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リアリティドラマ シーンイメージ〜「日本初女性首相インタビュー その誕生経緯②」(ドラフト)

「対立軸」と対立の回避

「ピリカさん、選挙はやっぱり戦いだとお思いになります?」

「そうですね、一般的には。選挙戦と言いますし、結局は勝ち負けですから。総理はどうお考えですか?」

「残念だけど、そうね。有権者の皆さんがそう思ってらっしゃる以上。なので選対としては”対立軸”を打ち出すことにしたわけです」

「総理は戦いはお好きではないと伺っていますが、選挙対策本部とは対立があったんでしょうか?」

「お聞きのとおり、私個人は”対立”というのは好きじゃないわ。そこは日本人のメンタリティね」

ステファニーは肩をすくめて笑う。

「だから、でしょうけど、選対とも別に”対立”はしなかったわ。むしろ私たちの政党では”対立は不毛”だと殆どの人が思ってるわ。だから”対立軸”はあくまで戦略としてよ。少なくとも選挙は勝ち負けですものね」

選挙対策本部は連立与党3党で合同だったようだ。選挙よりすっと前、というか前回2021年の衆院選後から政権交代を目指して選挙協力をしていたという。

「思うに戦いって、もう古い世界観なんじゃないかしら。たしかに歴史的な合理性はあったわ。でももう21世紀よ。古代では普通だったでしょう、戦いは。バーバリアンが攻めてきたら話し合いじゃ済みませんからね。『サピエンス全史』ご存知?」

「はい。ユヴァル・ノア・ハラリ氏のですね」

「あの中で人類の三つの問題として”飢餓”、”疫病”に並べて、”戦争”を挙げてるでしょ。あれってどう思われます?」

「え・・・そうですね。”飢餓”、”疫病”はいづれも人類を脅かし絶滅の脅威になる災厄ですけど、”戦争”となると、相手も人類ですからね。ちょっと違和感があるように思いますね」

「そうよね、同感。相手が言葉の通じないバーバリアンなら、それって”自然災害”みたいなものじゃない?狼の大群が襲ってくるのを”戦争”って言わないわよね」

人類の問題に”自然災害”がないのは、たしかに自分もいささか腑に落ちないところはあった。とりわけ自然災害大国の日本人としては。むしろ”飢餓”、”疫病”、”自然災害”とくればしっくりくる。

「戦争って、思うに、”ゲーム”じゃありません?命をかけた」

「かもしれませんね。”ルール”がありますからね」

「でしょ?ちゃんと話し合いができるってことじゃない。おかしいと思わない?殺し合いにルールなんて。だったら”殺さない”っていうルールにしたらいいのにって。サッカーとかイマドキならe-Sportsで決着させるとか」

実際戦闘がスポーツに形を変えた例も少なくない。文明化すれば誰しも殺し合いは避けたくなるのが”本能”なのかもしれない。というかそれが人類の進歩なのだろうか。

「なにか物事を決める時に、”戦い”という発想。21世紀になってもこれってどうしようもないのかしら。どうお思いになります?ピリカさん」

「どちらか決めるのに、どうしても”戦い”にならざるを得ないのではないでしょうか。他に手立てはあるとお考えですか?」

「私たちも討論番組にいくつか出させていただきましたけど、ピリカさんご覧になりました?」

「はい。拝見しました。そういえば何かアプローチが全然違う印象だったように思います。他の参加者のように・・なんというか・・討論にどっぷり参加されているとは言えないように見受けられましたが、あれも戦略のひとつですか?」

「はい。論争に巻き込まれないようにするセルフコントロール、あれ結構私たち議員は相当トレーニングしてるんです。学術論争なら論理的正当性がルールですけど、”政治的な論争”って、”力”じゃない?」

「たしかに現状はそうかもしれませんね。”正しいかどうか”より、声が大きい人や弁舌な巧みな人の勝ちかもしれません」

「それってどうしても私たち女性や若者、社会的弱者には不利だと思うんです。やはりオジサマガタに凄まれるとシュンとなっちゃいますよね」

「総理もなんですか?」

「私は普段からスパーリングで鍛えてますからね。でも今でもたま〜に”女のくせ”にという批判を耳にしたりもしますよ。誰とは言いませんがね(笑)。私たちの党は女性が8割ですけど、女性が強弁するとどうしてもまだヒステリックと見られがちです。かといってクールに語るだけではやっぱり迫力に欠けますし」

