実家のマンション

去年の12月31日の夕方まで仕事があり、
それからすぐに福岡に向かいました。
道路が空いていたので、
午後7時頃には福岡に着き、
実家で父と母と過ごしました。

うちの奥さんが父の酒の相手をして、
僕は23時頃には疲れて寝てしまったのですが、
年を越した24時30分くらいに、
奥さんから「大変、大変」と起こされました。

奥さんも父もしこたま酔っていて、
ベッドに移動しようとしていた父が、
床に転倒してそのまま寝てしまったようです。

奥さんと2人で父を支えて
ベッドまで連れて行き、
奥さんを客間の布団の上で寝かせたら、
今度は何故か父が起きてきて、
テレビのリモコンと
部屋の灯りのリモコンと
エアコンのリモコンを
交互にパチパチ押し始め、
テレビや灯りやエアコンが
点いたり消えたり、
収拾がつかない状態になりました。

それを見ていると背後で何か気配がして、
奥さんが起き上がってゲロを吐きはじめました。
奥さんを洗面所に連れて行き、
顔を洗わせて布団に寝かせる間も
父は何かうめき声をあげながら、
そのあたりの引き出しを
開けたり閉めたりしていました。

僕はそれらの様子を動画に撮り、
東京在住の妹にLINEしたりしていました。
父は一時間ほど何かと格闘した末に、
やっと部屋に戻って寝てくれました。

次の元旦の朝、ヘルパーさんが
お雑煮を作りに来てくれて、
奥さんも父もなんとか起きてきて、
僕たちは逃げ出すように実家を後にしました。

息子のハルにちょっとだけ会ってお年玉を渡し、
具合の悪そうな奥さんを連れて
熊本に戻って来ましたが、
その間妹とLINEで連絡したりして、
僕が今の仕事を辞めて、
福岡で両親の面倒を見ようか、
というような話になりつつあります。

ちなみにこの様々な悪夢のような、
出来事が起こった僕の実家のマンションは、
地元福岡県の春日市では「自殺マンション」と呼ばれている、
いわく因縁付きの事故物件だ。

僕がこのマンションに住み始めたのは、
昭和55年頃、中学一年生の時だ。
当時は新築マンションで、
ほぼ最後の一戸というような感じで売れ残っていた。

会社の社宅を転々としていた我が家が、
ついに定住の場所を決めたわけなのだが、
転居から1年も経たないうちに最初の自殺者が出た。

亡くなったのはマンションの住人ではなく、
近隣の人がマンションの廊下から飛び降りた。

当時の春日市では
11階建ての高層マンションはまだ珍しく、
オートロックも付いていなかったので、
誰でも簡単に出入りできたのだ。

それから数年の間に3人が飛び降りて、
マンションでも自警団を作り、
交代で夜回りをしたりしていたが、
僕も高校生の頃、
その夜回りに参加したこともある。

それでも自殺者は絶えず、
自警団や管理人が未然にくいとめた件も何件もあった。
一度は9階の僕の自宅のベランダに、
2軒隣りの家から、
ベランダの柵を乗り越えて、
ベランダ伝いに歩いてきた人が、
柵にしがみついて立っていたのを
保護したこともある。

僕もそのマンションに住んでいる頃、
ひんぱんに金縛りにあっており、
高校の同級生のKも、
うちに遊びに来た時に
部屋の中で何か得体の知れないものを見ていて、
それ以来うちに来たことはなかった。

「自殺マンション」の一連の事件は
僕が社会人になってそのマンションを出た後も続いていて、
ついに5人目が飛び降りて亡くなった時に、
何があるのか知りたくて、
霊能師匠のYさんに聞いてみた。

Yさんはしばらく霊視して、
「そのマンションの土地は、
かつて磐井一族という豪族が
そのあたりを支配していて、
その時に処刑場として使われていた土地だね」
と教えてくれた。

今回色々あった時にも、
うちの奥さんはマンションの部屋の中で、
「得体の知れない黒い何か」を見ているそうだ。
それは死者の霊というようなものではなく、
「何か妖怪のような邪悪な存在」だったそうだ。

まるで小野不由美の「残穢」のような話である。

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