「引きこもりは最高の誉め言葉」持続可能な農的暮らしへの挑戦
あの人、家にずっとこもってるね。
引きこもりなんじゃない?
日本が抱える社会問題の1つ、引きこもり。通常、いい意味で使われることはあまりない存在だ。
でも、そんな引きこもりこそが人間の本来あるべき姿、なのかもしれない。
「世界を農でオモシロくする」をテーマに、インターネット農学校The CAMPusの校長として、食と農に関するあらゆる活動を展開する井本喜久氏。初著書『ビジネスパーソンの新・兼業農家論』刊行にあたり、「地域×農」にまつわるオンライントークライブが2020年9月5日に行われた。本記事では、パーマカルチャーデザイナー四井真治氏との対談模様を、編集・再構成してお届けする。
What is the パーマカルチャーデザイナー?
井本:パーマカルチャーデザイナーとして、もう言ったら、パーマカルチャーデザイナー界で四井さんの右に出るものはいないくらい日本を代表するパーマカルチャーデザイナーというか、パーマカルチャーデザイナーですよね?
四井:パーマパーマうるさいなぁ(笑)
井本:四井さんとはもうここ3年くらいの付き合いですかね?
四井:そうだね。楽しくやらせてもらってますよ。
井本:パーマネントカルチャー(パーマネント(永久な)とアグリカルチャ-(農業)あるいはカルチャー(文化)を組み合わせた造語)って、「循環型の暮らし」というか、「持続可能な暮らし」みたいなことですけど、僕は、すごい影響を受けまくってて。
四井:まぁ、社会問題の1つの解決方法だからね。いもっちゃんが食いつくのは当然だなと思ってたよ。エネルギーの問題も環境問題も解決できるし。でも、まだまだ日本でも世界でもあまり知られていない。どんどん普及していって、地に足付いた暮らしを考える人が増えていけば、解決できる問題はいっぱいある。
「引きこもり」は最高の誉め言葉
井本:四井さんとは、「持続可能な農的暮らしのオモシロさ」をテーマに語りたいと思ってるんですけど。四井さん自身は山梨の北杜で暮らしているじゃないですか。僕がいつも四井さんから勉強させてもらっている中で特に印象的なのは、四井さんは「暮らし自体がめちゃくちゃおもしろいんだよ」って言ってること。
四井:だって面白いんだもん。
井本:そこが僕は突き刺さっていて。四井さんは一見すると引きこもりなんじゃないかなって思っていて……。
四井:いや、そうだよ(笑)いい意味の引きこもりだよね。もうね、自分の敷地にいるのが一番の幸せだからね。
タワーマンションの暮らしへの違和感
四井:僕はパーマカルチャーデザインの仕事をしていて。お客さんからの一番の誉め言葉は、「(デザインしてもらった)自分の家から出るのが嫌なんです」「家の中にいるのが一番の幸せなんです」って言われることなのよ。それを自分で体現して"天国"のような場所をつくることが仕事になっているんだけど。それって、みんなの本来あるべき姿だと思うんだよ。
井本:と言いますと?
四井:たとえば、タワーマンション住んだりさ、庭のないマンションの一室とか、土地と繋がってない部屋に住んでたら、「なんかあったときどうしよう」ってなるじゃない? 僕は、なぜ、そんな暮らしをわざわざ選ぶんだろうって不思議に思うというか、もったいない気がするんだよね。だって、僕らは生きてるんだから、生きている仕組みの上で暮らしていければいい。たくさんお金稼ぐとか、高級なものを食べたりとか、高級な車乗ったりとか、いい服着たりとか、いろんな自分のステータスや価値観があるかもしれないけれど、それ以上に生きていることを実感できることってあるはずなのよ。僕は、それが農的な暮らしというか、自然と繋がった暮らしだと思うんだよね。
井本:命を日々感じる暮らし。
四井:そうそう。だからさ、それをやらないのは、すごくもったいないと思うの。最近は、農的なことに興味を持つ人が増えてきているけど、ただ家庭菜園やるのと、命を感じながら、自分が生きていることを実感しながら家庭菜園をやるのは、全然ニュアンス変わってくると思うんだよね。
井本:本当にそうだと思います! 命の仕組みっていうのを実感する。「人間が暮らしていること自体を、実は自然にとってプラスにすることができるんだ」っていう。今みんなどこかで負い目を感じているというか、「人間が生きていることで、快適に暮らすことで自然が壊れていっている」っていう感覚を抱く人が多いんだけど、実は人間が暮らすことで地球はよくなるんだ、っていうのを四井さんは言ってくれてるじゃないですか。だからまずは、命の仕組みを理解するところから始まりますよね。
持続可能な最小単位は家族
四井:僕も、大学入るところから環境問題に関心があって、そういう活動もしてきたし、それを解決するためにやってきたけど、その中でも「持続可能な暮らし」っていうのを追求してきたんだ。今の山梨の暮らしっていうのは、長男が生まれて、14年の間、ここで生活実験をしてきたということなの。そして僕は、家族という存在にフォーカスしたんだよね。
井本:家族?
