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匂いは人の人たる所以

アトランティス時代、
かつて科学が今より進歩していた頃、
精巧なクローン人間も造られており、
実際の人間と区別することも不可能なほどだった。

肌の質感や人間的立ち居振る舞いまで、
完璧にコピーされて作られていた。
唯一再現できなかったのは、
匂いを感じ取る能力で、
これだけはプログラムすることができなかった。


それで人間とクローンを判別するために、
その部屋に匂いのついた空気を注入し、
それに反応したのが人間、
無反応だったのがクローン、
という判別方法があった。


「ブレードランナー」に、というか、
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」に出て来る、
フォークト・カンプフ感情移入度検査法は、
被験者に、ある種の倫理的感情に訴えかけるような質問、
「あなたには小さな男の子がいます。
男の子はあなたに蝶の標本と
蝶を殺すための毒瓶を見せてくれました。
あなたはどうしますか?」
「テレビを見ていたら、
突然腕に蜂がとまっていることに気づきました。
あなたはどうしますか?」
「砂漠を歩いていたら亀が来て、
それをひっくりかえすと砂の上で足をばたつかせる。
どうしても戻れないが、
あなたは亀を助けない。なぜか?」
「このカバン、しゃれてるだろう?
赤ん坊の生皮なのさ」
「君は食事している、メインディッシュは〇〇で、
デザートには茹でた犬が出る」
などの問いかけをし、その時の相手の、
瞳孔の収縮速度や呼吸の乱れなどによって、
人間かレプリカントかを見分けるのだが、
この設定は非常に秀逸というか、
ディックのディテールはSF小説の域を超えている。


それを映像化したガジェットも素晴らしい。
そんなディックでも、
嗅覚の有無というアイディアにまでは、
思い至らなかったのだろう。

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