せつない思い出
最近ふと頭をよぎるせつない思い出がある。
それは多分、中学二年の夏休みのことだ。
僕は中一の夏休みに、
島根県の松江市から福岡に転校してきた。
その次の夏休みに、
松江の頃の友達が福岡まで会いに来てくれて、
そのまま一緒に、父の実家の鹿児島に行ったのだと思う。
母方の実家は石川県の金沢にあり、
僕はそこで生まれているので、
金沢の親戚とはなじみが深かったのだが、
父方の鹿児島とは疎遠で、
僕は子供の頃に数回行ったことがあるだけだ。
父の実家は文房具屋で、
父が長男で弟が二人おり、
上の弟が支店を、下の弟が本店を継いでいた。
今はどうかは知らないが、
父の時代の鹿児島では、
長男が家督を継ぐという考え方が強く、
長男である父が家を出て、
二人の弟に家業を任せるというのは、
特殊なことだったようで、
そのせいもあって疎遠だったのかもしれない。
とにかく僕は数えるほどしか行ったことのない父の実家に、
学校の友達と一緒に遊びに行っており、
ちょうどその時、二軒の文房具屋の従業員が、
慰安旅行に行く日程と重なった。
貸し切りバスで日田のあたりにブドウ狩りに行ったのだが、
ちょうど帰り道ということもあり、
僕たちもそのツアーに同行させてもらった。
ほとんど初めての父の親戚との交流、
初対面の小さないとこなどもいたのだが、
どれが誰の子供かもわからなかったし、
もしかしたら従業員のお子さんだったのかもしれない。
僕と友達の二人以外はみんな顔見知りの仲なので、
僕達は居心地の悪さを感じながらバスの片隅に座り、
早くこのイベントが終わらないかと願っていた。
往きの道中、バスの中で、
お弁当とかお菓子などが出たのだが、
誰かがデザートにとブドウを持ち込んでいた。
そのブドウはマスカットだった。
ブドウ狩りの農園に着いたが、
そこのブドウは巨峰だった。
ブドウ狩りが終わり、
それぞれが獲ったブドウを集計する時、
小さな子供たちが、
熟れる前の緑の巨峰の房を、
たくさん摘み取っていた。
バスの中で食べたマスカットに似ていたからだった。
「バスの中であんなブドウを出すからだよ」と、
父が吐き捨てるように言った。
その時の叔父の残念そうな顔が忘れられない。
僕達はそこで一行と別れて福岡に帰ったのだが、
その道中のことはまったく覚えていない。
父と一緒に鹿児島に行ったのはこの一回きりか、
もしかしたらもう一回くらい幼い頃にあったのかもしれないが、
そちらのことはまったく覚えていない。
それから約10年後、
バブルの狂乱で投資に失敗した下の叔父は、
父の実家も文房具屋の社屋も債権として取られ、
そのまま夜逃げしていまだに行方不明である。
保証人になっていた上の叔父は、
失意の中、数年後に自宅の浴槽で溺死した。
父方の祖父母は弟が夜逃げした時に、
福岡の父が引き取ったが、
二年の間に二人とも相次いで亡くなった。
父の弟二人には、僕と同年代の子を含めて、
7~8人のいとこがいたのだが、
今どこで何をしているのか一切知らない。
こう書くとなんかドラマみたいですね。