キンモクセイと沈丁花

最近、どこからともなく、
キンモクセイの香りが漂ってきますね。

子供の頃、通学路で嗅いだ、
春先の沈丁花の香りと、
秋のキンモクセイの香りは、
遠くなつかしく、不思議な香りで、
まず最初は「何の匂いだろう?」と、
不思議でたまらなかった。

数年経って、
毎年同じような頃に漂う香りだと気づき、
それが花の香りであると知ったのだ。

子供にとって、
自分の身の周りで起こっていることというのは、
本来はこのようなゆっくりとしたスピードで
認識されていくのであろう。
最近はなんでもスピード重視だ。

最初子供は
自分が良い香りを嗅いでいることに気が付いていない。
そして数年経って、
そういえば毎年この季節に、
学校に行く途中、
どこからかいい匂いがしてくるなと気付く。
更に数年経って、それが花の香りのようだと気付き、
そしてキンモクセイという名前を知るのだ。

少なくとも僕はそうだった。
そして「なぜだろう?」と思ったのである。

なぜこの花はこんなに良い香りがするのだろう、
そしてなぜ、この家の人はこの木を庭に植えているのだろう。

不思議でたまらなかった。
近くを通る人のために、
純粋に善意で植えているのだろうか、
そうだとしたら、街角にさりげなく存在する、
この「善意」というものに
何か「温かさ」というか、
人を信用したくなるような「何か」を感じていた。

僕は秋に街角でキンモクセイの香りを嗅ぐと、
それがどの家の庭に植わっているかを必ず探し、
きっとその家にはいい人が住んでいるに違いない、
と思って、一人でニヤリと笑っていた。

今はもう香りを楽しむだけで、
どの家に咲いているかまでは探したりしないけど、
今でも秋になって、
どこからかキンモクセイの香りが漂ってくると、
僕はちょっと安心して、
温かいような気持ちになれるのだ。

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