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ベストディスク2023

今年もよろしくお願いします。

2022に関してはなんとなく気乗りせずやらなかったのだけれども、少しは新年気分でも出してみようかということで去年聴いて良かった新譜について少し書いてみる。ライブラリを振り返ってだいたい新→古順。

國府田マリ子『世界はまだ君を知らない』

新順とか書いといていきなり3月の作品なのだけれども、気づいたのがつい先月だったので。こう、なんていうかいきなり出た新譜はびっくりするほどいつも通りのマリ姉の歌であって、いつも通りのマリ姉の歌、に最新の続きがあることに感謝せずにはいられないという。タイトルがちょっとHoneyWorksみたいだけども、シンプルな軽音楽サウンドに乗せて歌われる決して大げさではない等身大の応援歌なのがいい。僕が中学生の頃からいい意味で変わらないよさ。


chikyunokiki meets Inner Science『Driftin'』

地球の危機久しぶりのリリースは1stにリミックスで参加していたInner Scienceとのコラボレーション作。もともとエレクトロニカ的な表現が目立つバンドとして今様のYMOみたいなところのある人たちではあったのだけれども、今回はよりバンドの音をどこまでも広げていくようなサウンドの大きさを感じた。それこそ彼らの歌詞にもよく出てくる『海』の感じというか。


Vaundy『Replica』

えげつない。近年『シングルを切りすぎてアルバムがシングル集になってしまう問題』というのがあって、近年のKing Gnuや米津玄師なんかはその点に苦戦しているように思うのだが、こと今作に関しては『じゃあ全部入れたうえでアルバムを作ろう』という力技で解決した。それはこのVaundyというアーティストがどれだけ充実しているかという証明であり、名実ともに日本のトップ・オブ・ポップス足り得るということでもある。個人的には思ったよりグランジーな表現が目立つところが興味深いが、まあ、全部あって全部いい曲。こん中にタワレコが建ってるようなもん。


白銀ノエル『のえさんぽ』

古川本舗の提供楽曲関連の中でも「ours」がぶっちぎりで好きなのだけども、アルバム単位でもとても良かった。ポップスを聴く面白さって『そのアーティストにしかない良さ』をどこに見出すかみたいなところがあると思ってるのだけど、この人はそこらへんがわかりやすいというか、たとえば僕が声優の歌手活動に求めているものに近い個性がここにあったように思う。たまーにこういうべたっと甘い歌が恋しくなるのよな。


littlegirlhiace『INTO KIVOTOS』

新譜が出たらだいたい聴いてる数少ないアーティストの一人なのだけど、今作は『ブルーアーカイブ』をモチーフにした(僕は未プレイ)コンセプト・アルバムということでアルバムとしてトータルで見たときの名盤度が高い作品だと思った。『ぼっち・ざ・ろっく!』なんかもあってゼロ年代初頭のギターロックへと目線が向けられた昨今ではあるものの、この人に関してはもう少し、たとえば2002年という場所を軸足にして後ろの90年代を振り返るような独特な質感(ミスチルとかバインとか、あともっとオルタナティヴなバンドとか)があってそれが好きなのかなと。あと録音というか音の質感がちょっとParannoulに似てるような気が。ギターノイズに甘さだけじゃなくてボディがある感じというか。あとはブルアカ好きならより頷けるところもあるのかも。


長瀬有花『Launchvox』

錚々たる面子の作曲陣とともに発表されたセカンド・アルバム。『だつりょく系アーティスト』とは言いつつ、確かなスキルというか、確固たるアーティストとしての個性と実力がそのスタンスを実現させているように思う。90年代末のポスト渋谷系っぽい香り(「ハミングがきこえる」みたいな)がありつつしっかり最新型のポップスとして強度がある歌が揃っていて大変によい。案外次世代のポップスターになるのはこの人なのかも。意外とみんな聴いてるもんな。


Local Visions & 長瀬有花『OACL』

長瀬さんほんと充実してるなあという。こっちはネットレーベルLocal Visionsとのコラボ作。オーソドックスなポップスから悪夢的なニューエイジ・サウンドまで自由自在のトラックに長瀬さんのふわっとした声が合わさって本当に今作ならではとしか言いようのない表現に。何よりコラボはお互いの良さを引き出してナンボという話でとても良かった。