「しかし政治闘争は利益の奪い合いです。やはり相手をねじ伏せなければならないのではないですか?」

「その利益が、”誰にとって”の、なのかよね。政治家というのは誰かの利害の代弁者です。一般的に。しかしそれが誰なのか国民にはちょっと見えにくくないですか?特にこの国では」

「そうですね。知ってる人は知っていますが、あまり表沙汰にしませんね。どちらかと言うと、黒幕みたいな闇のようなものと感じる人が多いように思われます」

「日本人は自分の利害でさえ主張しない国民性ですものね。おそらく政治家自身も明確に誰の代弁者だとはあまり認識されていない方も多いように見えます。連合や農協、医師会とかありますけど、どの組織がどの政党の支持というのが明確ではないところがありません?はっきりしてるのは公明党さんの創価学会さんですね」

「貴党には支持母体はおありですか?」

「支持母体というか政党の前身となる活動はあります。シビックガバナンスのためのオープンシステムを開発普及するプロジェクトです。その際にいくつかのスタートアップと協力しました。ただ彼らは圧力団体でも票田でもないです。今は私たちが彼らのサービスのユーザーです。」

「ああいう風に論争に参加されないというのに対して、批判もあるようですが。逃げてるとか、主義主張はないのかというような。それについてはいかがですか?」

「はい。結構承りましたね。それは想定内でした。実際私たちには厳密に言えば党としての自前の政策はありませんから。私たちの党は器であり議員はシステムの一部です。あくまで有権者による決議の代弁者です」

画面にウェブサイトが表示された。

「この《オープンポリシーメイカー》が私たちが政策議決で利用してるサービスですけど、その時点で党議として決定している政策は、ここで決定されたアジェンダです」

《オープンポリシーメイカー》
政策を議決する民間のオンライン投票システム。ブロックチェーン技術をベースにして作られている。投票結果は数値として常に参照できる。
なおこれは《TrueDemocracy》社が開発運用している。

「討論のアジェンダが議決済みであれば、私たち議員はそれを推進する立場を取ります」

「もしその党議と議員ご自身のお考えが異なってもですか?」

「はい。自分のポリシーは無関係です。それが私たちの党の議員の役目ですから。党議を実現することです。いうなれば会社の営業マンみたいなものです。逆にある意味気が楽ですし、自信を持って政策を訴えることができます。根拠は盤石ですから。この有権者投票の結果であるという何よりも明確な根拠に裏打ちされています。よく議員の皆さんは国民の声を聞いてとか国民世論はとかおっしゃるでしょ?あれって根拠はなんなんでしょう。ピリカさん、そういう世論調査みたいの受けたことおありになります?」

「いえ・・・ありません。知り合いにも、聞いたことはないです」

「意地悪く勘ぐると、自分たちの都合のいい人にだけ聞いてるんじゃないかとか思っちゃうわよね(笑)」

「しかし一方でポピュリズムという批判もあります。センセーショナルな情報に感情的に惑わされて、必ずしも国民は正しい選択をするとは限らないと言われていますが、総理はそう思われませんか?」

「国民を信じるのが、私たちの党の基本理念です。私たちも同じく国民の一人ということでもありますが、より正しい判断ができるように心がけているのはファクトフルネスです。私たちが利用しているのはこの《GYOKUSEKI》ですが、ここでファクトをチェックするようにしています」

《GYOKUSEKI》
ファクトフルネスをコンセプトにしたデータサイト。
巷で様々な対立見解があるイシューについて、ありとあらゆる言説がパラレルにすべて網羅される。正論から、噂、陰謀、疑似科学ただの勘違いまで、ネットやメディアで流れるものをすべてファクトに紐付けていくつかのパラメータでレーティングしてリストする。ただし真偽などの評価付けはしない。
なおこれは《キッズジャーナル》からのスピンアウトプロジェクト。

「”民主”とは、民が責任を持つ、という風に誰かが言ってました。直接制でもし国民が間違うなら、被害は国民自らに及びます。いわば自業自得なので多少は諦めもつくでしょう。これまでは政治家が間違えても、やっぱり被害は国民に及びますよね。もちろん国民にはその政治家を選んだという責任はありますが、納得感、ありました?」

「そうですね。政治家に対しては非難轟々ですが、結局政治家はどこ吹く風みたいな感じで何かやりきれない気持ちがありましたね」

「正直でいらっしゃいますね(笑)。古代社会のようにごく僅かな賢人とその他大勢の無知蒙昧な愚民という構図なら、”黙ってオレについて来い”が通用しましたけど、今の日本、賢人が大勢いらっしゃるんです。若い人ほど物知りで賢い。そう育てられてますものね。だから代議制民主政治が機能不全になってきている。オレにも言わせろという一般市民がどんどん多くなって、ネットがそれを増長させています。決めるためのシステムが時代遅れになってきてる。それが私たちの見解です。そういう声は20年も前からありましたけど」