四井:なぜかっていうと、家族は「社会の持続可能な最小単位」だと思うんですよ。とかく今は、個人主義だから、個人が社会の最小単位だって考えられがちだけど、やっぱり夫婦になって子供が生まれて次世代が生まれて、またその子供が生まれてっていうのが持続可能な仕組みじゃない。その繋がりで社会を作っていくわけだけど、もちろん子供を持てない人もいる。そういう人も仕組みの上で社会的な役割を果たしたり。その上にあるのが社会だと思うんだよ。
持続可能な暮らしって、「自分たちが暮らすことによって環境にインパクトを与えないような暮らし」、それがエコだっていうふうにいままで言われてきたけど。実際暮らしてみると、実は人が暮らすことによって堆肥ができて土が育って、他の生き物を増やしてたりする。うちは、排水を微生物と植物で処理して、綺麗な水を得ているんだけど、その過程で微生物とか植物が栄養分を吸収してまた他の命を育むことに繋がってるでしょ。人が暮らすことによってそこに栄養分とか水とかエネルギーを持ってきていて、それが環境をさらによくする仕組みになっている。それが僕の13年間の生活実験のなかで一番の発見だったんだけど。まさに命の仕組みに沿った暮らし方だと思うんだよね。
近未来を舞台にした映画とかって、メカメカしいイメージで描かれているじゃない。だけど、あんな景色は持続可能な状態じゃないと思うよ。でも、うちのようにちゃんと暮らすことで、土ができたり、水が綺麗になったり、他の生き物を増やしていったりする。1億2千万人がみんな環境を良くしようって意識になれば、その力はすさまじいと思うんだよね。
井本:間違いない!
農育ならぬ「暮らし育」が子供たちを豊かに育てる
井本:でも、そのためには「最小単位で伝えていく」っていうことがすごく大切だなって思うんですよ。さっき、暮らしの中で子供たちの話が出てきましたけど、子供たちになにか伝えていく努力というか、どういうことを意識されてますか?
四井:すべては、暮らしなんだよね。「体験農園」とかあるけれど、「体験」っていうマインドセットだと「農」と「暮らし」は分かれてしまうと思う。だから、「農っていうのは暮らしの一部だ」って考えた方がいいと思うんだよ。そして、その暮らしを子供たちと一緒にやる。それはお手伝いということだけど、本来江戸時代より前とか、義務教育の学校なんてなかったわけじゃん。だけど、暮らしの中で子供達と生きるためのいろんなことをやって、いろんなことを学んできたんだよ。それが、ある意味パソコンでいうOSみたいになって、ますますいろんなことができるようになっていくわけじゃない。でも、今はすべて学校に任せてしまって、家でお手伝いもさ、マンションの一室とかだとできることなんてお皿洗いとか風呂を洗うとかそれくらい。でも、うちみたいに農的な暮らしをしていればさ、鶏の世話したり、ヤギの世話したり、畑の土作りを一緒にやったり、ミツバチの世話をしたりとか、いろんなこと、「暮らすためのベーシックなこと」をすべてこなしていくことになるわけだよ。
井本:農的な暮らしで得られることは、学校で習うことにも通じますよね。
四井:そう思う。それには、理科とか国語とか算数とかもすべて含まれているのよ。昔は学校に行ってない親もいたから読み書き計算のできない人もいた。だから、本来学校は、「日頃の暮らしで子供達が学ぶことを補完する」っていう意味があったと思うんだ。アメリカでは、エディブルスクールヤードみたいな考え方が生まれてきてるけど、それはパーマカルチャー的に考えると、自然発生的な考え方だと思うんだよね。アメリカにはアメリカのエディブルスクールヤードがあるし、日本は日本の「農的な教育」、「農育」があっていいと思うよ。本当は教育自体が農育でないといけないと思うんだよね。農育っていうよりも暮らしだよね。「暮らし育」って言葉は語呂が悪いけど(笑)、生活のなかでいろんなことを学んで、それに特化していくことで物理を学ぶ子がいたり、工学的なことを学ぶ子がいたり、文学的なことを学ぶ子がいたり、というふうになっていくのが本来のあり方だと思う。
