【映画】『aftersun/アフターサン』について語る時に考えたこと
ポッドキャストで5/26に公開された『aftersun/アフターサン』について語るエピソードを公開したのですが、今回のこの作品は本当に語り切れない、底なし沼のようにエモーショナルな作品だったので、ちょっと語っていても言いたいことが伝わる気がしなかったので😂、一覧性の高いテキストで眺めれば、もう少し伝わりやすい、もしくは、何かを誘発しやすくなるのではないかという一縷の望みをかけて語り始める前の準備として用意したメモを貼っておきます。
二度、三度と繰り返し観直す方が結構多い作品ではないかと思いますので、劇場にまた足を運ぶ前のウォーミングアップなどにどうぞ。または、この記事を見てちょっと興味を持たれた方は、SpotifyやApple Podcastsでエピソードも、お聴きになってみてはいかがでしょうか。
ちなみに本編収録時はこのメモを見ながら喋っていて、特に原稿のようなものは用意していませんが、噛んだ時や、話しながらどこにも着地できず空中分解してしまった時には録り直しをしています。今回は「仲睦まじく」という言葉がなぜかどうしてもちゃんと言えなくなって、そこで5回以上録り直しをしています(どうでもいい)。
『aftersun/アフターサン』収録準備メモ
前半のトーキングポイント
作品概要
シャーロット・ウェルズ監督の長編デビュー作、脚本もウェルズ本人
11歳の少女ソフィーと、その若き父親カラムのひと夏の思い出を「振り返る」
ソフィーが見ていたその夏「最高の夏休み」とは違う夏がそこにある
すごく分からない作品。分からないままに分かる。他者と本質的に断絶した根源的な孤独の話
空と水の青
撮影
撮影監督:グレゴリー・オーク
35mmフィルムとmini DVカメラ→2Kスキャン、一部4Kスキャン
ローファイなヴァイブス
音
90年代のサウンドトラック
Road Rage
Losing my religion
Under Pressure
人の寝息を聞いた記憶
プールの音
波の音
キャスト
カラム役ポール・メスカル
アカデミー主演男優賞ノミネート
メランコリックな微笑、憂いの影
ソフィー役フランキー・コリオ
2010年生まれ、映画出演は初めて
あどけない喋り方があざとい
巧い演技というより、自然な表情と立ち居振る舞い
One Bite Cinema
カンヌ国際映画祭の話
是枝裕和監督の『怪物』で坂元裕二が脚本賞
『花束みたいな恋をした』のあの坂元裕
怪物は6/2公開
ヴィム・ヴェンダース監督の『Perfect Days』で役所広司が主演男優賞
公衆トイレの清掃員の話
『怪物』は独立賞の一つ「クィア・パルム」も受賞
後半のトーキングポイント
父親カラムの痛み
冒頭で、11の時何になろうと思ってた? → 答えない、逆光に沈む顔
具体的には分からない。語られない痛み
「40なんて想像できない、30になれるとも思っていなかった」
過去の傷、危うさ
骨折の原因を覚えていない
夜、一人海に入っていくカラム
肩の怪我
それを残されたビデオからたどろうとするソフィーの想いにシンクロしていく視聴体験
父の痛みをたどろうとしているソフィー自身の痛みも、分からない
何気ないソフィーの言葉や気遣い、心配りを、父はどう受け止めていたのか
どうしてママに愛してると言うのか
パパとママが結婚するんだと思って興奮してた
素敵な1日の後に疲れて、沈むことがない?
11歳の時の誕生日はどうだった?
高価なゴーグルを落としてしまったことを謝る娘
スコットランドに戻らないの?→お前はなりたいものになれ、行きたい所に行け
お金もないのにできもしないことを言わないで
父の真似をする娘
クレオパトラの話、「自殺」や「死」と言う言葉を避けた父、無頓着に「自殺」と口にする娘
誕生日のサプライズソング「あなたはいい人」の歌。遠くからそれを聞く、逆光の中の父→咽び泣く一人きりの父
ソフィーを守ろうとする想い。護身術を教えるシークエンスの最後の言葉「でも他の方法で襲われたらどうするの?」そこに答えはない
与えたいものを与えることができない父親
タバコの害の話、ソフィーも一言一句、そらで言えるほど覚えている
ドラッグでも何でもいい、でもやるなら話してくれと言う父、そんなことしないと言う娘、念押しする父、黙る娘
音楽の詩情
ソフィーがステージで歌う歌
Losing My Religion (R.E.M.)→アメリカの慣用句で必ずしも信仰とは関係ない。心の中にある基盤のような確かなものが揺らぐこと
愛しても愛されないことの絶望感の歌
娘がそんな歌を歌うのを、客席で聴く、一緒にステージに上がることを拒んだ父親
Under Pressure
プレッシャーに押し潰されそうな人々
「もう一度チャンスを」「愛にチャンスを」
「これが最後のダンス」「これがわたしたち」
そこに物語はある、でもその物語は語られない。「ペルシャ絨毯」の話
娘に残される「語られない物語」
青は「真実」「孤独」「死後の世界」
ポラロイドに絵が定着していく中の会話。「最高の夏休みだった」「どうしてこのままここにとどまれないの?」思い出が固着する
アフターサンとは
日に焼けた後に肌に潤いを戻すためのローション。劇中でも何度か登場する
「肌に染み込む」ということ
Intimacy
肌の感覚
太陽の光の後を追って染み込んでいく冷たい液体
自分が見たもの、父が見たもの、娘が見たもの。撮られていたビデオをその都度、見直していた父、20年後に改めて見直す娘。その時、父が見つめていたもの、娘の目に映っていたもの、その時は見えなかったものが襲いかかる。20年後に見直した娘は何を探していたのか。
答えは覚えているものの中にはない。
思い出というもの。人は「何が残るか」を選べない。たまたま残ったものから現実を選んでいくしかない。