「ではそもそもその党議となっている政策自体が正しいという根拠はどのように担保されてるのでしょうか?」

「政策案の内容についてはこの《百家》でいつでも参照できます」

《百家》
専門家が論理的に設計記述した政策プランが列挙されている。ひと目でわかるインフォグラムスタイルからすぐに執行できる法律を含む詳細まで、可能なすべての政策が並べられている。また政策に対するコメントも整理され体系化される。
実現可能性や整合性などいくつかのパラメータでレーティングされている。
なおこれは《キッズジャーナル》からのスピンアウトプロジェクト。

「アジェンダごとに考えうるすべての政策が並べられていると思います。おそらく政策論争に参加される方々がお考えになってる政策は網羅されているんじゃないかしら。政策についてはここを案内するに止め、私たちはそれ以上敢えて主張することはありません」

「ざっとみる限り異端といわれそうな提案はないように見られます。」

「これらのプランを検証するためのひとつのシステムとして《Let's Sim》があります。」

《Let's Sim》
政策などプランや戦争や災害など予測される状況などをゲストユーザーが自由にシミュレーションするサイト。もしそのプランが実行されたら、その予測が現実になったらどのような状況になるか、どんな問題が発生するかを想像力を駆使して自由に投稿し、それをタイムラインマップ形式で参照できる。
なおこれは《キッズジャーナル》からのスピンアウトプロジェクト。

「ここで政策が実行されたら何が起きるかユーザーみんなでシミュレーションするんです。日本人のイマジネーションはすごいですよ」

「議決されているアジェンダについてはわかりましたが、まだ議決されていないアジェンダについては、どのようにされていますか?」

「議決がまだであれば、当然党としてはモラトリアムです」

「議員個人としての意向も主張されないんですか?」

「あくまでそういう役目ですから。公人としては。よく挑発は受けますけど。特にジャーナリストさんからは。ピリカさんはちょっと違うかしら」

ステファニーはそういっておちゃめな感じで首を傾げる。

「そこは私たちはトレーニングしてますよ。そういう議論を挑まれたような時には《GYOKUSEKI》で私たちも一緒にファクトをチェックしたり、《百家》であり得る政策を概観します。よく討論番組をご覧になっていて、議論が噛み合ってないことって多くありません?」

「はい。正直そういうことが多々あります。みんなマウントをとることに必死なように見えます」

「そうよね。論点はなにか、特に最終的に何を決めようとしているのかが共有されてないように思えます。ですから私たちは国民の皆さんに対して情報提供して議論を整理することに努めます。あと議員さんの中には、”こういう問題があるがこうすべき”、みたいな言い方をされる方がいらっしゃいますよね。あれってどう思われます?」

「ちょっと評論家みたいな物言いだなと思ったりしますね」

「そうね。あと”Aという政策もあるがBという政策もあり、慎重に議論せねばならない”みたいな」

「結構いらっしゃいますね」

「なんかおかしいですよね?それを決めるのが立法府たる議員のはずです。これまでの代議制民主主義はひとつの政治的ポリシーを持って政策を決断する議員を選出して立法府へ送り込む仕組みでした。でもいつしかそれがまともに機能していない。だから私たちが選ばれたのだと思うんです」

代議制は現代に於いて民主主義体制のひとつの証明のようなものだ。しかし現実には、共産党一党支配の中国も、事実上の独裁だったロシアも、”代議士”が国民の代表として存在する。それに代わる体制は可能なのだろうか。

