Ibanez RG350EXZ ゼロポイントシステム(ZPS)を試す
Ibanezのゼロポイントシステム(ZPS)を試してみたくて、中古のRG350EXZを購入した。
ZPSは一言で表現するとチューニングスタビライザーで、通常のフロイドローズのスプリングに加えて追加の2本のスプリングとバーによってブリッジユニットを支えることで、その名前の通りゼロポイント(本来ブリッジがあるべきポジション)の位置にブリッジが留まるようにするシステムだ。ブリッジが正しい位置に半固定されることで、トレモロユニットの調整や弦交換を簡単にしたり、チョーキング時や弦が切れた場合のチューニングのズレを緩和してくれる効果があると言われている。
追加の2本の黒いスプリングが弦の張力とは逆の方向にブリッジを引っ張るような構造になっている。ただし、このバーは一定の位置より先には進めないようになっているため、弦の張力が強すぎない(黒いスプリングで支えられる範囲)場合は決まった位置(ゼロポイント)にブリッジがとどまる。アームダウンをした時は黒いスプリングが伸びてバーの位置が移動することでブリッジが傾斜する。アームアップをした時はバーとブリッジが離れるため普通のフロイドロイズブリッジと同じようにブリッジが傾斜する。
この「弦の張力が強すぎない場合は、ゼロポイントにとどまる」というのが重要で、多少のチューニングやある程度のチョーキングではブリッジの位置が移動しないため全体のチューニングがずれないというメリットがある。チョーキングで全くピッチがずれないということはないのだが、普通のフロートさせたフロイドローズに比べればズレ幅はかなり小さく、ダブルチョーキングをした時の響きの違和感はだいぶ緩和される。
一方で、ある程度のテンションの変化は黒いスプリングに吸収されてしまうため、多少強い力でアームを動かさないとアームダウンができず、アーミングがスムーズではなくなるというデメリットもある。そのためクリケット奏法などはやりにくくなる。
ちなみにZPSの固定用バーとスプリングは、簡単に取り外すことができる。バーとスプリングを外すと普通のフロイドローズブリッジと同じ挙動になる。
ゼロポイントがずれる問題
実はこのギターを購入した当初、ブリッジとバーが接するようにセッティングをすると、ブリッジがやたら前傾してしまうという問題が起きていた。ZPSには所々に衝撃吸収のためか柔らかいフェルトのような素材が使われている箇所があるのだが、どうやら経年劣化でそれらが薄くなってしまったことでバーとブロックが接続する距離が変化し、ゼロポイントの位置がずれてしまっていたようだった。
調べてみるとこの問題に悩まされている人は多数いるようだ。上記のビデオでは、バーの軸受け側を加工することでゼロポイントの位置を補正しているようだが、自分の場合はブリッジのブロック側のフェルト部分をテープで補強する形でゼロポイントを調整した。
上の写真の黄色い矢印で示した箇所が当該の補強箇所で、厚手のビニールテープを数枚重ねて厚さを調整した。このテープも数年したらヘタってしまう可能性はあるが、今のところ問題なく安定して使えている。軸受けをルーターで削るよりは手軽で、リスクも少ないんじゃないかと思う。
レビュー
チューニングがとてもやりやすい
フロイドローズに限らず、ブリッジをフロートさせた状態での弦のチューニングは時間がかかる。一つの弦の張力が変わるとブリッジが動いて他の弦のチューニングが少しずつずれるためだ。ZPSでは一定の範囲まではチューニングをしていてもブリッジの位置が動かないため、ブリッジのスプリングの調整が適切になっていれば、一つの弦のチューニングをしても他の弦のチューニングがずれてしまうということが起きない。そのため、チューニングにかかる時間、安定具合が通常のフロートブリッジよりも大きく優れていて良い。
アームダウンがスムーズではなくなる
アームが半固定状態となっていることで、アームダウンしようとしても一定の力までは補助のスプリングによって打ち消されてしまう。スプリングの張力を超えた瞬間からアーミングが始まるため、どうしてもアームダウンの瞬間がカクッとなるような感覚があり、音程変化のカーブの最初の部分をスムーズにすることが難しい。この問題のため、ロングトーンでアームを使ってスムーズなビブラートをかけたいような時は、神経を使って力加減をコントロールする必要がある。
Edge Proとの比較
このRG350EXZに載っているEdge Zero IIと、自分が以前から使っているRGに載っているEdge Proを簡単に比べてみる。
チューニングの快適さはEdge Zero IIの方が大分優れている。アーミングのスムーズさはEdge Proの方が快適だ。弦交換は、ボールエンドを切らなければいけない分Edge Zero IIの方が若干手間ではあるが、その後のチューニングの手間まで考えるとEdge Zero IIの方が楽かもしれない。
アームの固定に関しては、Edge Zero IIがネジ式なのに対して、Edge Proは力を込めて差し込むだけ。Edge Zero IIでは、Steve Vaiのように演奏の最中に瞬時にアームの着脱をするのは難しいが、一方でネジの締め具合によってアームの固定具合を調整できるというメリットがある。
一概にどちらが良いとは言えないものではあるが、ライブなどではなく普段何気なく手にとって演奏する分には、チューニングのやりやすさという点でEdge Zero IIの方が快適に感じられる。
まとめ
最初、ゼロポイントがずれる問題の把握と対処に戸惑ったが、その点以外はフロートブリッジのデメリットを補うような形で快適にチューニング、演奏ができるシステムでなかなか良いなと思った。アームダウンの開始のスムーズさが失われることだけが残念で、アームを使って柔らかい「揺らぎ」のようなものを作るのがとても難しい。ハードロックやメタルで派手なアーミングをメインに使う場合だったらさほど問題ないと思うが、ネオソウルやフュージョンで使うには若干不便かもしれない。