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バンドリアニメMyGO感想2 千早愛音について

燈に続き、より重たいそよについて書こうと思っていたけど、やはり主人公格である愛音の方が納まりが良いと思い直した
千早愛音は立ち位置的にはポピパの香澄のポジションといえるだろう
コミュニティに後から入ってくる、天真爛漫で人を引っ張るエネルギーにあふれた存在
最初はバンドに興味が無いけれど、一度関わることでバンドを結成する原動力になっていく
バンド初心者の視聴者からも親しみやすく、バンドの世界に引きこむ存在として設定されているのが戸山香澄であり、千早愛音も同じ立ち位置のキャラクターといえる
しかしこの二人、表面は同じ様でも、内面はかなり違う
まずはその辺りから語っていきたい

千早愛音

1)香澄と愛音 その表裏の関係性

戸山香澄は不幸なキャラクターだと思っている
元々原作小説や漫画では暗い設定があったようだが、メディアミックスのメインとなるTVアニメではそれがほとんど削除され、兎に角明るい設定になっている
設定を失ったキャラクターには動機が無い
動機が今ひとつ不明瞭な香澄が破天荒な行動でバンド活動に突き進む姿は、視聴者の感情移入を得られず当初のTVアニメ評価はかなり低かった
この「TVアニメの評価が低い」という事は、バンドリプロジェクトへのレッテルとしてその後も強く定着し、今でもバンドリアニメは見る前から敬遠している人が多くいる様に思う
MyGOの評価がかなり遅れ、今でも正しく評価されていないように思えるのも、このことが要因としてあるかもしれない
ともあれ当初の主人公、戸山香澄がその様な境遇であるとして、バンドリの全く新しいシリーズのMyGOという物語を始める時、作り手たちはその主人公をどうしようと考えただろうか
戸山香澄の様な存在で居て欲しいと思う反面、そこには視聴者の感情移入を受けとめられるしっかりとしたリアリティーが欲しいと思ったに違いない
そうして生まれたのが千早愛音だとすれば、表面上は似ていても、中身が正反対のキャラクターであることに納得がいく
当初シリーズの主人公戸山香澄、新シリーズの主人公千早愛音
この二人はまるで裏表の様な関係だ

愛音の内面

2)愛音の明るさと行動力

千早愛音は高校一年生だが、とある理由で新学期から少し遅れた時期に転入してくる
この入学の遅れが自分の人間関係においても障害になると認識している愛音は、学級内でうまく立ち回ろうと意図的に明るく、良い立ち位置を確保しようと積極的かつ効果的に行動する
それが明らかな打算であることが愛音のモノローグで語られ、彼女の人間臭いリアリティが描写されている
それは、自分の想いを暴走気味に語って学友から引かれ、しかしその天然さ故に人気者になっていく香澄とは全く逆の思考だ
実際のところ、愛音のクラスの中で打算的な振る舞いはクラスメイトに見透かされているのか、その努力の割にはあまり上手くいっていない様だ
しかし、愛音の明るさと行動力には、他にもより大きな動機があった
新学期を少し遅れて転入してきた理由
後にわかることだが、それは愛音が海外留学に挑戦し、言語でついていけずに挫折し、すぐに帰国してしまったからだった
大きな挫折を経験した愛音は、自分のプライドを取り戻す何かを強く求めていた
そしてクラスで流行しているバンドに注目し、自身の中学時代のちょっとした経験も活かせるとして、自分を中心に据えることのできるバンドを結成する為に奔走することになる
それは、彼女にとって、バンドで奏でる音楽への興味などは二の次の、自身が見得を張りたいが故の行動だった

挫折

3)愛音の対人スキル

物語の当初、愛音はバンドに対し殆ど思い入れが無い
中学時代にやっていたギターは埃を被り、チューニングもせず、楽奈の超絶ギターテクを聴いても「うるさっ」という始末で、そんな態度はバンド結成後の練習でもすぐ飽きるなど暫く続いている
この辺りも、すぐにバンドへの情熱で突き進み始める香澄とは正反対だ
しかし、クラスのマスコット的存在の燈に声をかけた時から物語が動き出す
それは、自身の地位向上の為の打算的なものだったが、燈がかつてバンドをやっていたこと、そして何かに傷付いているのを慰めようとカラオケに誘ったことから、燈との関わりが深まっていく
燈が不思議ちゃんでコミュニケーションが苦手でも、愛音は全く臆することなく燈に接し、無神経なほど図々しく燈の懐に入っていく
愛音は燈が少しでも落ち込むと、すぐに察しては躊躇なく救い上げる行動をとる
この躊躇なく他者に救いの手を差し出す行動力は愛音の凄さだ
愛音は中学時代の生徒会長の経験で自分にも他者への関わりにも自信があり、他者を助ける行動に一切の躊躇がないのだろう
燈の「一生バンドやる」発言に笑ってしまい逃げられてもすぐに追いかけて修復を図る、そよとの偶然の出会いから世話ばなしを経てバンド仲間になる承諾を得る、旧「CRYCHIC」メンバーの関係性がギクシャクしてれば全員を集めて話合わせる
あの祥子にすら声をかけて、傷心しているであろう祥子の優しい側面を見ている
愛音はその対人スキル値が恐ろしく高いが故に、新バンド結成へと大きく貢献していくことになる
このバンドメンバー集めの方法も、情熱で無理やり引き込む香澄とは全く違う