Soft Machine『Other Doors』

1曲目を試聴して安いフュージョンみたいに聴こえたのが不安だったのだけれども、フルで聴くともっと複雑怪奇な、たとえばフランク・ザッパのバンドが持つような諧謔が感じられるサウンドで圧倒されっぱなし。'23にしてソフト・マシーンの新譜である必然性のある音だし、最新型のカンタベリーサウンドを自ら提示して見せる姿がとにかくすごい。


色々な十字架『少し大きな声』

ひどい。思わず笑ってしまう本気の悪ふざけ。ヴィジュアル系あるあるのようでいて意外とそのものではないという、いい意味でバンドが持つ集合体としての性質が発揮されている感じ。『いいバンド』なのがズルいのよな。


People In The Box『Camera Obscura』

前作があまりに生々しい表現だったのに比べると今作はだいぶそれまでとのバランスが取れたような気はする。とはいえこの、世相をそのまま切り取って切り刻んだあと整列させたような居心地の悪さは流石。高い演奏力を持ちながらたとえばプログレッシヴ、という音楽ジャンルが持つ甘いサイケデリアを許さずにただ悪夢的なところがどんなハードなバンドよりも鋭く刺さる。なんとか一度ライブが観たいんだけどなー。


UNISON SQUARE GARDEN『Ninth Peel』

シングルの『カオスが極まる』と『kaleido proud fiesta』が揃って収録された時点でまず最強なのだけれども、リードの『恋する惑星』とか、ポップなユニゾンの最高到達点を更新したようなアルバムと言っていいように思う。ロックバンドって楽しくてまだまだ鮮度を失うには早すぎることを証明してくれる作品でありバンド。最高。


BUCK-TICK『異空』

これはもう、何を書いていいやら。最もポップで力強い反戦の形であり'23最高のロックアルバム。このアルバムを聴けばロックができることってまだあるんじゃないかと思えるような。だからこそ櫻井敦司氏の逝去が惜しまれるけれども、でもまだバンドには最新型を見せてくれると信じてる。


Parannoul『After The Magic』、『After The Night』

'21作が話題になったシューゲイザー・アーティストによる新譜とそれを引っ提げたライブ音源。前作もボディのあるシューゲイザーという感じで良かったのだけれども、今作も順当にインディー・ロック的な進化を遂げていた印象。とかなんとか言ってもまあ結局はライブ盤のラストにおける46分あるノイズ(!)が全部持っていった感じ。壮絶。


ムーンライダーズ『Happenings Nine Months Time Ago in June 2022』

異常でしょ。ここには明らかな原初プログレの暴力性がある。'22の新譜も素晴らしかったけれども、インプロ集ということでよりむき出しになったロックバンドとしての攻撃力そして実力が味わえる作品。なんでこれが日本最古を争うロックバンドから現役で出てくる音なのかわからん。キング・クリムゾンにケンカ売れる日本のバンドはムーンライダーズだけ。


SADFRANK『gel』

NOT WONK加藤修平によるソロ。ライジングサン'22の振り返りで観てぶっちぎりの衝撃を受けたので待望のアルバムということになるが、一聴するとやや地味な仕上がり。とはいえNOT WONKの最新作ですでに3ピースのパンクバンドからだいぶ外れた(いい意味で)流れを受け継いだ最新型のフォークソングという感じ。ROTH BART BARONなんかと共鳴するものがありつつももう少し内省的で私的な感情が込められた(ように聴こえる)作品。ピアノ弾き語りで幕を開ける一方で電子音やドラムの使い方が上手いのよなあ。


Cres.『Sound of Succubus Original Soundtrack』

エロ同人ゲームのサウンドトラック。最新のクラブ系モチーフを拾いつつ、あくまで音ゲーの音楽として気持ちよく聴かせる手腕は流石。できればゲームをプレイして総合的なすばらしさを感じて欲しいのだけれども、たとえばチップチューン『八比特活劇絵巻』の楽しさなんかを聴いてみていただければ伝わるものがあると思う。


(番外)裸のラリーズ『CITTA '93』

再発というか発掘ものぶっちぎりの優勝。これまでのラリーズ伝説を良くも悪くも覆すほどにクッキリとした音像が少なくとも僕は好ましく感じた次第。これでようやく『録音状況の悪いギターノイズ』から『バンド・サウンド』として評価できるようになったのではないでしょうか。久保田麻琴一世一代の名仕事。

夜が明けたら近所のブックオフにでも顔を出そうかと思う。今年もいい音楽に出会えますように。

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黒岡衛星
投げ銭してくれると小躍りしてコンビニにコーヒーを飲みに行きます。