「ピリカさん。今国民が政治に関わる手段って、何があるでしょう」

「第一に選挙、あとはデモや署名でしょうか。政治家との討論の場などもたまにあります」

「選挙はプロトコルが明確ですからね。デモとか署名、政治家とのコミュニケーションとなると、どうやったらいいか、どのくらいの皆さんがご存知でしょうね」

「私も実際いろいろ取材していますが、デモ、署名、タウンミーティングなど日本では参加される方は決して多くはないですし、限定的だと思います」

「知っててもかなりパワーがないとできませんし、どのくらい効果ってあるでしょう」

「そうですね。あとパブコメというのもありますが、どれだけエスカレーションされているか実証的なデータはありません」

「じゃ選挙、みなさんはどうやってお選びになってるでしょう」

「その人の主張を聞いてよりマシな人だとか消去法だとかでしょうか」

「それならまだマシかもしれませんね」

「国民は何も熟慮することなく投票していると総理はお考えなのですか?」

「たとえ熟慮したとしても、選択肢は極めて限られています。言うなれば幕の内定食のAとBしかないんですから。好きなおかずはAにもBにもあるし、嫌いなのもそれぞれにあるとしたらどうしたらいいでしょう。どっちがまだマシかで選ぶしかないですよね。本当に真剣になればなるほど選べないんじゃないかしら?日本人って生真面目ですから。しかも何年かに一度。その間何か自分が関心のある問題が起きても次までは実質何もできません。それにあまり大きな声では言えませんが、言ってること本気なの?とか、できるの?どうやってやるの?とか、疑いだしたら切りありません。実際当選しても何もしない議員も多いような気もしますし。この《議員ウォッチャー》で見られてますが、さてどうでしょう」

《議員ウォッチャー》
各議員の政治活動をモニターするサイト。議員ごとに政治活動をインフォグラムでビジュアライズしています。特に肝心な立法活動への参画状況を詳細に閲覧することもできる。
なおこれは《キッズジャーナル》からのスピンアウトプロジェクト。

「今国会からネット接続スマホ持ち込みを全面解禁します。傍聴者もです。ライブ中継を自由にできるようになります。うちでも各議員が中継します。国民の皆さんが注視する中の緊張感のある議事になりますね」

「よく通りましたね」

「ご想像のとおり委員会では荒れましたよ。でも反対を正当化できる理由は結局突き詰めればなにもないんです。意向は全部《議員ウォッチャー》でオープンになります。国民はどう思うでしょう。もともと野党は解禁を主張していましたし、あとは数で決着させました。心配は、メールとか関係のないサイトを見たりとか操作音とかなんて、まるで子どもの躾ですよね。私たちママさん議員としてはちょっと失笑です。こう言っちゃ悪いですけど、まるで大きな坊やたちです。そんなところも国民の皆さんにもっと見てもらわないと。・・・あら、ここはカットね」

ステファニーは両手でチョキをする。

「あの・・・これはライブ中継されているのでは・・・」

少し躊躇いながら確認をする。

「あら、そうだったわ(笑)。サトル、あなたでもハッキングしてカットできたりしないのよね?」

ステファニーは他の誰かと話をしてるようだ。

「あ、ごめんなさい。サトルくんっていうのは、うちの凄腕ハッカーなの。彼にも無理ですって」

どうやらこのインタビューにもバックスタッフがいるらしい。

「Thank you、サトル」

ステファニーは視線を落として言ったあと再び向き直す。

「ね、ピリカさん、私たち女性に参政権が認められたのはいつかご存知ですよね?」

「戦後ですね」

「たったの70年前よ?信じられます?そして現代社会は複雑多様でアジェンダも山盛り。でも物理的に国民全員の意向を聞くのは無理・・・だったんですよね。これまでは。でもそれが今できるようになったんです。普通に。ネットとスマホでね」

「しかしセキュリティが心配されていますが、その点はいかがですか?」

「今ネットで一般消費者は20兆円買ってます。大事なお金を20兆円も見も知らない誰かに渡してるんです。みんな信用してますよね。誰をではなく”システム”を。私たちは国民の皆さんとシステムを利用しています。そのシステムは第三者が運用しているものですから、私たちが恣意的に操作できるものではありません」

《GYOKUSEKI》でファクトを整理して、《百家》で政策をラインナップし、《Let's Sim》で政策をシミュレーションして検証し、《オープンポリシーメイカー》で国民が決定する。これらはまだ一部だという。

「その上で、私たちはこう国民の皆さんに問いかけました。”みんなで政策を作りましょう。あなた自身で直接参加できます”と。それが響いたんじゃないでしょうか」

「私たちの打ち出した対立軸は、”間接制か直接制か”でした。ただ私たちは別に直接民主制を目指してるわけではないんです。国民が主体的に政治に関われるようにしたいんです。『シビックガバナンス』です。そのための選択肢を作ろうとしています」

『シビックガバナンス』
真の意味の人民による政府。
自分にとって重要な法案には直接投票でき、それ以外は自分が信頼する他の人に委任できる直接制と間接制を併せ持った仕組み。

「ただこれらが他の党同様に、全部”絵に描いた餅”なら、きっと誰も選んではくれなかったでしょうね。誰も見たことのない世界なんですから」


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