
とある伝説の終焉〜BanG Dream! Ave Mujica7話感想〜
そうか、これをここでやりたかったのか
久々にバンドリアニメがバンドリアニメしていて不思議な感覚だ
物事が流れる様に一つ所に落ち着いていく展開
それは自然な様でいて自然では無い
大いなる意思によって導かれたその様な物語を、人は伝説として認めてしまうのだろう
*2025.02.16 03:00都電の考察について殆ど削除修正
思い違いをしていた
1)羽丘校門前乱闘事件
冒頭から全開のそよ
睦のことを「知らない」と言った祥子に対して怒りを露わにし、その手を掴み、勢い余って押し倒してしまう様な実力行使にでる
しかし、それらのそよの行動は祥子に対する恨みといった黒い感情では無い
その全ては睦の為、ひいては祥子の為
この二人が残酷な状態に置かれているその運命にこそ怒りをぶつけているかの様だ
前作MyGOにおいて、そよは祥子から「自分のことばかり」と言われて黒い感情に囚われた
しかし、そんなそよはどんなに他人を傷付けるようなことを言っても結局は何も出来なかった
それは、心の中にあるそんな黒い感情が、自分勝手で弱い自分の現れであることを内心では感じていたからだろう
しかし、今のそよは違う
祥子と睦を助けたい
そよの内にある慈愛=ままみが彼女を動かしている
その手本にしているのは、かつて自分の手を取った燈の強引さでもあっただろう
人よりも発育の良いそよが、そのままみを力にしてがんぜない子供の様になっている祥子の手を取れば、逆らうことなど出来ないだろう
祥子は自分が睦を壊したから会えないと言う
しかし、それは光の様な存在であろうとしていた祥子の誰にも迷惑をかけたくないという思いであると同時に、そんなプライドに縋る逃げの感情でもある
そよは祥子の現状を全て承知していることを伝え、その上で睦が会いたがっていることを伝える
ここまで言われてしまえば何も抵抗できない
祥子は母に連れられた子の様に、そよに従うしかなくなるのだった
2)光が呼び寄せる元メンバー達
そんな祥子を連れたそよを愛音が見つける
見つけた場所は都電荒川線の学習院下駅であり、愛音は早稲田行きから降りてきた様なのだが、燈に電車の中から声をかけるのは鬼子母神前駅であり進行方向も逆である
都電を降りてきた愛音は偶然そよと祥子を見つけ、その二人についていって通学方向と逆方向の都電に乗り込み、偶然ちょうど踏切で待っている燈を見つけたので、燈もそのまま乗り込むことが出来た
そんな愛音が中心となって引き起こした偶然が重なって、元CRYCHICメンバーが集結していくことになる
3)何が青の魔女を動かしたのか
そよと祥子、そして愛音と燈の四人は睦に対面する
しかし、睦は別人格モーティスのままだった
モーティスは祥子から睦を守る為に荒れ狂う
祥子に物を投げ付け「人で無し」と罵る
取り付く島もなく「帰れ」と言われて、素直に帰らざるを得ない四人
しかしここで愛音が一つのことに気が付く
あのモーティスの台詞は森みなみのドラマの台詞だと
モーティスは演技をする人形として睦の身体を操っている
しかし、その原動力は人形モーティスとして主人格の睦を守りたいという別人格の感情でもあるだろう
「人で無し」と言われた祥子は「人間になりたい」という燈の言葉を思い出して、燈の悲しみと自分を重ね合わせて皆の前で泣くのだった
そして、自宅に帰った祥子は集めて残しておいた燈の付箋を見返す
燈は自分に対して何をしてくれていたか
燈はどんなに助けを拒否しても、自分に対して手を差し伸べてくれていた
ならば、自分のやることも一つだけ
祥子はこの付箋を見つめながら、どんなに拒否されようとも睦に対して手を差し伸べ続けることを決心したのだろう
こうして祥子は燈の言葉で決意を得た
この決意を持って、ある意味祥子と睦の間の心の問題は解決したと言えるだよう
後は、睦の心の表層を支配しているモーティスの警戒心を解くだけとなった
4)最後のメンバー
祥子は睦に会って謝りたい
睦も祥子に会ってAveMujicaを壊したこと、CRYCHICを壊したことを謝りたい
