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Apocope, Anadiplosis, Auxesis for piano solo (委嘱作品初演 2020) 稲森安太己

2009年に私はドイツに留学したが、現地での生活を始めて間もなくピアニストの富田珠里さんと知り合った。富田さんはすでにドイツで活躍されており、その活動自体に私は励まされ続けた。2020年に私が帰国を決めたとき、富田さんは私の作品をいつか演奏したいと思っていたことを打ち明けてくださり、演奏の機会が決まってはいなかったものの、ピアノ独奏のための新曲の委嘱を受けた。その折に書いた作品を今回日本の3つの都市での公演で演奏していただけることになり、ありがたく思っている。

《Apocope, Anadiplosis, Auxesis》は3つの性格的小品である。第1曲《トッカータ ~ アポカピ》では、音型の最後を削ったり増やしたりしながら、フレーズが伸縮していく。「語尾音消失」という意味のギリシャ語由来の言葉をもって、フレーズによる器楽的遊戯を表した。

第2曲《ノクターン ~ アナディプローシス》は、「前辞反復」を意味する修辞技法をタイトルにしている通り、反復の音楽である。各音高に固有の音価を割り当て、シンプルに繰り返していく。曲が進行するごとに新しい音高が重なっていくため、中間部分では高密度で複雑な音響が現れる。私はいくつか同様の反復の音楽を作曲しているが、この作品は同種の独奏曲としては最も複雑になったと感じる。テンポは遅くないが、中間部の響きの深まりをショパンのノクターンの変奏技法に準え、ノクターンと題した。

終曲《フーガ ~ オクセシス》は3曲中最も古典的な考えで書かれたフーガである。主題のリズムをやや複雑に創作しており、テンポの軸を感じることが少し難しい。しかし通常のフーガと同様に主題の層が重なれば音楽時間は明快になっていく。明快な時間軸を認識すると、主題のリズムそのものの複雑さが際立ち、特殊なプロセスを踏んで増殖していく音楽のように聞こえると感じた。その様子を細胞の肥大化を表す「オクセシス」という語で表した。

稲森安太己
https://note.com/yasutaki_inamori

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