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その日の天使

自分の能力に限界を感じた。
(次に何をしたらいいのか全く分からなくなった)
仕事を失った。
実家に一時的に帰りたかったが
拒絶された。
恋人ととも別れた。
原因は自分の中の愛が
希薄であることだった。
良い意味で価値観が変わり、
今まで友達だった人とも疎遠になった。
唯一の拠り所だった猫も
逝ってしまった。
それらを招いた理由は
全て自分にあると思った。

これらは同時にやってきた。
自分が作ってきた物語には
無理があったのだ。

それは部分的な修正ではなく、
根本的な積み直しが
必要なものだった。
でも積み直せるとは
とても思えなかった。

それから1年くらい、
ほとんど寝て過ごしたような
気がする。
記憶らしい記憶がない。

ある日のこと。
昼くらいだろうか?
明るい部屋の中、
布団に入りながら
「もういいかな」と思った。
悪い意味で吹っ切れたような。
「もうやめよう」と。
今までにない感覚だった。
自分の中に動機があるときは
何があっても平気だった。
でも今はそれがない。

その時「とんことり」
と玄関から音がした。
当時、文通していた人との
手紙だった。

手紙には近況や日々の他愛も
ないことが書かれ、
女の子が花束を持っている
イラストが添えられていた。

「その日の天使」中島らも

一人の人間の一日には、
必ず一人、
「その日の天使」が
ついている。
その天使は、日によって様々の容姿をもって現れる。
心・技・体ともに
絶好調のときには、
これらの天使は、人には見えないもののようだ。

逆に、絶望的な気分に
落ちているときには、
この天使が一日に一人だけ、
さしつかわされていることに、よく気づく。
こんなことがないだろうか。 暗い気持ちになって、
冗談にでも、“今、自殺したら”などと考えているときに、
とんでもない知人から電話がかかってくる。
あるいは、ふと開いた画集か
何かの一葉の絵によって救われるようなことが。
それは、
その日の天使なのである。

私にとっては、その手紙が
まさにその日の天使だった。

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ともみ(mens)
まだサポートを受けるところまで気が回っていないのですが...作っているカルタの印刷費にまずは回して形にしようと思います。作っているものを自費で作って営業がかけられるようにしようと思います