しかし、睦が心の中で作り出した外界への恐れの象徴であり、睦の守護者となった人形モーティスがそれを許さない
モーティスは睦の身体を支配し、睦の家に毎日やってくる祥子を拒否し、そよに対してもメールで祥子を止めるよう要求する
愛音はそよに睦宅に向かうよう勧めるが、今行くべきは既に祥子を動かした所までした自分では無いと感じてる
MyGOが出演する定期ライブの前日、練習に集中しないそよに対して苦言した立希は、祥子が泣き、睦に百度参りをしていることを聞かされる
ライブの当日、立希は睦に釘を刺すと言いつつ睦の家にやってくる
これは睦の家に行く口実であり、実際には祥子に会いたかったのだろう
立希は不器用ながらも祥子に今迄のきつい言動を誤る
そしてそこにそよもやって来る
そよは不恰好なきゅうりを手にしていた
それは睦が居なくなっても園芸部の花壇でなんとか実った物なのだろう
その睦が手をかけなければ不恰好になってしまうきゅうり達の為にも、元に戻って欲しいというメッセージでもある
元CRYCHICメンバーの三人が睦宅の前に揃った所で、若葉家のお手伝いさんから中に入るよう声がかかる
固辞していた祥子をよそに立希は即座にその言葉を受け入れて三人は若葉家内に入る
久し振りに揃った旧メンバーの三人は少しずつ心を開き始め、睦の事も話し始める
CRYCHIC解散の際、何故睦は「楽しいと思った事無い」などと言ったのか
立希はその疑問を祥子にぶつける
祥子は、睦がギターを歌わせられない自分を不甲斐なく思うだけで、CRYCHICのことは大切に思っていることを知っていた
睦の事を誰よりも理解している祥子のその言葉を、睦の部屋の中のモーティスも聞いていた
モーティスにはこれ以上祥子を拒否する理由は無い
扉を開くと三人を招き入れる
この扉を開くのは、CRYCHICの事を大切に思っていて祥子に遠慮なく物を言える、立希の存在が必要だったのだ
5)導きとなる勘違い
祥子と睦は互いに謝り、睦はその場にいたそよと立希にも謝る
今日はMyGOの定期ライブ出演の日
既に練習の開始時間を過ぎ、リハの時間さえ迫っていた
電話でその事を伝えて来る愛音
睦は燈にも謝りたいと言う
こうして、四人は揃ってRiNGに向かうことになる
RiNGに全員が揃い、睦は燈と会うが互いに見つめ合うだけだった
この二人は共に高い共感性を持っている
互いの雰囲気を感じ合うだけで、その言葉は不要なのだろう
そして、燈は祥子にノートを渡す
それはここ数日燈が熱心に書いていた物で、立希が新たなMyGOの歌詞だと勘違いしていたものだった
燈は祥子の言葉に触発されて、祥子を救う為に、祥子のことを想う歌詞を作っていたのだ
それは新たな「人間になりたいうた」
この歌詞は元々燈が自分自身の心の中の感情を文字にしただけの歌詞ですら無いものだった
それに曲を付けてCRYCHICの楽曲にしてくれたのが祥子だった
燈にとってこの曲は自分を光の世界であるバンドCRYCHICへ導いてくれた大切な曲
そしてその導き手である祥子が自分の言葉と心を重ねたことから、この曲こそを祥子の為に作り直す必要があると思ったのだろう
しかし、実際のところこれは少しおかしな勘違いから産まれている
燈は自分の感性が人と違う事に苦しみ、この「人間になりたい」と言う言葉を綴った
そして祥子は、その行いを「人で無し」と罵られて、「人間になりたい」と言う燈の思いと同じだと思った
この祥子の考えは、物を知らないお嬢様らしい「勘違い」と言っても良いだろう
燈の「人間になりたい」と祥子のそれとは全く違う物なのだ
それでも、燈は自分の言葉に自身の心を重ねて泣いた祥子の事を思い、真剣に歌詞を綴った
その歌詞は、正に祥子の実情をそのまま表しているかの様な歌詞でもあった
その歌詞を見て、そよはつい笑ってしまう
燈の、と言うよりも祥子の勘違いによりこんなにも感動的な歌が出来てしまう
それは奇跡の様であり、喜劇の様でもある
もしかしたら、そよはMyGOの名が付いたあのライブの時の燈とのやりとりを思い出していたかもしれない
