アニメ「ガールズバンドクライ」第十一話感想 死亡フラグを全部へし折れ。
感想が久し振りになってしまった
いつも捻くれたこと考えて書いているので、王道の展開が続くと逆に書くこと無い
今回も正に王道の展開でそのままでは書くこと無いんだけど、やはり少しひねた見方をしてたのでその点を少しだけ
１）成功アバンというフラグ
アバンで、いきなり仁菜がフェスを満喫している様な描写がされる
前回の終わりは、フェス成功の為に仁菜が歌詞を完成させた所だったから、いきなりフェス終了後に時間が飛んだことになるのだろう
つまり、前回まで大きな課題でありまだその結果が不確かだった筈のフェスが、途中の過程を全てすっ飛ばして、アバンでいきなり成功が確約された構成になっているということ
さて、これを演出としてどう考えるべきか
仁菜は歌詞を完成させたがそれ以外にトゲトゲがフェスを成功させるか否かの演出は特にされてない
どちらに転ぶかまだまだ不安定な状態を物語として楽しませる段階にある
それなのに、アバンで成功を確約する
これは良く出来た物語におけるフラグなのだ
アバンで成功を確約している様に見せるのは、実は全く逆の失敗をするのにそれをそのまま描かず、まるで成功したかの様な場面だけを切り抜いて最初に見せて意表を突くという演出のフラグ
…という事を、エンタメに擦れた目の肥えた視聴者は無意識的に感じてしまう
つまりこのアバンは「おれ帰ったら結婚するんだ」の様な死亡フラグと同じなのだ
とんでも無く恐ろしい始まり方をすると視聴者に緊張を強いるアバンと言えるだろう
２）フェス順位の追い風と練習環境というフラグ
フェスでのタイムテーブルでの順位が偶然上がり「追い風だ」と喜ぶ仁菜
ダメになった他バンドの代わりに抜擢されたとの事で、初参加バンドとしては異例の幸運なのだろう
しかし、他にも候補者は居るだろうに何故トゲトゲがこの様な幸運を掴めたのか
それは一切描かれない
更に言うと、その新たなタイムテーブルの詳細についても描かれない
フェスにおいて、時間帯だけでそれが良いとは言い切れない
例えば、圧倒的な人気バンドの裏だったら？
丁度食事時で人気が減る時間だったら
丁度近隣駅の最終便後の時間で…等々
様々なマイナス要因が想定される
この枠をあてがわれていた前のバンドが居なくなったのも、それが嫌で辞退したのかもしれない可能性を考えると、素直に喜べる状況なのかはちゃんと調べないといけない
しかし、その様な様子は描写されない
それどころか、桃香は特に情報を与えずに確認する様なことだけを言う
それは完全な死亡フラグと言えるだろう
その前にトゲトゲメンバーの練習環境が、金銭的な妥協の上であまり良くない様子も描かれている
それでもなんとなく上手くいっているかの様な甘い雰囲気の描写もある
練習環境もあまり整えないバンドが、他のバンドを差し置いて良い枠に入り、成功するのか？
それは烏滸がましいことだったと後で振り返ることになる描写では無いか？
死亡フラグを更に上掛けするフラグと言っても良いだろう
３）メンバーの不安要素、絶対感というフラグ
フェスに向けてトゲトゲメンバーの様子が描かれる
その中で実は一人問題を抱えているのがすばるだ
すばるは祖母に嘘をついてバンド活動をしている
その嘘は前に解消しようと動いたが、祖母への気遣いとして仁菜に止められている
そんなバンドメンバーとして中途半端な状況のすばるが決意をしたかの様な表情を見せる
そして、フェス当日すばるは一人だけでバンドメンバーから離れる
それは単に他のバンドを観たいからという理由で
しかし、それは他に何か意図がありそうなのは間違いないという演出にもなっている
桃香は言う
「絶対に遅刻するなよ」
それに対し務めて気軽に対応するすばる
これは明らかに危機的な遅刻が起こり得る死亡フラグだ
フェスの前、智やルパもここに至る道のりを思い返し、フェスの成功を願う
どんな場面でも常に笑顔で、ある意味本当の意味での表情を見せないルパにして、涙を浮かべてその本心を覗かせる
彼女達にとってのフェスの大切さが痛いほど伝わる場面だ
それはまた成功の絶対感という演出上の死亡フラグにもなり得る
４）フェスの流れというフラグ
トゲトゲメンバーは何の問題もなくフェス会場に着く
あらゆるトラブルは、起こらない
しかし奇妙なこともある
スカウトの三浦が、何故かトゲトゲを避ける様に行動する
それはスカウトとして、フェスでは常に隠密行動をしているのか、それともトゲトゲに対して何か思う所があるのかは不明だ
ダイダスが大ステージで演奏を始める
ここに来てトゲトゲがダイダスよりも後の、謂わばトリに近い時間帯であることが分かる
例え小さいステージだとしてもその責任は重大だ
ダイダスは演出技術も向上し、ライブを大成功させる
