場合、否定的な意味で言われます。 「そんなアホな。ふざけるな、いい加減にしろ」というわけです。 ですが、ときとしてそれが 「そんなアホな。いいぞ、もっとやれ」となることがあります。 『RRR』(S・S・ラージャマウリ)の御都合主義は、まさに後者に当たるわけですが、はたして一体なにが御都合主義を肯定的なものにするのでしょうか。 その秘密を「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」を手がかりにして考察していきたいと思います。 Rube Goldbe

          『RRR』のRube Goldberg machine的な面白さ

          順撮り神話 『ペパーミント・キャンディー』をめぐって

          『世界は時間でできている』(平井靖史)を読んでいて「おや、これは……」と『ペパーミント・キャンディー』(1999 イ・チャンドン)が思い出されました。 今回は『世界は時間でできている』を参照しつつ『ペパーミント・キャンディー』と「順撮り」という撮影手段について考察してみようと思います。 順撮り「順撮り」で検索をかけると、例えば次のような語義を見つけることができます。 [補説]にある「俳優が役作りをするのに有効だとしてこの手法をとることがある」というところがポイントで、「経

          順撮り神話 『ペパーミント・キャンディー』をめぐって

          『愛する人に伝える言葉』(エマニュエル・ベルコ)パターナリズムとインフォームドコンセント

           シンプルなストーリーでありながら見事な構成で、終始感動しきりでした。たとえ語り尽くされたかのように思われるストーリーであっても、構成次第でその滋味は汲み尽くせぬものになる好個の例かと思い、無粋を承知で考察してみたいと思います。 ※作品の内容および結末など核心に触れる記述が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。  物語は、主人公バンジャマン(ブノワ・マジメル)が自らの死を徐々に受け入れていく過程を描いているので、紆余曲折はあっても、それ自体、単線的でシンプルです。そ

          『愛する人に伝える言葉』(エマニュエル・ベルコ)パターナリズムとインフォームドコンセント

          『PLAN75』(早川千絵監督)結末の考察

          『PLAN75』(早川千絵監督)が素晴らしく、ツイートを連投したもののやはり言い足りなく思い、結末にフォーカスして考察してみます。 ※作品の内容および結末など核心に触れる記述が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。 ラスト、岡部ヒロム(磯村勇斗)は、叔父を救おうと行動し、ミチ(倍賞千恵子)は処理施設から脱出します。これを早川千絵監督は次のように述べています。 監督自身は「希望、変化しえる可能性みたいなもの」としてラストを描いたようですし、その通りだとは思うのですが

          『PLAN75』(早川千絵監督)結末の考察

          『カンウォンドのチカラ』からのホン・サンス論

           前回、現時点でホン・サンスの劇場公開最新作『逃げた女』と『あなた自身とあなたのこと』を採り上げました。今回はその『逃げた女』の公開記念として特集上映されている2作目の『カンウォンドのチカラ』について考察し、そこからホン・サンス論へと展開していきたいと思います。 ※作品の内容および結末など核心に触れる記述が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。  原作のある1作目の『豚が井戸に落ちた日』よりも、オリジナルの2作目である『カンウォンドのチカラ』が、ホン・サンスの実質的

          『カンウォンドのチカラ』からのホン・サンス論

          ホン・サンスの『逃げた女』と『あなた自身とあなたのこと』

           今回は、ホン・サンスの新作『逃げた女』(2020)を『あなた自身とあなたのこと』(2016)と比較して考察してみたいと思います。 ※作品の内容および結末など核心に触れる記述が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。 『逃げた女』 映画は大まかに3つのパートに分かれています。主人公ガミ(キム・ミニ)が、3人(うち1人は偶然を装って?)の女性の元を訪れるのですが、その都度、登場しない夫との良好な仲を同じセリフで繰り返します。  その執拗な反復から、タイトルにもあるように

          ホン・サンスの『逃げた女』と『あなた自身とあなたのこと』

          『ファーザー』(フロリアン・ゼレール)〜映画を見ることと認知症

          ※作品の内容および結末など核心に触れる記述が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。 アンソニー視点本作は認知症についてのストーリーですが、観客には自分事として見てほしいんです。 認知症の症状の一部を自分で経験しているような立場でね  監督のインタビューにもあるように、観客に認知症の症状を追体験してもらうことが目指された映画です。それができるのは、認知症を患う主人公アンソニー(アンソニー・ホプキンス)の視点で物語られているからと言われています。  もちろんその通りなの

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          『街の上で』(今泉力哉監督)〜アウェイ、そしてホーム

           傑作『街の上で』を語る上で欠かすことのできない青(若葉竜也)とイハ(中田青渚)の長い会話シーン。そのシーンが、なぜここまで魅力的なのかについて考察してみたいと思います。 他の監督には撮れないもの ──本当に日常の一コマを切り取ったような感じだったので、僕はあのシーンが好きなんです。 今泉「自分でも、あのシーンがあることが、他の監督には撮れないものが撮れたっていう印の一つになっています。あと、すごいと思うのは、アドリブがないと言いつつ、二人のやりとりの中で、笑いというか、

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          『嵐が丘』全映画比較

           昨年末の記事で、過去に映画化されたルイーザ・メイ・オルコット の『若草物語』を、そこで描かれる窓に注目して比較考察しました。今回は、同じ要領でエミリー・ブロンテ『嵐が丘』の映画化作品(以下7作品)を採り上げてみようと思います。 1939年 ウィリアム・ワイラー版 1953年 ルイス・ブニュエル版 1970年 ロバート・フュースト版 1986年 ジャック・リヴェット版 1988年 吉田喜重版 1992年 ピーター・コズミンスキー版 2011年 アンドレア・アーノルド版  

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          ウディ・アレンと撮影監督〜カルロ・ディ・パルマ礼讃

           映画監督と撮影監督との関係とはどのようなものでしょうか。撮影監督の職域はどこまで及ぶのでしょうか。  今回は、映画監督として50年以上のキャリアを誇るウディ・アレンを支えてきた錚々たる顔ぶれの撮影監督を比較考察してみようと思います。 芸能人格付けチェック その前に、そもそも撮影監督の比較などできるのでしょうか。 『芸能人格付けチェック』というバラエティ番組があります。もうなくなりましたが、以前は「演出」という出題がありました。同じ脚本、同じセット、同じキャスト、同じスタッ

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          『パラサイト 半地下の家族』モノクロ版の是非

          『パラサイト 半地下の家族』が傑作であるのは論を俟たないとして、ここでは、そのモノクロ版の是非を問いたいと思います。 Teal&Orange 被写体を背景から際立たせるテクニックの一つにTeal&Orangeがあります。このTealとは鴨の羽色、青緑色で、Orangeは、人間の肌色を指します。TealとOrangeはお互いに補色(反対色)の関係にあって、下図のように色相環上では正反対に配置されます。  補色同士の組み合わせは、互いの色を引き立て合う効果があるとされてるので

          『パラサイト 半地下の家族』モノクロ版の是非