我が家の生霊事件

「我が家の生霊事件」

 その日の夜、お風呂からあがったうちの奥さんが、洗面所でなにやらワアワア騒いでいるので、なにごとかと思って行ってみたら、髪が濡れたまま、目が真っ赤に充血して、わけのわからないことを言っていました。

 それは、「ああ、そうだったんだ、今日やっとわかった」というような内容でした。その話を要約すると、お風呂あがりに突然具合が悪くなったのだが、実はここ2年くらいの間に、そういう事が起きたのは今回が三回目で、どこか身体の具合でも悪いのかと自分でも心配していたのだが、その原因がやっと今日わかった、というような話だったのです。

 それは、一回目が一番ひどく、その時僕は外出していていませんでしが、気が付いたら奥さんはトイレの中で裸で気絶していて、倒れる時に便器に頭をぶつけたらしく、頭にコブができていたそうです。

 二回目の話は詳しく聞いていませんが、三回目がその日の夜のことで、三回目にしてやっとわかったことは、誰かの「生霊(いきりょう)」が来た、ということだったそうです。

 その後、奥さんはダメージを受けてすぐに寝てしまったので、一夜明けて次の日の朝、もう一度その話を確認したのですが、一回目と三回目については誰の生霊が来たかもわかったそうです。

 奥さんがお風呂に入る前に僕と、「Aさんが、Bさんと仲がいいことで、周りのみんなから妬まれているらしいんだけど、CさんとかDさんたちも同じような感じだよね」というような話をしていたのですが、来ていたのはそのCさんの生霊だったということでした。

 生霊にもルールがあるらしく、霊体でどこでも通り抜けられるからといって、自由に誰の家にでも出入りできるわけではなく、その人のことが話題になっていたりしたら、そこに「来れる」のだそうです。

 それは「怖い話をしていると霊が寄ってくる」というのと同じようなことだそうです。うちの奥さんは不思議な霊感体質で、いつでもどこでもそんな体験をするというわけではなく、このように、何回か同じようなことを体験することによって、徐々にその真相を知っていくというようなやり方で、少しずつ、あちらの世界のことを学んでいっているようなのです。

 次の日、仕事中の僕の携帯に奥さんから電話があり、昨夜の事について話したいと言うので、それでは晩飯でも食べながら話しましょうということになり、奥さんが「昨日のダメージがまだあるので、景気づけに焼肉を食べたい」と言ったので焼肉屋で待ち合わせました。

 別に家に帰れば会って話せるのですが、一刻も早く会いたかったのだそうです。焼肉屋で奥さんは、昨夜の生霊事件のダメージにより仕事でも凡ミスをしてしまって、取引先のお客さんのところにあやまりに行かなければならなくなって、その帰りに僕と合流することにしたのだと言った。

 僕が「なんでCさんの生霊だったってわかったの?」と聞くと、僕と会話をしている時に、「Aさん」と言わなければならない場面で、なぜか「Cさん」と言い間違えてしまうことが何回かあったので、それで、「ああ、Cさんが来ていたんだ」と思ったのだそうです。これが我が家の生霊事件のあらましです。

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