ダイダスメンバーはステージ上からトゲトゲメンバーを見つけ、エールを交換するの如く、小指を立て返す
これはもう、トゲトゲが絶対的にライブを成功させないといけない流れだ
凡ゆる事象が、トゲトゲのライブの、絶対的な成功を求める状況にある
時は既に夕暮れ
リハーサル時には当然ステージ前は人もまばらだ
それは本当に開演前だからなのだろうが、このフェスに来ていた人は本当にトゲトゲの為に残ってくれているだろうか
次のステージが無ければ当然時間潰しのついで見の観客も居ないはず
残っているのは他の大きなステージのファンで明確な目的がある観客だけかもしれない
ステージ開演時間
空からは雨粒が降ってくる
これは悪い兆候か？
仁菜がギターを担ぐ
いや、お前ギターまだ弾けないだろう
それでも披露しようとしてるのか？
最後の最後まで、ヒヤヒヤすることが描かれる
そして、ライブはどうなったのか
５）不穏演出も死亡フラグも、全部へし折れ。
絶対的ライブMVと見紛う様な、圧倒的映像美と共にライブは成功する
雨も止み、ここに至るまでの全ての不穏演出を蹴散らし、全ての死亡フラグフラグをへし折って、ただただ成功のライブが描かれる
大切に描くべきすばるの顛末は、ライブ前に丁寧に回収されている
祖母が会場に居たことから、ライブ前にメンバーから離れたのも、祖母を迎えにいっていたからかもしれない
すばるから祖母に事実を話しており、ステージ上でもすばるは実名を名乗る
この時、トゲトゲのメンバーが真の意味で全て揃ったといえるだろう
トゲトゲのライブに引き寄せられる様に観客も集まり、ライブは大盛り上がりとなる
スカウト三浦も、単に隠密行動がしたかっただけの様だ
演奏後、圧倒的な熱量の残滓のみが残るステージが描かれる
ステージは決して大きく無い
しかし、これこそがバンドゲナシトゲアリの伝説の幕開けと思える様な描写と言えるだろう
６）フラグへし折りメソッドについて
最近、少し注目している演出法として「フラグへし折りメソッド」と名づけているものがある
これが明らかな演出意図によるものか確かめられた事は無いのだが
要は、演出の定石では「こうなるであろう」と言うフラグを立てておいて緊張感を煽り、その結果として「そうならない」事により感動を呼び起こすと言う方法
これを最初に認識したのは「アニメウマ娘」
史実では悲劇的な結末を迎えるスズカに対し悲劇のフラグが立ちまくるのは当然の演出だが、その結果として悲劇が起きず感動のラストを迎える
それが二期では更に洗練され、主人公のテイオウこそが悲劇的な結末に向かう中、その運命に抗する凡ゆる手立てが無いと思わせながらの逆転に感動させられる
これは受け手の視聴者が「死亡フラグ」の様な演出意図を最初から知っているからこそ成り立つ演出法であり、もしそれが視聴者に無ければ何のひねりも無い、平坦な筋書きと思える様な演出とされるかもしれない
作り手が視聴者を信じない限り成り立たない演出法であり、それを本当に意図的にやっているのかは実際に演出家に聞いてみない限り分からない様な演出法だ
今回のガールズバンドクライ１１話の構成は、とても真っ当で当たり前のバンドの成功を描き、それだけで感動要素があるとは思っている
しかし、エンタメを見過ぎで擦れたオタクとしては、綿密に張り巡らされた「死亡フラグへし折りメソッド」によって、より大きな緊張を持って視聴し、深い感動を感じることが出来たと思っている
７）未来予測
ライブ中に一瞬だけ挿入された人物から次週以降を予想する
謎の憂いをおびた美女、これは恐らく智の母だろう
智の方から愛想を尽かして家を出たというエピソードが描かれているが、これが智の母だとすれば
、必ずしも母の方からは智を心配している様だ
となると、智には帰る場所があると言うことになる
それは仁菜が帰る場所が無いと思っていた時と同じ状況と言えるかもしれない
後一人、明らかにルパの親族と思われる人
これはこの挿入シーンの法則からすると、まだ日の暮れてないルパの祖国の南アジアであろうと推測される
もしくはその陽の明るさから更に別の国かもしれないが
ともあれ、ルパには死んだ両親の他に親族が海外に居て、墓参りをしながらルパの事を思っていると言う描写になる
イメージとしては、血の繋がった姉がルパを迎えに行こうと決意している様子に思える
ところで、ルパには少し引っかかる点がある
智に保証人を頼まれた時、そのまま保証人にならなかったのか、結果としてルパの家に智が居候する事になっている
これは、ルパが保証人として何らかの問題があった可能性を示しており、今のアパートは少し怪しい手段で住んでいるのかもしれない
これはルパの親族のことを考えると、ルパが日本に居られなくなるフラグの様に思え、トゲトゲが空中分解する可能性すらある、最大級の危機かもしれない
空がまた暗くなる
おわり