バンドに復帰したそよは、燈に「バンドを想ってくれてありがとう」と言われ、つい目を逸らしてしむう
それは自分の今のバンドへの背信行為に対しては相応しく無いと思ったからだろう
しかし、燈にとってはそんなそよの深い想いこそが大切であり、それへの感謝だった
燈は誰よりも深く人の心の奥を感じとり、それを言葉として伝える
それが少し笑える様な勘違いであろうとも関係なく人の心を捉えてくれる
そよにはそれがとても嬉しくもあり、おかしくもあり、思わず笑ってしまったのだろう
そして、そんな笑いがそよと、そしてその場に居た立希に、ある一つの「気付き」を与えることになる
6)とある伝説の終焉
この場にはかつてのCRYCHICのメンバーが全員揃っている
そのメンバー達は一つの気付きに至ろうしている
そして、そんなメンバー達が思い至るよりも早く、この場にはその雰囲気を敏感に感じ取る者が居た
愛音は、CRYCHICに流れる雰囲気を感じ取ると、即座に睦にギターを渡し、CRYCHICのメンバー達にライブをするよう勧める
この場には、燈が作った新たな歌詞のCRYCHICの為の曲「人間になりたいうた」がある
それをMyGOのリハーサルの場を貸すからそこで演奏するよう勧めたのだ
RiNGのステージはMyGOのリハーサルのため、メンバーの他はスタッフしか居ない
スタッフの凛々子さんは、少女達の願いを何も聞かず無条件で受けたに違いない
それが少女達に必要な事ならば、どんな事であっても受け止めてくれる人だからだ
そんな人気の無いステージで、CRYCHICは「人間になりたいうた」を演奏し始める
そよや立希は演奏しながら過去を振り返る
そんな彼女達が何よりも大切に想い、自分達の運命とすら感じ、その為に何よりも深く傷付き、のたうち回る様な体験をしたバンドCRYCHIC
そのCRYCHICとは一体何だったのか
それは一つの「気付き」
運命を謳った発起人の祥子も、些細な勘違いで笑ってしまう様なことをしてしまう
自分達が運命と信じたそれも、ただ自分の心の中の苦しみや悲しみを転嫁するために生み出した幻想でしか無いのだろう
勿論、それが自分達にとってはかけがえの無い物であったことは間違い無い
それでも、それは運命や伝説などでは無く、極ありふれた、普通の少女である自分達の青春の一ページでしか無い、と言うことに気付かされたのだろう
共にその運命を信じた5人か再び揃い、共に音を合わせ、心を合わせ、かつての様にバンドをした事で、その想いは全メンバーの想いとなっていく
いや、もしかしたら燈だけは違う想いがあるかも知れない
燈は他のメンバーの気付きよりも、より深いところにいる
誰よりも深い所にいる燈は「分からない」と言いつつも、皆の悲しみを受けて普段は見せない涙を流し続ける
その皆の悲しみとは、バンドへの惜別の悲しみ、寂しさだろう
ここに、この5人が運命と信じたバンドCRYCHICはその幻想が解け、真の意味での解散の時を迎える
しかし、だからこそ、このままこの一曲ではCRYCHICは終われない
このCRYCHICのメンバーが揃ったのならば、あの曲をやらずには終われない
そして、思いもかけずにあの曲の演奏が始まる
それは、かつて思いもかけずに演奏されて、CRYCHIC の旧メンバーに最大の亀裂を与えた曲
しかし、今はそのメンバー達が揃い、その曲を心を合わせて演奏する
こうしてCRYCHICは、その曲「春日影」の演奏を持って、真の意味でその活動を終える
それは、ごく普通の少女達が運命と信じた、ごくありふれたバンドの、とても小さな伝説の終焉だった
7)それぞれの道へ
こうしてCRYCHICの解散ライブは終了したが、MyGOの活動はこれからも続く
愛音が睦からギターを受け取るとMyGOメンバーはリハに戻る
そよはCRYCHICの終焉の瞬間をカメラに収める
祥子は深々とステージに頭を下げてその場を後にする
睦はステージを降りる際、楽奈と見つめ合う
睦はライブをしている際も穏やかな笑顔を見せているが、その内心は表に出さない
彼女の心の中にいたモーティスは、今はもう居なくなっているのだろうか