自信

4)愛音の優しさと強さ

他者への世話焼きを自然と行える思考は、愛音の優しさの表れでもある
愛音は燈からバンド解散の辛さを聞いた時、素っ気ない素ぶりを装いながらも、自分の海外留学の挫折と重ね合わせて、燈を励ます
この時、愛音は挫折を経験した後、始めて人に優しく接した時だったかもしれない
しかしその愛音の言葉は実感を持った強い言葉として、哀しみに凍っていた燈の心を動かす
そして、それこそがバンド「MyGO!!!!!」が始動する最初の一歩となる
この後の愛音は、生来のお調子ものの自分勝手な性格の様でいて、実際には無類の優しさを示し続ける
ギターが出来なくて立希から理不尽なほど辛く当たられても、立希が追い詰められている心情を理解して、立希が拒絶しようとも助けようと夜の学校を追っかけ回す
そよが自分のことを「要らない」と言おうとも、そよが自分と同じ迷子と聞けば、家まで追いかけていって説得する
「あんたが私を要らないと言っても、(あんたと一緒に)私はやるけど」
その言葉の裏には、愛音の驚く程の優しさと強さが秘められている
愛音が拒絶するのはただ一回、そよの真の言葉を最初に聞いた時
それは彼女のバンド経験の少なさとギターテクの無さが根本にあると感じてしまう拒絶に対してのものであり、何事にも自信からくる強さと優しさをもつ愛音だからこそ、プライドもあって彼女の許容範囲を超えてしまう
それでも、燈からそよも迷子=救いを求めてると聞かされると放ってはおけなくなるのだ

愛音の優しさ

5)愛音のノブレスオブリージュ

常に自分勝手に振る舞い、燈の「一生バンドやる」宣言にも簡単には了解を出さない愛音だが、その心には誰もよりもバンド「MyGO!!!!!」をまとめ上げる優しさと強さがあり、燈も彼女には全幅の信頼を感じている様だ
物語の当初、愛音の優しさは自身が人気者になる為の打算の様に感じられる描写となっている
それは愛音自身がそう感じているからでもある
しかし彼女は挫折を味わい他者の痛みに共感する心を持っている事がわかってくる
更に、挫折の共感だけでは説明のつかない様な大きな優しさと、その根拠になってるであろう心の強さも示し始める
愛音はどうしてここまで強い心を持って人と接することが出来るのか
愛音は、中学時代、生徒会長を務めていた様だ
また、自分の思うがままに海外留学へも行っている
ギターの機材を揃える時もまるで躊躇が無い
彼女は常に自分の望みに対して自由に行動し、能力的な心配も金銭的な心配もしない
愛音は子供の頃から充分に裕福で、能力的にも他の子より高いものを持ち合わせていたのだろう
海外留学の挫折までは大きな失敗も無く、順風満帆な人生を送って来たのかもしれない
そんな幼少の頃より誰よりも心にゆとりのある愛音にとって、他者は常に救うべき存在として感じてきたのかもしれない
その心は正に、持つものの果たすべき義務=ノブレスオブリージュの表れと言えるだろう
愛音は、実際には幼少の頃よりその様な心の強さを持っていたのかも
そして、更に自らが挫折を経験したことによって、愛音は弱者への共感も持ち合わせ、本当の意味での優しさも身に付けたのかもしれない

愛音の強さ

6)愛音と燈 そして、愛音と祥子

そんな愛音の、人を選ばない他者への愛情、それは何処となく、あらゆるものに愛情を傾けてしまう燈の心に通じるものがある
燈にとって全てのものは愛すべきものであり、他者を否定する感情があまり理解できていない様なところがある
そんな燈にとって、根本的に人に優しさを傾けることに躊躇しない愛音にどこか自身と通じるものを感じているのか、より心を開いている様子が窺える
そして燈は、生粋の貴族的な立ち位置に居て、正にノブレスオブリージュをもって燈に接していたかつての豊川祥子にも同じように心を開いていたに違いない
しかし、今の祥子はその地位を失ってしまい、最終話では燈へのその態度も全く変わってしまっている
バンドリ新シリーズ第1期主人公である千早愛音と、第2期主人公になる豊川祥子は、燈を挟んで全く正反対の精神性と立ち位置にいるといえるだろう
第2期「Ave Mujica」編は、そんな二人の主人公の対決の物語となっていくのかもしれない

通じ合う二人

おわり

次回こそ、そよさんで


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