井本 喜久 (いもと よしひさ)
⼀般社団法⼈The CAMPus 代表理事/株式会社The CAMPus BASE 代表取締役/ブランディングプロデューサー
広島の限界集落にある米農家出身。東京農大を卒業するも広告業界へ。26歳で起業。コミュニケーションデザイン会社COZ(株)を創業。2012年 表参道でBrooklyn Ribbon Friesを創業し食ブランド事業もスタート。数年後、家族がガンになった事をキッカケに健康的な食と農に対する探究心が芽生える。2016年 新宿駅屋上で都市と地域を繋ぐマルシェを開催し延べ10万人を動員。2017年「世界を農でオモシロくする」をテーマにインターネット 農学校 The CAMPusを開校。全国約60名の凄腕農家さんを教授に迎え、農的暮らしのオモシロさをワンコインの有料ウェブマガジンとして配信中。2018年(株)The CAMPus BASEを設立。全国の様々な地域で農を軸に地域活性を図るプロジェクトをプロデュース中。
四井 真治 (よつい しんじ)
山梨県北杜市/ソイルデザイン 代表
信州大学農学部森林科学科にて農学研究科修士課程修了後、緑化会社にて営業・研究職に従事。その後長野での農業経営、有機肥料会社勤務を経て2001年に独立。土壌管理コンサルタント、パーマカルチャーデザインを主業務としたソイルデザインを立ち上げ、愛知万博のガーデンのデザインや長崎県五島列島の限界集落再生プロジェクト等に携わる。 企業の技術顧問やNPO法人でのパーマカルチャー講師を務めながら、2007年に山梨県北杜市へ移住。八ヶ岳南麓の雑木林にあった一軒家を開墾・増改築し、“人が暮らすことでその場の自然環境・生態系がより豊かになる”パーマカルチャーデザインを自ら実践。日本文化の継承を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャーデザイナーとして、国内外で活動。
『ビジネスパーソンの新・兼業農家論』 著・井本喜久
★AERA10/19号「アエラ読書部 森永卓郎の読まずにはいられない」で紹介!
★読売新聞「本よみうり堂」にて書評が掲載されました!(10/18)
都会と地方のよさを合わせた働き方をつくる!
・多拠点生活、地方移住、Uターン・Iターンに興味がある。
・田舎で自然に囲まれて、家族や仲間を大切にしながら暮らしたい。
・「食」や「環境」、SDGsにかかわる活動がしたい。
そんな方に提案したいのが「新・兼業農家」。
従来の農業は「大変で儲からない」というイメージが強いものでした。
しかし今の農業は、工夫次第で「楽しくて、カッコよくて、健康的で、儲かる」!
地方と都会を自由に行き来し、これまでの仕事や興味のあった活動と組み合わせ、相乗効果で成果を上げる働き方を可能にしてくれます。
それを後押ししてくれるのが、柔軟な発想・計画・マーケティング・営業・PRなどのビジネススキル。
ビジネスパーソンこそ、「新・兼業農家」に向いているのです。
本書で提唱する「コンパクト農家」は、ビジネス⾯での基準値を「0.5ha(1500坪)で年商1000万」に設定。
数多の成功農家に学びながら自身も二拠点生活を営む「インターネット農学校」校長と共に、新時代の農業の始め方について学びます。