太宰治の「女神」

「紀川くんはどんな作品が好きなの?」
卒論で太宰治の「人間失格」論を書いている時、
担当の教授からこんな質問をされた。


「えーと・・・」と考えて、
その頃一番気になっていた、
太宰治の「女神」という短編が好きだと答えると、
「女神?女神なんて、
たいした小説じゃないよ・・・」とその教授が言った。


その教授にとっては
模範解答があったようで、
彼の口からは「ヴィヨンの妻」や
「斜陽」などの小説名があがった。


もちろんそれらの作品も読んでいたが、
卒論の準備のために他の作品も、
かなりの数(全著作のほぼ9割程度)を
読んでいて、その結果、
自分にとって一番印象に残った作品が
「女神」だったのだ。


別にそれでいいじゃないですか、
自分から質問してきて、
自分の想定していた答えではない、
答えがかえって来たら不機嫌になるなんて、
それが大学教授のやることかよと思い、
一気にその人を信用できなくなった。


こういうのをアカハラというのか?
なんとかその大学は卒業できたが、
その学歴が役に立ったことはないし、
自分の息子が大学に行こうとしていた時にも、
いまいち積極的に応援する気になれなかった。


「女神」というのは、
戦争で苦労し過ぎて、
ちょっと頭がおかしくなってしまい、
自分の妻のことを
女神だと妄想するようになった男の、
滑稽な感じの、
しかし笑うに笑えない、
戦争や国体や信仰に関する、
懐疑がテーマの小説である。

そういえばその担当教授はキリスト教徒だったので、宗教にからむテーマには「聞きたくない」という症状が発症していたのかもしれない。

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