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ズボンがきっかけで離婚

ドイツの伝統的な民族衣装
「レーダーホーゼン」
これがきっかけで離婚することになった夫婦の話を読んだ。

村上春樹の短編集、
回転木馬のデッドヒートに
収められたお話。
この短編集は小説ではなく実話がベースになっています。

私は小説でも映画でも
漫画でもなんでも、
読み手が解釈することで意味を成すお話が好きです。

それは読み手が成長すると
意味が変わったり、
読む人によって解釈が
異なるからです。

「レーダーホーゼン」の話は、
そのような構造をしている
お話です。以下あらすじ

「レーダーホーゼン」

僕の妻の同級生であるエレクトーン教師の女性は、
大学2年のときに両親が
離婚した。
半ズボンが原因で母は父を
捨てたのだ。
しかも父だけなく、
娘である女性も含め。
そのことは娘を深く傷つけた。

半ズボンは正確には
レーダーホーゼン
(ドイツ南部バイエルン州からオーストリアの
チロル地方にかけての地域で男性が着用する民族衣装。
肩紐付きの皮製の半ズボン)と言う。

母親は妹を訪ね一人ドイツに旅行することとなり、
父はお土産に
レーダーホーゼンを頼んだ。
(父は予定があり、どうしても同行できなかった)

過去に父は浮気をしていたが、
旅行の際には両親は比較的親密であった。

レダーホーゼンの
お店にいった母は、
当初、ズボンを買うことが
できなかった。
店のルールとして実際に
着る人にしか売らない。
というものがあったからだ。
そうやってちゃんと、
その人に合ったものを
売ることを
ポリシーとしていた。

そこで母は機転を効かせ、
夫そっくりの体型を持つ
ドイツ人を連れてくることを店側に提案する。

その男性にズボンを
売ってもらい、
それを自分が買う。
この先、2度とこの店に
来る機会がないことも伝えると店のズボン職人は、
今回だけ特別に
販売致します。と
お店のルールを曲げて売ってくれることになった。

母は夫とそっくりな体型の男性を見つけ
ズボンのサイズ合わせをすることになった。
その男性は見れば見るほど夫にそっくりだった。
男性はお店の職人と
和気あいわいと冗談をいい
レーダーホーゼンを履いて
いかにも楽しそうに
体をゆすっていた。
母は、その様子を
見ているうち、
夫に対する耐え難い嫌悪感が
体の芯から湧き起こってきた。
母にはそれをどうすることもできなかった。
自分がどれほど激しく夫を
憎んでいるのか
その時、はじめて知る。
母はレーダーホーゼンを買う間に離婚を決意し、
そのまま家には戻らなかった……

3年が経ち、親類の葬儀で
母と再会した娘。
母は自分に起きたことを説明することができず
今まで会えなかったことを娘に説明する。


というのがあらすじです。

母はなぜ自分の気持ちに
気づけたのでしょうか?
また、どうしてこれまで気付けなかったのでしょうか?

自分で自分の姿を肉眼で
見ることはできません。
自分を見るためには
鏡が必要だと思います。

母は父と娘との生活の中では、
自分の気持ちを外から客観的に
見ることができなかったのではないでしょうか?

父の女あそびを我慢してきた事、
父に合わせて暮らしてきたこと。

そのことがレーダーホーゼンが
お土産が欲しい。ということに
象徴されているように思います。
一種の父のわがまま。
そのことに旅前は
気づかないでいる。
家庭を守る母という立場から
しかモノが眺められない。

ところが海外に行き、
夫や娘からも心が離れ
夫のしてきた事を外から
眺められた時。
自分の中で重ねてきた我慢を
ドイツ人男性を通して
眺めることができたのでは
ないでしょうか?

遠く見知らぬドイツで、
夫のために訪れたお店。
そこで言われたお店のルール。
ある種の理不尽。

家庭を守り夫に尽くし、
女あそびで裏切られても
我慢してきた日々。
押し付けられてきた理不尽。

お店でズボンを買うまでの
経緯とこれまでの結婚生活が
重なってきます。

さらにズボン職人と楽しげに
談笑している
夫そっくりの男性。
その様子は自分の我慢を無視して
楽しそうに暮らしている
夫のように見えたのでは
ないでしょうか?

「人は外から自分の気持ちを
眺めないと
自分の本心に気づけない」

私はそのような感想を
持ちました。

おそらく他の人が読めば、
全然違う解釈があるかと
思います。
また私の解釈も何年か経てば
変わるかもしれません。

小説に話を戻すと
娘は母の話を聞き、
自分も含め捨てられたことを
憎むことは
できなくなったそうです。

最後に
「もしズボンの話を抜きにして
1人の女性が旅先で自立を獲得するというだけの
話だったとしたら、
お母さんが捨てたことを
許せただろうか?」と
娘に尋ねると

娘は「駄目ね」と即座に答え
「この話のポイントはズボンにあるのよ」
「僕もそう思う」と僕は言った。
で話は終わります。

私も読んでそう思いました。

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ともみ(mens)
まだサポートを受けるところまで気が回っていないのですが...作っているカルタの印刷費にまずは回して形にしようと思います。作っているものを自費で作って営業がかけられるようにしようと思います