よくできた怪談
僕の奥さんの実家は熊本市内の小さな駅前で小さな不動産屋をしている。その店に出入りしている内装工事屋さんから聞いた話。
ある家で内装工事を頼まれ、
作業していたら、
背後の部屋をおじいさんが通り過ぎたという。
この家におじいさんなんていたっけ、と思ったが、
隣りの部屋を通り抜けて、
裏口から外へ出たんだろうと思った。
しばらくして隣の部屋を確認してみると、
外に通じる裏口などなかった。
気味が悪くなって、
二階に上がってみたら、
西陽が射しているわけでもないのに、
部屋全体がオレンジ色をしていた。
その日の作業は中止して家に帰った。
次の日の朝早く、
あまり行きたくなかったがその家に行くと、
すでに鍵が開いていて、
畳屋さんが作業していた。
安心して自分の作業の続きをやり、
畳屋さんより先に作業が終わって、
帰る用意をしていたら、畳屋さんが、
自分ももう少しで作業が終わるから、
それまで待っていてもらえませんかと話しかけてきた。
朝から作業している間、
ずっと人の気配がするので、
気味が悪くて一人になりたくない、というのである。
これはこのまま、
「新耳袋」の中の一話であっても、
違和感がないくらい完成された怪談である。
確かに奥さんと一緒に空き部屋の確認に行ったりすると、
不思議な人の気配を感じることがある。