恐らく、睦の中にはまだモーティスが居て、楽奈はそれを感じ取っているのだろう
モーティスは本来主人格の睦が心の中で生み出した人形であり、その本質は睦そのものだ
深い悲しみから心の同一性が保てなくなり人格が乖離したものの、その心の傷が癒えれば本来の睦の人格に統合されていく存在と言える
しかし、それは消えるのでは無く本来の睦の中に戻るだけ
睦はその天性の女優の才能から確固たる人格のモーティスを生み出した様に、そのモーティスを己の中に統合しても、そのモーティスという存在は睦の中に存在し続けるのでは無いかと思える
まるで二重人格の様な演技、いや本心を持つ女優として、睦はモーティスと共存する道を選ぶのかも知れない
そして、この場にはMyGOでもCRYCHICでも無いバンドメンバーが一人訪ねてきていた
海鈴は、もしかしたら立希に呼ばれてこの場に来たのかも知れない
睦の今の様子を見てみろと
CRYCHICで演奏をし、思いもかけず完全復帰した様に見える祥子と睦を見て、海鈴は悔しそうに唇を噛む
祥子と睦が自らを壊すほどに頑張って作り上げていたAveMujicaに自分はメンバーとして入っていたのに、その解散後、自分はメンバーを顧みもしなかった
自分の心の中には自分のバンドを持ちたいと言う願いがあると分かっているのに、その願いを形にする行動が出来ていなかった
この場に居たのが偶然であったとしても、以前立希からかけられた言葉によって海鈴はその事に気付かされたのだろう
海鈴は祥子と睦に「元鞘」に戻らないかと、つまりはまたAveMujicaをやらないかと誘うのだった
この海鈴の願いは祥子達の心に届くのだろうか
8)多頭の怪物
祥子はAveMujica結成理由の元となったCRYCHICへの悔いを解消したことによって、バンドへの想いも一種フラットにはなっているだろう
しかしだからと言って、バンドへの想いそのものが無くなっているとは思いたく無い
無闇に強い言葉を発する根拠は無くなったとはいえ、彼女には持って生まれたカリスマ性と天才的なプロデュース力がある筈であり、それを一度知ったバンドに向かわせ続けることは可能だろう
睦も己の弱さの象徴でもあったモーティスと向き合い、それを克服した今となってはバンドという選択肢もちゃんと持ち合わせている筈だ
強い動機は無くした二人だが、過去の大きな不義理さえ無ければAveMujicaに戻れるだろう
しかし、逆にいえば、かつて多くの観客を失望させたバンド解散という不義理がある限り、二人はAveMujicaに戻れない
例え海鈴が誘っても、ただ「バンドをやりたい」だけでは元には戻れない
祥子も睦も海鈴もバンドをやりたい
そしてにゃむも、バラエティ芸能人として成功していても、何処か心が晴れてない様だ
本来の夢だった女優の道に恐れを成して、今となってはAveMujicaでの活動こそが、自分にとって向いていたと想っているのかも知れない
かつてのAveMujicaの活動を、それぞれのメンバーが、それぞれあまり変わらない熱量で感じている
その複数の想いを束ねて動かすのは一体誰なのだろう
それはかつてAveMujicaの絶対的な中心であった祥子を、恐らくは妄信的に慕っていた初華なのかも知れない
初華は、睦が復活したのを知るやいなや、祥子が望むと望まざるとに関わらず、祥子がまたAveMujicaの活動をせざるを得ない状況を作り出し、祥子の隣の席に戻ろうと画策するのかも知れない
初華はsumimiとしてAveMujicaと同じ所属事務所を救った実績がある
今となっては、そんな初華の我儘が通るくらいに、事務所の中で力をつけているかも知れない
今となっては、祥子にはAveMujicaの中で強い支配力を発揮する意思はない
それなのに復帰するAveMujicaは、統一された意思の無い、何処か歪な複数の頭のある存在として復活するのかも知れない
そして、その裏に秘められた初華の欲望によって、AveMujicaの災厄の第二章が始まるとか
まだまだ物語は半分を超えたばかり
振られた賽は、やはりまだ底には落ちてはないのかもしれない
より大きな災厄を想像せざるを得ない